《シスコンと姉妹と異世界と。》【第140話】北の幸③
「ショーくんに會いたかったからよー」
とまぁ、アリスさんの叔母たるマリーさんが仰っているわけだが、
「実際のとこどうなんすかアリスさん?」
「暇だからじゃない?」
「いくらだからってその扱いはあんまりじゃない!?」
マリーさんが悲鳴をあげる。確かにあんまりだと思う。
「まぁざっくり言えば、マネージャー兼アドバイザー的なじで各地の直営店を転々としてるってじかな」
「ん? でもそれって、今アリスさんがこうしてここに來てるのと役割とかが被ってきません?」
実際問題として、アリスさんはその為にわざわざ東京から函館まで來ているのだし(俺らも付き合わされてるのだし)。
「わたしが學生のである以上、ある程度の拘束時間は避けられないからねぇ……。それに各地を一人で回りきるのはちょっと厳しいからね」
「なるほどなるほど。そこで叔母さんに白羽の矢が」
「次その呼び方したら目ん玉に矢が立つわよ?」
マリーと呼べ、という事だ。怖すぎてリアクションの一つも取れない。思わず隣に立っていたローズの手をぎゅっと握ってしまった。
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「いたっ」
「うわっ、すまん。つい。……………………、ん?」
慌てて手を離そうとするが離れない。答えは明白で、俺が手を開こうとしてもローズが手をグーのまま握りっぱなしで離してくれないのだ。パーがグーに負けている狀態である。
「あの、ローズさん?」
眼球だけかしつつおそるおそる尋ねると、
「寒いからこのままでいて?」
「……、手袋してますやん……」という言葉を飲み込み賢明の沈黙。続けて頷き了解の意を示す。
「それじゃ、出発するわよー」
マリーさんのすっかり毒気の抜けた聲を合図に馬車へ乗り込んだ。
十分ほど経ったところで馬車が停まり、扉が開かれた。
「さっ、著いたわ」
アリスさんに続いて馬車から降りる。結局手を繋いだままのローズのエスコートも忘れない。
目の前に現れたのは八階建てのホテル。俺らが普段過ごしている學生都市(文字通り學校が多く並ぶ街で、人口の半數以上が學生らしい。八王子、日野、町田、府中、國立、國分寺、多が一つに纏まった位の面積を誇る)にもこの高さの建はそう無い。
まるで雪の壁だ。
「さぁ、早く中へりましょう」
マリーさんに促されるまま、正面玄関へ向かう。先頭のマリーさんがドアの前に立つと同時、ドアが左右に自で開かれた。マジかよ……。
「自で開いたぞ!?」
姉さんの聲がロビーに反響する。思いがけず大きな聲を出してしまったことで、姉さんの顔が真っ赤になっていることだろう。
そんな姉さんを気にも留めず、俺たち一行はロビーで簡単な歓迎をけた。
「本格的にオープン前だから、人も準備を進める側の人間を集めてるからまだ人がないのよ」
アリスさんがそう説明してくれるが、それでも左右五人ずつ並んで頭を下げられていたのだが。フルパワーで何人が挨拶の為だけに並ぶのだろうか。無論、特別ビップな客の場合に限るのだろうが……。
マリーさんがフロントへり、鍵を持ってきた。
「ほいこれ。それじゃわたしはまだ仕事が山積みだから戻ります。あっ、荷は各自の部屋に置いてあるからねー」
そう言って俺の手元に鍵を預けてその場を立ち去ってしまった。だが問題が一つ。
殘された五人に対して渡された鍵は四本で、二〇一から二〇四號室の四部屋が用意されているらしい。
「鍵、足りなくねぇ……?」
俺だけ男だから廊下で、とか?
「まぁ、まだオープン前だからねぇ。まだ家財道だったりも全部屋に行き屆いているわけでは無さそうだし」
アリスさんが辺りを見渡しながら言う。同じ方向へ視線を向けると、テーブルやら椅子やらが上手いこと大量に積まれていた。
「食堂はやってますか!?」
もちろん、これを尋ねたのはローズである。
「ええ。作業をしてるスタッフも住み込みだからね、現狀。その人たちが自分たちで調理したりするのに手を付けてあるはずよ」
「でも作業員さんたちってそんな大層な、っていうか、視察に來たアリスに出すような料理を作れるの?」
サニーさんが頭を捻りながら疑問を述べる。確かにそれはごもっともな容だったが、
「廚房は料理人たちの城みたいなものだからね。ここで料理の腕をう人たちが自ら作業してるから心配無いわよ」
「ほっ」とをなで下ろす二人。サニーさんも結構ご飯が楽しみなようだ。
「話を戻そう。誰がどこの部屋を使う、という話だったが……」
姉さんが軌道修正を図る。
「とりあえず部屋ん中に荷は置いてあるんだよね? したらもうそれに従っちゃおうよ」
と俺が提案すると、全員が數秒間を開けてから頷いた。
「階段はこっちみたい」
アリスさんに連れられて歩くと、自分の目を疑うような景が目の前にあった。
「エ、エレベーター、だと!?」
「これは流石にわたしもビックリだわ……」
前世日本組である俺とアリスさん。ともに唖然として口をあんぐりと開けるしかできなかった。
目の前にあるそれはエレベーターとしか表現のしようがないものだった。ただ、ケーブルで昇降するわけではなく、足場となる床に刻まれた刻印ルーンによって得た魔法効果によってくものらしかった。
だからどちらかというと、マンション等における住宅用の閉されたようなエレベーターではなく、工事現場などに見られるようなタイプだ(勿論、無機質な鉄骨が剝き出しになったりしているわけではないので、景観に及ぼす影響は極めて小さそうだ)。
エレベーターで二階に上がり、正面の壁にかけられた案板に従って部屋の前へと向かった。しかし、
「これはもう俺泣いてもいいんじゃないかないいですよね泣きます泣くから許して」
それをハッキリと捉えた俺の視界は段々と崩れ、滲んでいった。
廊下の中心に俺の荷が置かれていた。
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