《シスコンと姉妹と異世界と。》【第150話】北の幸⑪
「あ、あなたは!!」
「は、はぃぃぃい!!」
ズビシィッ! と効果音が出そうな勢いで、人さんは俺を思いっきり指さした。想像以上の破壊力に思わず背筋がびてしまった。……貞だからかな、グスン。
「わ、わたしのことを、ど、どどど、どこまで知っているというの!?」
「どこまで、と言われましても……。全部知r」
「全部ぅ!?」
知らない、と言うつもりだったのに食い気味に持っていかれた!? あらぬ誤解を生んでしまっているが、もう話なんか聞いてくれなさそう。
「全部と言ったら貴方、このキャシー・ミネルバ24歳獨が普段學校で教鞭を取りつつ、仕事終わりに行く店での安売りで酒とその肴を買って帰る事を楽しみに生きていることまで知っているのね!?」
「知らなかったよ!? でもたった今全部教えて貰っちゃったけどね!! てゆーか普段教師なんですね……」
「そーよ。なにか悪いっての……?」
意外にもを尖らせてぷうっと膨れてしまった。可い。もうし苦労させられるような気がしてならなかったのだが。
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(報は引き出しておくに限るか……)
「(ローズ、あの人になんか質問してみてくれ。あと二十分くらいすれば何もめずに済むはずだから、時間稼ぎだ)」
「(わ、わかった……。やってみるね)」
意気込んだローズがその小さな拳をぎゅっと握り、一歩だけ前に踏み出して、
「キャシー先生は普段生徒達にはどの教科を教えているのですか??」
まさか組織についてではなく、個人的なことについての質問をするとは。友達にでもなるつもりなのか?
「(キャシー先生か。やっぱいいわねその響き……。)っと、教えてる教科だったわね。わたしが勤めてるところは初等教育だから、基本的には全部の擔當がわたしなの。座學から実技までね。流石に育だけは男の擔當になってるわ」
「へぇー。でもそんなにまとめて面倒見るのって大変じゃないんですか?」
「そりゃまぁ大変なことも多いけど。……可いものよ、小さい子たちって」
若干の溜めがあったのが気にかかったが、スルーしても特に問題は無いだろう。
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「……、じゃあなんで叔母上と同じ組織にったんですか?」
「副業」
即答だった。でも公務員の副業ってどうなのよ?
「お給料が良いのよ。平日は學校があって活に參加出來なくても採用してもらえるってのもあったけど。一応組織としては『黒薔薇の魔』復活を掲げていている訳だけど、わたしとしてはそれは二の次で。とりあえずわたしは営業擔當みたいなもんだから、街に出ては手品だったり魔法だったりで興味を引いて、気になったら信してねー、って聲掛けるだけだから。……たまにお捻り貰えるし」
あっけからんに笑いながらスラスラと答える。
「一応、俺からも質問なんすけど……」
「何かしらショーくん?」
「ッ!? 街では今の姿で勧してるんすか?」
「しないわよ! 學校の教師が微妙な宗教団の人間だ、って親さんたちの間で広まったら面倒だもの。あの爺さんの姿が勧時の格好よ」
「微妙なとか自分で言っちゃうんすね」
「まーねー。上の人たちとか魔復活させて何がしたいのかよくわかんないし。そりゃまぁ、魔法が使えるってだけで優遇されることも多いけど、地方ではその逆もしかりなのよ。貴方たちのいる學生都市とは違ってね。一応は、その差別を無くそう! っていうのが謳い文句にもなってる」
「多まともな主張もしてるんすね……」
「そりゃ犯罪集団の仲間りしませんか? なんて表立って聞いて回る馬鹿いないわよ。と言ってもそういうことを手段として取る輩なんて數える程しか居ないんだけどね。皆、自分の生活があっての活だから」
部活みたいだな……と思う。でも給料も出ると。なかなか味い話しすぎてなぁ。リーダーはどっかの超金持ちなのか?
「まぁ組織としては」
欠をしながらキャシーは続ける。
「そこのローズちゃんを捕まえてどうにかしようって考えているみたいなんだけど」
その言葉を聞いて、一気に張が走る。ローズが後ずさりし俺の後ろへ周りこむ。結構な力で腕を摑まれているが、それに本人は揺していて気付かないようだ。
剣も持って來ていないし、油斷したな……。
「わたしは営業擔當だから荒事はナシ。だから安心して頂戴? 馬車の中の子も、殺意をそんなひしひしと伝えてこないでほしいわ」
クラリスさんか。魔法の用意でもしていてくれたんだろうか。
「見逃すってのか?」
「見逃すも何も、わたしの仕事じゃないから関係無いのよ。そんな若い子たちと戦うなんて契約はしてないし、そのぶんの給料も貰ってないし。かと言って報告の義務も無いしね」
「わたしが狙われるっていうのは?」
「あら、自分の叔母さんから聞かされてない? 九つの災厄を魔の因子の象徴である赤髪を持つ生娘に植え付け、それを容として魔を復活させるのよ」
「そんな事が……、本気で言ってるのか?」
「さぁ? わたしは別に本気じゃないわよ。ただ上の連中の中にはそうは思ってなくて、魔復活の為には手段を選ばないっていう部署もあるってことよ」
んな、ハイエーサー的な部署が存在するってのか。なくとも叔母は俺らと戦ったことからも間違いなく実働部隊。ただローズを攫うような素振りはみせなかった。への溫って訳じゃねえよな。だとしたら、叔母上は拐するための部隊では無い……か?
「まぁ因子を持つ生娘は他にもそれなりの數は居るから、今は數あるうちの一つに過ぎないけれど。ただ力を付けて名前が売れていけば、それだけの危険は高まると思っていた方がいいわ。……、貴方たちの母親のようにね」
「……、なんでキャシーさんは俺たち家族のことを?」
「そりゃ『紅蓮』に『黃金』だもの。ましてやわたしは教師でもあるから、時事に疎いわけにはいかないの。本當、親さんたちからの評価って面倒なものよ?」 
教師にあるまじき発言だ。まぁ世の中の教師の本音を代表して放ったようなもんだろうが……。
「まぁとりあえず、西に向かう時には気を付けなさいな。あっちの方が比較的過激な輩が多いとされているから」
「……、はい」
「あの……、キャシーさん。どうしてわたしたちに組織のことをここまで?」
「ふたりが可くてまだまだ小さな子供だからよ。可い小さい子が泣くのは見たくないもの。淑たるもの小さな子供はでるものよ」
もしかして、この人はそこそこのショタコンがってたりするのだろうか。俺がもっとちびっ子の時に會っていたら、どうなっていたんだろう……。
「あ」
「どうしたんすかキャシーさん」
「時間がね。仕事が終わりの時間にそろそろなるかなって」
「なるほど」
「あー、そだ。ちょっと待ってて」
「ん?」
何を思ったのか、キャシーさんは急に自分の元に腕を突っ込んでモゾモゾしだした。
「めっ」
「ぐああぁぁぁぁあああ!? 目がァ!!!」
「お兄ちゃん、いやらしい目での人を見るのはダメだよ?」
急に妹にジャンケンでもないのに、チョキを出されて負ける兄貴なんてこの世界で俺くらいのものなんじゃないか?
「はいこれ、ローズちゃん」
と、キャシーさんが元から出したであろうネックレスをローズに差し出す。
そのネックレスの中心には碧空の如く澄んだ石が埋め込まれていた。
「何ですか……これ?」
「お守りみたいなものね。それを持っていて、何かあった時にそれに魔力を注いでくれれば、わたしはどこに居てもローズちゃんの元へと飛べるのよ」
「飛べる?」
ローズが頭に『?』を浮かべながら尋ねる。
「もちろん、羽が生えて天使とか神様みたいになるわけじゃないわよ。空間と空間を繋げるって言えばいいのかしら」
「でもそれじゃあ、キャシーさん含め魔教の人間に俺らの居場所が筒抜けになるだけなんじゃ……」
命を狙われる可能がある人間が、GPS付きの首を付けさせられましたじゃ話にならない。
モノとしてはワープするためのマーキングってじなんだろうけど……。
「その點においては安全を保証するわ。その石はわたしと繋がっているの。わたしが死ねば石は砕けるし。……、逆に石砕いたからって死ぬ訳じゃないんだけどね。まぁそれは力の発信源になるんだけど、信源はわたししか持っていないの。ほら」
そう言ってキャシーさんはローブの首元をグイッと引っ張り元をさらけ出す。雙丘が作り出す見事な谷間の上に、ネックレスと同じ輝きを放つ石が埋め込まれていた。しかし、その大きさは十センチを超えているだろう。々すごい綺麗だった。
「てい」
「ぎゃぁぁぁぁああああ!! 何でだよ、今のはッ!?」
二度目の目潰し。正確に眼球を貫く一撃だった。
「イラッとしちゃった☆」
「理不盡すぎやしねぇか!?」
「はい、け取って?」
「……分かりました」
「あ、ちょっと待った。………………、はいどうぞ」
「? ありがとうございます」
「どういたしまして」
「今の間はなんすか?」
「五時を超えるのを待ってたのよ。五時を過ぎれば、わたしはただの子供好きの教師だもの。困っている子供にはキッチリ手を差しべるわよ。だから、どうしても困って私を呼び出す時は五時過ぎで頼むわ。お給料貰ってる以上は教師の仕事も組織の仕事も時間まではこなさなきゃだから」
「そこら辺の線引きはシビアだよなぁ……」
「じゃ、そゆことだから私は帰ります。組織の中でのわたしの名は『時計クロック』で通ってるから宜しく。ジジィの姿でキャシーはヤバいからね。ほいじゃねー」
そう自己紹介を殘して、一瞬で黒ローブごと虛空に消えた。
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