《魔法陣を描いたら転生~龍の森出の規格外魔師~》32 條件とお願い
サンサイさんに勧められて客間部分のソファーに腰を下ろす。
4人座れる大きなソファーが長機を挾み対面するように2つ並び、片方はサンサイさんが座る。
俺たちの方はリリー、セレーナ、俺、アカネの順で座った。
最初、リリーが俺の右隣に座ろうとしたらアカネが割り込み、反対に座ろうとしたらセレーナが「ごめんね」と言って割り込むという一悶著があった。
席順でめるとか小學生か! と、ツッコミたいところだけど、そんな場合ではないし、そもそも伝わらないので、心の中でリリーに謝った。
ナータさんはサンサイさんのし後ろで待機している。
「さて、々聞いてみたいこともあるんだけど、単刀直に言っちゃおう――何が目的だい?」
線のように見える目がし開き、俺を見定める。
悸がし早くなって冷や汗が流れる。
魔獣とはまた別の、獨特な威圧プレッシャーが俺を襲う。
魔獣に殺気を向けられる方がまだいいとさえ思えた。
そんな時、隣にいたセレーナが俺の手をぎゅっと握る。橫目で見たが、セレーナも張しているようで無意識に握っているみたいだ。
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不思議と俺の張は消え、安心させるようにセレーナの手を握り返し、俺は意を決してサンサイさんの問いに答える。
「お金がしいです!」
「ん?」
「お金がしいです!」
「いや、聴こえてはいるよ? お金? Gゴールドってこと?」
「はい! 俺・たちお金がないので」
何か吹っ切れて素の口調に戻る俺。
「それだけ?」
「それだけ」
「本當に?」
「本當に」
しばらく沈黙が続く。
凄みがあったはずのサンサイさんの笑顔は、今は若干の戸いと苦笑いを含んでいるように見えた。
迫はとうに消えて、誰かが空気の読めないことを言った後の微妙な雰囲気が部屋を満たす。もしかしなくても原因……俺?
サンサイさんは何かが決まったような様子で、笑顔と凄みを取り戻した。
「わかったよ。お金は用意しよう。ただし、條件・・とお願い・・・があるんだ」
「條件とお願い?」
「そうそう。まず條件は冒険者としてギルドに登録すること。冒険者ギルドの登録には冒険者と一般者の2種類あるのは知ってるかな?」
「いえ、知らないです」
「まず一般者だけど、これはお金を払ってくれれば誰でも登録できる。登録すれば依頼、買取といったギルドのサービスが利用できるようになるよ。あとはギルドからギルド証が発行される」
補足でリリーが「僕も一般者で登録してます」と教えてくれた。
一般者登録をすれば基本的なギルドのサービスを利用できるようだ。料金は1人5萬G。
「次に冒険者。冒険者は一般者と違い、登録する際に戦闘試験がある。それは冒険者には一般者からの依頼を遂行する義務・・・・・・・・・があって、その中で戦闘する可能・・・・・・・があるからなんだよね」
その代わりに冒険者にはギルド証の発行が割引されたり、提攜しているお店でのサービスが利用できるようになるらしい。
「でも依頼を遂行する義務があるんですよね?」
「そうだね。でも簡単、簡単。魔獣をやっつけてーとか、素材をとってきてーとかそんなじだからさ、安心してよ」
その割には、サンサイさんが言った義務・・という言葉には重みがあるような気がした。
「ただ、10日に1度は依頼を遂行してねっていうノルマと、僕を含めた支部長のお願い・・・を聞いてもらうっていうルールはあるんだよね」
「お願いは絶対にやらないといけないんですか?」
「いやいや、絶対ではないけど――できないお願いはしないから」
サンサイさんは一瞬真剣な顔をつくるとすぐにニコッと笑った。
本當に気が抜けない。
軽い調子で話すくせに、時々迫力があるからたちが悪い。
「それに君たちにも関係する・・・・・・・・・と思うんだよね。そこで僕からの“お願い”っていうのはね、ある調査・・なんだよ」
調査という言葉を聞きドキッとする。
たぶん顔には出ていないはず……。
サンサイさんは俺たちの詳しい事は知らないはず。だから、たまたま調査という言葉を使ったに違いない。
「調査というのは?」
「近頃、『龍』の目撃報が多く寄せられていてね、その存在を突き止めてしいわけだよ」
龍の目撃報。
確かに龍帝國の報を集めたい俺たちにとって関係のある話だ。
だけど、何でサンサイさんは俺たちと龍が関係していると思ったんだ?
俺たちの素がバレるようなことはしていない……あ、してる。
完全にわからなくても、関係があると思わせるきっかけを俺はつくってる。
俺、最上級魔獣の素材を売ろうとしてるんだった。
龍は最低でも最上級下位の強さを誇る。
俺は現狀、サンサイさんから見て自稱魔師の謎の最上級魔獣ハンターという訳のわからない立ち位置なんだよな。
龍(最上級魔獣)が出現したから俺が來たとさえ解釈できる。
「それじゃ改めて――條件とお願いをけれてくれるかい?」
「はい!」
「えっ、即答?」
サンサイさんの目が見開き、「もうちょっと悩むと思ったのに……」と何か足りない雰囲気を醸し出していた。
「……何はともあれ、これからよろしくね。ユーリ君、セレーナちゃん、アカネちゃん、リンリーちゃん」
サンサイさんが手を差し出す。
「よろしくお願いします」
俺が握手をして、その次にセレーナが恐る恐る握手をする。アカネは握手する気がないらしく、仕方なく次にリリーが握手をした。
それから冒険者の試験日程などについての説明は1階下で行うとのことだ。
リリーが何かぼやいていたが聞かなかったことにして、俺たちはナータさんに続いて退室する。
***
ユーリたちが退室した後の支部長室。
サンサイはソファーに深く座り長い溜め息を吐いた。
「底が見えなかった」
サンサイの顔に余裕はない。
ユーリたちに見せたような笑顔はしばらくつくれそうになかった。
「あの魔力量、人の皮を被った魔獣と言われた方がまだ納得できる」
サンサイにはれた相手の魔力量を測る力がある。
しかしサンサイはユーリ、それにセレーナの魔力量を測定することはできなかった。そんなことは今まで1度もなかった。
まるで海の水量を測っているような無謀さに打ちのめされた気分だった。
「冒険者になってくれると言うが、どこまで効力があるか……」
冒険者となることで発生する制限がユーリたちを抑制し、コントロールできるまでに至るかは不明。
サンサイは數多いる支部長の中でも切れ者と評されるほど優秀な人だ。
現に龍の森(ユーリたちの集落がある森)に最も近い街、パンプキンの支部長に任命されているのがその証明だ。
龍の森近辺は魔獣が多く、龍の森にはより危険な魔獣がいるとも言われている。
仮に龍の森から厄災獣カラミティ・モンスターが襲來した場合、最初に対応を求められるのがパンプキン支部だ。王國の門番として防衛することが求められる重要な場所である。
そんな重要な役目を任せられているサンサイでも今回は手を焼きそうだと思ってしまうのであった。
「運というものはあまり好きではないけど、今回ばかりは自分のツキを信じるしかないな」
読んで頂きありがとうございます!!
更新が遅くなり申し訳ありません……。
次話はもうし早く更新できるように頑張ります!
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