《シスコンと姉妹と異世界と。》【第139話】北の幸②

「こいつぁ……」

確かテレビで観たことあった!

「イカ釣りだーー!!」

アリスさんのテンションも上げ中だ。まるで石油コンビナートに大引火したかのような。まぁ、この世界には無いんだけども。

「これって釣ったら、そのまま食べていいんですか!?」

というローズの聲を、

「釣ったらお店の人が捌いて出してくれるわ!!」

かき消すようにアリスさんが答える。にしても何で、こんな急に元気になったんだろか……。

「どうしたんだアリス? やけに気合がっているな……」

「いやー、わたしさ、イカ大好きなのよ。食も……匂いも」

答えはすぐに出たのだが、

「何でこっちにウインク飛ばしながら言うんすか……」

「さぁ、特に深い意味は無いわよー? ショーくんの考え過ぎじゃない!?」

ザ意味深、といったじだったんだが気のせいだったのだろうか。……、溜まってんのかな、俺。

「おっちゃん、一人いくらですか?」

「一人いくらってより、一杯釣るごとに三百円ってとこさな。戻すわけにもいかねえから、釣った分は責任もって食べるなり持って帰るなりしてくれい」

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「安っ!? 大丈夫なんすか……?」

「まァ、うちは他の魚も出してるからな。そっちもちょろっと頼んでくれたら、って寸法よ」

「なるほど、これで釣られてるのはイカじゃなくて俺らの方だったんすね」

「兄ちゃん上手いこと言いやがるなぁ。よっ、座布団一枚!」

「妹ひとり分無料タダの方が座布団よりイイなぁ」

「妹ったら、そこのちっこいのかい。まぁ、それくらいならいいわ。兄ちゃんに免じてな」

(……、計畫通りッ!!)

ノートを使わなくても、このおじさんは死んだかもしれない。そう思うと、しばかり良心が痛んだ。でもまぁ……、

「ローズ。おっちゃんのご好意でお前の釣った分は無料にしてもらえることになったから、値段気にせず好きなだけ腹いっぱいに食べていいからな」

「本當!? やったー! ありがとうございます」

ローズが頭を下げると、おじさんはとても嬉しそうだった。まぁ可い子にお禮言われて嬉しくない人間もそうはいまい。

およそ一時間後。

想定通りの悲劇が起きた。ローズの食いっぷりを見ていた店長さんは、生け簀からイカが釣り上げられるたびに、ローズの前に空いた皿が積まれるたびに、それに比例して店長がイカのように白くなっていった気がした。

「ご馳走様でした……。なんかすみません」

一足先に席を離れ、店長さんに謝りつつ支払いを済ませる。ちょこちょこ小さな依頼で小銭は稼いでいるし、九尾討伐による報酬もある。普段特にお金を使う機會が無いから、大した痛手ではない(もちろん、普通の食事としてはかなり高額の部類だが。銀座位の値段にはなってしまっていた。ローズのせいで)。

「いや、こっちも人は見かけによらないってのを思い知らされたし、いい勉強させてもらったじゃ……」

「「はぁ……」」

ため息のユニゾン。

「でも兄ちゃんもアレだな。あんだけ食べる妹の面倒見てるんだろ? 兄貴ってのも大変だな……」

「まぁ食費に関しては大変ですけど、本當においしそうに食べる妹を見てると癒されますしね。それに、場合によっては先輩方が奢ってくれますし……」

みんなで食事に行くとなると、大先輩方の財布は男気ジャンケンの時のように大きく膨らんでいることが多い。誰が奢っても支払いきれるようにと備えているのだ。

學校生活では、食堂があるからローズはそこで自腹切って食いまくってるし、俺は俺でお姉さん方がたまに弁當作ってきてくれたりで世話になっている。こないだモーリスが自作の弁當を食わせてくれた時は驚きを隠せなかった。イケメンでかつ料理上手。朝番組のお料理コーナーやってた俳優さんの生まれ変わりかな、なんて思ったりした。

「まぁ味いものを味いって言って食べて笑顔になってくれるのは、こっちとしても嬉しい限りなんだがな。まぁまた、來年にでも來てくれや」

「じゃあ年明けにでも……」

「……もうし間を開けてくれ」

店長の本音だった。追い詰められると人は本心をらすことが多いとされるが、まさにその典型例と言えるだろう。

ただ、この人とは分かり合える気がして、

「……兄ちゃん、がんばんな」

「……、ありがとうございます」

ガッチリと漢の握手をわした。

「お會計は済ませたので、そろそろ件くだんの宿の方へ向かいましょうよ」

皆も食べ終えたようで一息付いている所へ聲を掛けた。

「えっ!?」

すると一匹の獣だけは、お預けをくらった犬のように驚愕の表を浮かべていた。

俺は強化魔法で腕力を強化、そのまま獣の両腕を引っ張っていくことにした。終わってみれば、不思議と抵抗しなかったのだが。

「ねーねーアリス。こっから見に行く宿まではどんくらいかかるの?」

一行がロータリーに戻ってきたところで、サニーさんが口を開いた。

「ざっと馬車で七、八分くらいかな?」

「近っ!?」

アリスさんの答えに、サニーさんはお笑い蕓人のようにズルッといったリアクションを見せた。

まぁ実際、信號とか自車とかは現狀存在していないので、列車以外の腳となると馬車か徒歩といったところ。だから移による渋滯だったりはほぼ起こらない。大名行列とかがあるわけでもなし。

「おかえりなさいませー、お嬢様」

執事さんが馬車の扉を開けると中からはこんな聲が。妙に気の抜けた聲だが聞き覚えがある。それもそこそこ最近だったはず。

「マリーさん、こんにちは」

気付いたローズがひと足先に挨拶。それに続いて全員がぺこり。

聲の主はアリスさんの叔母でアラサー(二十代側)のマリーさん。アリスさん一家の経営する箱の宿で若將を勤めていたと思ったら、九尾討伐の際に使ったホテルにもいた。そして函館と思しき今回。どうなっているんだろう。

「マリーさんってなんなんすか? 分裂でもしちゃってるじなんですか?」

思わず、いてもたってもいられず、聞いちゃった。

「なぜ毎度毎度現れるのかってこと? それはね、ショーくんに會いたいからよー!!」

……、今回の旅もお気楽に楽しむことは出來なさそうだった。

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