《シスコンと姉妹と異世界と。》【第178話】父と迷子なチビッ子と⑦
「お兄ちゃんは、生き別れた本當のお兄ちゃんだから!!」
この言葉を咀嚼するのに十秒はかかっただろうか。
としては更に長くじたが。
思い當たる節がある訳では無いが、可能という點においては否定出來ない。
俺が、草場翔一が、ショー・ヴァッハウになる以前の記憶がとても薄い。ただでさえガキの頃の記憶なんて曖昧なものなのに。
もう一つ気になるって言ったら髪のだ。
姉さんは父さんの、ローズは母さんのをけ継いでいるが、俺は真っ黒で。
だがそうなってくると、ローズとユイが姉妹で俺がハブられる方が自然なんじゃないか?
「マジの……マジか?」
「……だと良かったんだけど」
ユイは晴れやかな笑顔でそう言った。
「はぁ……、なんか良かった」
思わず溜め息がれる。
ここ一時間弱で一気に壽命がまったような気にさせられた。
「にしてもなんで、俺のこと知ってた?」
「お兄ちゃん有名人だよ? 『黃金』の息子が災厄の一つである九尾を倒したらしいって」
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なんか肩が狹い。意識してないところで、父親の名前に俺の名前まで付いてまわってるとは……。
「……」
「なんで黙ってるの? 『何でそんなこと知ってるんだ?』とか聞くんじゃないの?」
「めんどくさい案件な気がするから、わざわざ自分から首突っ込むのはやめようかなって」
「なっ!?」
何を驚くことがあるのか。
俺の名前だけならまだしも、初対面なのに顔まで認識してるお子ちゃまがただの町娘Aなわけが無い。
「『黃金』の息子が、いたいけな家出を道端に捨てるの?」
「家出なのかよ!? それのどこがいたいけなんだよ馬鹿!」
「ば、馬鹿ぁ!? 初めてそんなこと言われた……」
俺なんか週三ペースで言われてるぞ。
「で、要求は何だよ?」
「匿ってほしいの。せめて明日の夜までは……」
「……、何かあんのか?」
「ウチ、決まりとか勉強とか厳しいから……。こうやって自由に外に出るのも初めてに近いもん」
マジか。箱り娘にしては、やり過ぎじゃねえか?
悪く言えば監じゃねえか……。
「……、分かったよ。とりあえず、明日まではなんとかしてやる。だがその前に俺は俺で、この後仕立て屋行って寸法測ったりしなきゃならん。金曜日の夜にデュボワ商會の會長さんが主催する宴に招待されちまってさ」
「ふーん……」
「反応薄いな。とりあえずコレ被っとけ。ちょっとチクチクしたりするかもしんねえけど、耳隠さねえと目立ち過ぎるわ」
収納箱アイテムボックスからニット帽を取り出して渡す。
ローズが以前魔法の使い過ぎで貓化した時に合わせて、俺が頑張って作ったものだ。
どうやって作ったか?
學校の図書室に教本があったのよ。
まぁそんな訳だから、多頭上のスペースにゆとりがあるのだ。
「お店出てから被る」
「ん。それがいいかもな」
マナーが気になるようだ。まぁ基本的には飲食店にれば被りは取った方が無難だろう。
ハゲてる人とかなら狀酌量の余地は十分にあると思うけど……。
「取り敢えず髪のだけは変えとかないとな。なにか希はあるか?」
ユイの今の髪はローズと同じ赤。つまり魔教に狙われる可能があるってことだ。
追っ手を無闇に増やすような真似はしたくない。
「んー、お兄ちゃんとお揃いの黒もいいけど……。やっぱり綺麗な金がいい」
黒髪もかなりない。街で見かけることは殆ど無いかもしれない。なくとも在學中、自分以外に黒髪の人間を見たことがないくらいだ。
「あいよ。長さは取り敢えず今と変えとけばいいよな。すいませーん」
呼びかけに応じてすぐさま店員が駆け寄ってきた。そんなに急がなくても……。
「はっ、なんなりとお申し付け下さい」
……そういう志向のお店なのか?
「俺は麥茶で……、ユイはどうする?」
「んー、この手搾りみかん、っていうのがいい!」
「かしこまりました。なお、お客様方にはお代金を頂くことはしませんので」
「え?」
「……」
店員さんはしの間を置いて、
「お二人で丁度當店開店から一萬人目のお客様でございます故、その記念と言いましょうか」
「だってさ」
「ごちそうさまです、おじさん!!」
ユイが満面の笑みで応えた。
「はうぁ!?」
おじさん、ハートを撃ち抜かれてしまったようだ。もしかしたら丁度ユイくらいの娘さんがいるのかも。ユイにその面影を重ねてしまったのだろうか?
「し、失禮致します……。どうぞごゆっくりお寛ぎくださいませ」
おじさんが居なくなると、ユイはまた話しだした。
「お兄ちゃんに匿ってもらうぶん、ここのお會計はわたしがするつもりだったのに……」
「いやいや、年下のそれも可いの子から金なんか取れるかよ……。それに、二千円弱じゃお前くらいの子の小遣いじゃまだ厳しいんじゃないのか?」
「お小遣い全部持ってきてるから大丈夫だよ……ほら!」
そう言ってユイは斜めに掛けていた鞄に手を突っ込んだ。
そこから札束を加えたカエルが出てきた。
「がま口財布でこんな不細工なの初めて見たわ……」
モノは子供用の小銭れくらいのサイズなんだが、見事に札束をゲロっていた。カエルだけに(ここ重要)。
これを見るに、ユイは本気でどっかのお嬢様のようだ。
「お手伝いさん達に『お出掛けしてくる!』って言ったら持たせてくれたの」
「そ、そっか……。優しい人たちもいるんだな」
あれか。親が厳しいんだけど、それを見てる人間が優しくフォローしてあげてるってじか。つっても使用人雇えるくらいなんだからかなりの家柄だよな。流石にアリスさんとこまではいかねえと思うんだけど……。
ただ、ぱっと見でも四十萬近くを持たせるのはやり過ぎだと思うけどね。
ルナさんの店でも十分に買い出來てしまう。
騙される前になんとかしてやらないと。
どうせ一萬円分の価値のない、変に珍しいもので釣る商法だろうし。
あの人、元日本人だろうし何かしらパクって作りそうだもん。
「お待たせいたしました」
もう注文したのが運ばれてきた。全然待ってない。
「ユイ、これ飲んだら次行くからな」
「はーい。あ、これ味しい! 甘くて爽やかでちょこっとプチプチっとしてて……!!」
「十歳児の想とは思えねぇ……」
ユイの言葉を聞いて満足したのか、ウェイターのおじさんは何も言わずにスっと下がっていった。
「人目もないし、フェリ呼んで早めに用意だけして貰うか______『召喚サモン』!」
他人ひとに見せられない刻印キスマークに右手を添え、唱えた。
途端、魔法陣が床の空いたスペースに生まれた。
今回はドアからこんにちはしないようだ。
「フェリ? お兄ちゃん、誰それ?」
「俺が契約してる霊、かな」
「霊さんとお兄ちゃん友達なの!?」
話している間にも、陣からにょきにょきとフェリが生えてきている。
「そ。偶然助けちゃったんだけどな。最初は魔っぽいじだったからどうかな、って思ってたんだけど。契約してみたらまぁ可いやつでさ」
「可いって言われて、霊さん照れてるみたい」
顔を手で覆ったフェリ(首から上だけ出てる)を見て、ユイが笑う。
「魔っていう割には意外と純粋で、ちゃんと事のメリハリついてて頼りにもなる。あと、どうしようもなく」
フェリが陣から出きって、陣はそのまま宙に溶けるように消えた。
「……、ド変態なんだよなぁ……」
「これは違うの!!」
バスタオル一枚を腕にかけ、全で登場のフェリさん。
どうみても出狂の範疇をぶっちぎっていた。
チートスキルはやっぱり反則っぽい!?
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