《シスコンと姉妹と異世界と。》【第152話】北の幸⑬
ホテル裏庭(テニスコート建設予定地)にて。
「ハァ……ハァ……」
「もー、なんで當たらないのかしら」
両者互いに譲らず的ダメージはゼロ、つまり無傷。異なるのはスタミナの消費量だけだ。
「そう簡単にやられるわけ無いでしょっ。そろそろマリー姉ぇにも勝って追い越さないと!」
実のところ、魔法対決においてアリスは叔母であるマリーに過去未勝利である。二人はアリスが騎士校にるまでに何度か手合わせをしている。が、歳がおよそ十離れていることもあって、ハナから能力的に差があった。単純な一歩の歩幅から扱える魔力の総量まで大きくだ。
それに、マリーの師は最強の主婦であり『紅蓮の』と評されるローラ・ヴァッハウ(ショーたちの母親)である。平たく言えば取り巻く環境が違い過ぎた。
「まだ一度も勝ったこと無い子が、何を言ってるのかにゃーん?」
マリーの掌から打ち出されたの玉がアリス目掛けて襲いかかる。しかし、直線的なそれはアリスを捕らえることなく地面に直撃。雪を吹き飛ばし地表を抉えぐる。
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「逃げてるだけじゃ勝てないよーん?」
「言われなくてもッ! アイスピラーズ!!」
アリスによる無詠唱の速攻魔法。マリーを中心とした四方からの氷の柱による攻撃。地面からマリーの目掛けてギュンとびる。
マリーはそのうち一つの柱をサッと作り出した掌の球で砕し、逃げ道を創り出す。
「毎度毎度、無詠唱ってのはずるいよねっ」
「出しっぱなしのマリー姉ぇに言われたくないんだけど」
マリーは、師であるローラも得意としている系統の魔法を好む。アリスとは違い詠唱の完全省略には至っていないが、常時球を維持し、その展開方法のみを詠唱し司令することで無駄な時間を省いていた。
「そんな出狂みたいな言い方しないでちょうだい?」
「(……聴くに耐えない)」
わる強烈な魔法。罵詈雑言の応酬。歳の離れた姉妹のような二人の意地のぶつかり合いに、エリーゼは辟易していた。
この場でまともにダメージを(神的に)けているのは、エリーゼただ一人だけなのかもしれなかった。
「箱でショーくんの目の前でになってしたって聴いたけど!?」
會話を続けながらも、息をするように魔法を繰り出していく。
アリスは詠唱を省略し、意志の力によって魔法を行使するため、周囲の環境に思考が左右されやすい。集中した時の五が他人よりも遙かに優れている為余計にではあるのだが。
川や海での戦闘なら水、火山地帯であれば火、いちばん使うのはどこにでも存在する空気を利用した風系統の魔法。
今回は雪景の中での戦いということで、水系統の延長である氷魔法を使っているというワケ。
「「なっ!?」」
マリー、エリーゼに同時に衝撃が走る。互いに揺は隠しきれないがその理由はまるで異なっていた。
「ゆ、はしてないわよ! あれはたまたま! たまたま、仕事終わりにお風呂にったらショーくんが居たのよ。日付変わるかどうかの時間によ!?」
「(マリーさんはああ言っているが、一度本人に問いたださねばなるまい……)」
心なしか、エリーゼの周りにあった雪が溶けていた。
「ホントにぃ〜?」
アリスがニヤァっと意地の悪い笑みを浮かべる。
「ホントよ!」
食い気味にマリーもの潔白を訴える。
「マリー姉ぇはショタコンだったのかぁ……」
「遠い目すんな! ていうかショタコンって何さ!? 何となく馬鹿にされてるのは分かるけど!」
「年下大好き」
「なっ」
「生まれてこの方相手が出來ないもんだから、若いショーくんがしくなっちゃっ」
「言はそれでいいかしら?」
アリスが言い終わる前に、マリーが球を後方に出し推進力を獲得。その結果、マリーがアリスを捕らえていた。
「ごめんなさい調子乗りました。だからアイアンクローのまま吊り上げないで降ろして……痛たたたたたたッ! こめかみ! こめかみあく!!」
「はい、じゃあわたしの勝ちね」
勝利宣言と共に、マリーがアリスを降ろす。
「痛っつーー……」
「誰のせいよ」
「お、おいアリス」
「ん? どったのエリーゼ。決著は一応、わたしの負けってことでついちゃったけど」
「いや、わたしが聴きたいのはその事ではなくだな……」
「(あっ、やべ。ついエリーゼいるの忘れて口走っちゃった☆ ショーくん、サニーもゴメンね)」
アリスは目を泳がせながらも話題を上手くすり替えようと、
「あぁ、壊れたこの裏庭? ほぼ全てマリー姉ぇの球が削り飛ばしたんだし、修繕費用をエリーゼたちから貰うことはしないから安心して」
「へ?」
マリーがぽかんと口を開け、
「い、いや、そんなことではなく……」
エリーゼが話題を修正しようとする。
「マリー姉ぇの給料から分割して天引きしておくからよろしくね。どっかに消えた土砂の搬とかで費用はかかるし。人件費はまぁマリー姉ぇ本人含めてうちの社員でやるからまぁいいとして。じゃあそんな訳だからわたしはシャワー浴びに戻る! じゃねー!!!」
そうまくし立てると、アリスは全力で逃走した。
「私怨でそんな真似するのが許されると思ってるのかぁぁぁぁぁあああああーーーーーー!!!!!」
マリーがぶがアリスは腳を止めることなく走り去る。
「ちょっ、アリス! まだ話はっ」
エリーゼが呼び止めようとするも、その姿はもう見えない。
「あの……マリーさん?」
「………………………………」
「…………、あまりの衝撃に気を失ったってこと?」
マリーはさながらラオ○のように立ったまま微だにせずに直していたのだった。
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