《シスコンと姉妹と異世界と。》【第59話】眠れない夜

「まぁ、お楽しみと言ってもそんなに大したことをするつもりは無いんだけどね〜」

「はい……」

アリスさんはお兄ちゃんをどうするつもりなんだろう。今のお兄ちゃんは、おとぎ話の眠り姫のようにスヤスヤと寢息を立てているだけだ。

「ローズちゃんは自己強化魔法って使える?」

「使ったことは無いですけど……」

「そっか。じゃあコツを教えるね」

「え? アリスさんって魔法って苦手なんじゃ……」

「使えないことはないんだよ。ただ、どうしようもなくわたしは剣が好きで、いつかエリーゼを『參った』と言わせてみたいんだ。だからそういう學してそのまま、ね」

「なるほど……」

「いざ敵と相対した時には、速さがモノを言うとわたしは信じてる。先に一撃をれた方が立っていられる。その資格がある。そういうものなんだとね。でもわたしはだからさ、筋力とかで男に負けるじゃん、どうやっても。それを魔法で補助するわけなのよ」

「なるほど……」

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「ローズちゃんさっきから、『なるほど』しか言ってなーい。で、強化魔法のコツね」

「お願いします……!」

「マナを頭から送り出して、管を通して筋に落とし込むっていうか……満たすっていうか……。まぁそんなかんじかな」

おお……アリスさんがちょっとってるように見える。全をマナで満たすってそんなじになるのかあ。なんか神的な存在みたいでキレイ。

「マナを満たす……満たす……右腕……左腕……右腳……左腳……」

「流石に凄いわね……。赤い綺麗な髪が逆立ってしまってるわ。まるでどこかの戦闘民族の覚醒レベル4みたい」

「なんですか? それ」

「分からないわ。ただ思いついただけだから、特段気にする必要も無いから。じゃ、ショーくんを運び出すわよ」

「はい。でも何処へ?」

「わたしかローズちゃんのベッドの上に、ね。あともうしマナを抑えてくれないと、エリーゼが起きるかもしれないし、ショーくんを持ち上げた途端に天井を突き破って空高く舞い上がってしまいそうだから、お願いね」

天井破ったらどっちにせよお姉ちゃん起きるよね……。

「このくらいですか?」

うすーく表面を覆うぐらいの覚。側から満たすというよりは、外側にを1枚る、みたいな。

「うん。とりあえず強すぎなければいいわ。強過ぎるくらいならいっそ弱い方がいいもの。わたしが肩を持つから、ローズちゃんは足をお願い。強く握ったら足首の骨が折れるかもしれないから、卵を扱うくらいに、カツラの人に対する心配りくらい優しくしてあげてね」

「例えがなんか酷いです……」

「じゃあいくよー。せーの」

「せーの」

お兄ちゃんを2人で持ち上げ、とりあえずわたしのベッドの上へ著陸させた。

「次はわたしのベッドをローズちゃんのベッドとくっつけるわ。そっち側を持ち上げてくれる?」

これはさすがにお兄ちゃんより重いもんね。しマナを強くしなきゃ持ち上げられないかも。

「はい。大丈夫です! せーの」

「せーのっ。ってやりすぎやりすぎ!!」

アリスさんが焦るのも無理は無かった。ベッドが天井ギリギリまで跳ね上がったのだから(もちろんわたしが持ってた方だけ)。

「あ、すみません……。ここでいいですか?」

「何はともあれ、これで準備完了よ」

「これだけですか?」

「これでじゅうぶん☆ これなら3人川の字で一緒に寢れるじゃないの〜。ローズちゃんにとっても悪い話じゃ無かったでしょ?」

「まぁ、嬉しくないって言ったら噓になります……」

「よろしい。あ、それとこれは真面目な話だけど」

なんだろう。そんなじで話してるところは今までで見たことない。初めて見るアリスさんの表が新鮮だった。

「クラリスはあんなだったけどメイドとしてはうちでも指折りの人材なの。おそらく學校で指導する時も厳しく容赦ないかもしれないけれど、発聲やおじぎの角度、歩き方なんかも騎士校に通うとして役立つことが多いはずだから許してあげてね」

「許すもなにも、教えてもらうのはこっちですから……。上下関係がそこではっきりしてる方が雙方やりやすいと思いますよ」

「なんかほんとに年下なのかと思っちゃうくらい、貴方達はしっかりしてるわよね〜。……それとね」

アリスさんが一呼吸置いてから言葉を紡ぐ。

「この世界の魔法ってそんな複雑怪奇なものじゃないのよ」

「ふぇ?」

「結果を明確に想像出來れば、詠唱なんてみみっちいものなんて要らないってこと。発の合図だけしてあげればできるものが大半なのよ?」

「……唐突な凄い話についていけてないです」

「さっきローズちゃんも自分でやってたじゃない。筋をマナで満たす、って想像をして自己強化魔法という結果を得たでしょ?」

「そう言われてみれば……」

「多分ショーくんが急に力をつけたっていうのは、この世のこの理に気付いてしまったからじゃないかな?」

「でもそんな話聞いたこと……。お兄ちゃんからも」

「それはそうよ。この理が世界に広まれば、この世界はすぐに爭いが始まるはずよ。先人達から呪文を教わること無く、誰でも好きなように魔法が使えるようになったら、いずれ人はその力を試す。そしてその火のは他人に降りかかり、更なる火種となる。そうして戦火に包まれていく、なんてことにもなるかもしれない。ショーくんがそこまで考えたかは分からないけど、周りに言いふらしてないならそれは正解よ」

「じゃあ學校で習ってるのって……」

「魔法を使う上ではあまり意味が無いことね。剣とかに関しては実力がモノをいうんだけど。呪文の詠唱っていうのは、明確な結果を想像し、創造することへの繋ぎ役にしか過ぎないのよ。超サイヤ人になるためのクリリンのようなものね」

「アリスさんがそれを言うのは々とマズイと思うんですけど……」

「口が無意識にってしまっただけだから、気にしないでいいよ」

「でも、どうしてこの話をわたしに?」

「それはね……」 

「あなたの事を守るためよ、ローズちゃん」

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