《シスコンと姉妹と異世界と。》【第146話】北の幸⑦

獨特なあの匂いが漂う。

その一室は白を基調としたデザインで統一されている。

向かい合う形で椅子が二つ置かれていて、一つはキャスター付きでカラカラと音を立てながらく。もう一方は床にびっちりと留められていて微だにしなさそうで、腕や腰、足首に當たる所には拘束ベルトがあった。

かない方の椅子には小さめのテーブルが一つ備え付けられていた。

その上には工と思われる様々な金屬製のがいくつか並べられている。サイズは新品の鉛筆くらいだろうか。それぞれ違った刻印ルーンが掘られているので、それぞれに適した用途があるのだろう。

ざっと見るとドリルだったりペンチだったり。それらはその筋のプロ用達の逸品であり、見る人が見れば慄いて震え上がる程だろう。

その道に通した兇悪な人間を百人以上集めたとしても、それが発する痛みに耐えられる者はまず居ないのではないか。なくとも子供では無理だろう。

「わたしから言えることは、自業自得ということくらいかしら」

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目の前に立つは突き放すようにそう告げた。

シミ一つ無いまっさらな白を纏っており、とても洗練された印象を與えている。顔はマスクで覆われ目と眉だけが出していた。キリっと描かれた眉がそれとなく個を演出しているのだろうか。

「もうし早く、貴方が自らの意思で手を打っていればこんな所に連れてこられる必要は無かったはずよ。周りが差し出したであろう救いの手を払い除けたのは貴方自よ。殘念だけどこちらも仕事だから……、手加減は出來ない」

據わった目で彼は言葉を紡ぐ。

「それを承知した上で、まだ暴れたり逃げようと思うのなら……分かるね? 貴方にとっての最優先事項は今の狀況からすぐさますること。ならば抵抗せずに黙っていなさい。苦痛を長引かせるのは趣味じゃないのよ」

床に固定された拘束ベルト付きの椅子に座る、赤い髪の十歳くらいのは虛ろな目であさっての方向を見據えている。

「うぁ…………」

ちょっとした反応を見せるが誰もそれを気に留める様子は無い。

椅子の後ろに立ち、の肩に手を掛けている年もまた心ここにあらずといったところで、ただ狀況を見守ることしか出來ないのだった。

「……けて、助けてよ! お兄ちゃんッ!!」

「ッ!!」

実際には口が開けられた狀態で固定されているために、こんなにハッキリした言いではないのだが意図はハッキリ伝わっている。

の悲痛なびにも、年は顔を歪めるだけで何一つしてやれることは無い。

「では、始めるわ。今一度、自分の行いを反省なさい。そして今からける苦痛を心に刻みつけなさい」

による無慈悲で無な宣告。手首足首を理的に拘束された挙句、魔法による拘束までけたの口の中へと、不愉快な音を立てながら金屬の先端が回転しながら吸い込まれていく。

「あああああ、う゛ぁァァァァあああああああああ!!」

目の前で絶するに魔法による拘束を掛けている張本人、わたくしショー・ヴァッハウは現在に至るまでの経緯について思いを馳せていた。

「おにーひゃーん、ふぁいるよー」とローズが部屋を訪ねて來て、すったもんだがあった後に彼が蟲歯であることが発覚。

本人から直接話を聞けば、自業自得という他ない理由が明かされた。

原因としては夜食であった。

騎士校から生徒へと支給されるものに収納箱アイテムボックスというものがある。これ自は十センチ四方の手のひらサイズの木箱なのだがその収容力が桁違い。

そしてその大きな特徴として、れた時から二十四時間れた時の狀態を保ち続けることが出來るというものがある。普段は採取の任務においてや魚を腐らせずに持ち運ぶ手段として用いられる。

その特を存分に理解していたローズは、可がってもらっている先輩方や同級生から貰ったお菓子だったり、晝食だったりをなからず保管していたらしい。そしてそれを夜な夜な獨りで食べることが楽しみになっていたそう。

とりあえず、近くに歯醫者があるのかどうかを尋ねるために、サニーさんに斷りをれてからアリスさんの部屋に向かった。

コンコン。

「はーい」

部屋をノックすると、中からアリスさんの返事が聴こえた。

「お邪魔します〜。先程はなんやかんやと……すいません」

「謝るのはこっちの方かも。そもそもわたしが出番しさに先回りしてこっちに來たのがダメだったわけよ」

「クラリスさん…………」

その告白は悲痛すぎませんかねェ。僕には処理しきれない問題ですわい。

「おにーひゃん、なんふぁふぁっはほ?」

「……、何もねえよ」

「で、ショーくんとローズちゃんはどしたの?」

「アリスさんにしか聞けないことだと思って來たんですけど……」

「えっ、わ、わたしだけに……?」

なんかしどろもどろになってしまわれた。ちゃんと答えてもらえるだろうか。

「ええ。……、コイツが蟲歯みたいで近くに歯醫者はありませんかね」

「……、へ?」

「へ? って?」

「それだけ?」

「以外に……何かあるか、ローズは?」

「(ぶるんぶるん)」

ついに喋ることを諦めて首だけで返事をするようになった。

「……、それなら駅の近くにウチの系列のがあったはずよ。きちんと最新鋭の機を取り揃えてある筈だし。ウリは『世界初』だから」

「したら、麻酔なしでブチ抜くとかは無いんすよね?」

「ないない。魔法を使いつつやることにはなると思うわよ。流石にコンセントから電気引いてるわけじゃないし」

「なるほどなるほど……。詳しい場所は……」

「まぁそれは爺やに聞くわよ。その上で一応護衛としてクラリスも付けさせてもらうわね。さすがに我が家のお客が何かに巻き込まれた、なんてなったら々と面倒だから」

「わたし行かなきゃだめ? あの爺さんがいれば何も問題無いような気がするんだけど……。寒いし」

普通に執事を『爺さん』呼ばわりしてしまう所に驚きを隠せない。家に仕える者と個人に仕える者の差が存在するのだろう。

「だめ。したら一筆したためるからちょっとだけ待ってて」

と言われ待つこと三分。

「これを爺やに渡して、その後歯醫者の付にも出せば萬事スムーズにいくはずよ」

そう言ってアリスさんは一通の手紙を渡してくれた。

「そうねぇ……。今から三十分後に下に行ってくれる? それまでには馬車だったりの用意はさせるから」

「ありがとうございます!」

そんなこんなで今に至る。

何が面白くて目の前で蟲歯の治療を見せられなければいけないのか。見てるだけで思わず頬をってしまう。

「この後お兄さんもかなー?」

「ッッ!? 俺は蟲歯と違うんで結構です!」

思い出すのが億劫なので割する。

二十分後、ローズのお口の突貫工事が無事終わった。

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