「朝か…… 」

心のどこかで、眼が覚めたら現実世界へ戻っていると期待していたのだが……

その期待はあっさりと裏切られた。

窟のゴツゴツした天井を見ながら、異世界にきて初めての朝を迎える。

外に出ると、紅蓮ゴブと見ゴブ1が見張りをしていた。

他のゴブリン達は、それぞれが違う場所でイビキをかきながら寢ている。

ゴブリンはこんなに優秀で頼りになる種族だっただろうか……

いや、なくとも設定でのゴブリン種族は、一般的なイメージとして伝わるゴブリンの特徴と大して相違はなかったはずだ。

つまりは野蠻で低脳で自分勝手な種族、それがゴブリンだったはず。

しかし、目の前にいるゴブリン達は、俺に順従でしっかり働いてくれている。

やはり召喚したゴブリンは、野生のゴブリンとは違うということだろうか。

それなら大きな危険が迫る前に、自分の軍隊を作っておいた方がいいのかもしれない。

し考えて、戦力の増強のために、追加でマナ生用のアーティファクトを召喚しようと決意する。

（っと、その前に昨日召喚したアーティファクトの確認をっと……）

［SR］ 猩紅のダイヤモンド （2）

［マナ : なし］

［マナ生（赤）］

［生贄時:マナ生（赤x2）］

［耐久Lv1］

寢て起きたらマナが回復していると思ったのだが、そんな甘い話はなかった。

それとも生まで24時間かかるのだろうか。

マナ生の間隔はまだ分かっていないが、マナカードをただ消費するよりマシだろうと、他のマナ生カードも一気に召喚した。

［SR］ マナ封じのペンダント （1）

［マナ : （赤）］

［生贄召喚：マナカード1］

［マナ生 : （召喚時に生贄に捧げたマナカードのマナ）］

［マナ生限界1/10］

［耐久Lv1］

［R］ ウル山の紅水晶 （1）

［マナ : （赤）］

［マナ生（赤）］

［マナ生限界1/3］

［耐久Lv1］

［UC］ ウル山の水晶 （1）

［マナ :（1）］

［マナ生（1）］

［マナ生限界1/5］

［耐久Lv1］

召喚に3マナと、ペンダントの生贄用に1マナの計4マナ分消費した。

これでマナカードは7枚。

（この消費ペースは、さすがにマズい気がする…… でも、昨日の亀みたいに、討伐すれば補充できるっぽいから、大丈夫だよな？ いや、大丈夫大丈夫。きっと大丈夫）

ペンダントは首から下げて、巖等にぶつかって壊れないようにTシャツの中へとれる。

水晶は20cmくらいあるので、気軽に持ち運ぶのは難しそうだ。

取り敢えず窟の奧に置いておく。

アーティファクトのマナはこれで3マナ。

召喚するものは決めてあった。

（効率良く戦力増やすなら、やっぱりこれでしょ！ エンドレス召喚魔法陣！）

俺は窟の奧で、付與魔法エンチャントを行使した。

「ゴブリン召喚の大魔法陣！」

［SR］ ゴブリン召喚の大魔法陣 （赤）（2）

［毎ターン : ゴブリン1/1 召喚1］

［耐久Lv1］

場を指定し、その場に能力付與エンチャントを施す呪文。

大魔法陣というだけあり、狹い窟では地面だけでは足りなかったのか、壁を這うように天井まで魔法陣が現れた。

毎ターン、1/1のゴブリンを1、それこそ制限なくずっと召喚し続ける。

そう、時間が経過すればするほど、俺のゴブリン軍は巨大になっていく…… はずである。

魔法陣が紅くり、目の前の空間に淡いの粒子とともに、緑のをした小柄なゴブリンが現れた。

手には歪な形の短剣。

薄茶のボロ布を腰に巻いている。

顔は相変わらず醜悪だ。

小柄なのに貓背のせいで更に小さく見える。

しかし、今は貴重な戦力。

こいつらが俺の生命線と言ってもいい。

これから量産されるであろうゴブリンなので、ゴブ1と名付けた。

この大魔法陣は、殘り3枚ある。

召喚し放題だ！

……とはいえ、マナカードは殘り7枚しかないため、今は1つだけにしておいた。

昨日、巖陸亀からけたダメージが癒えたか確認するため、ステータスを開く。

紋章Lv1

ライフ 40/40

攻撃力 2

防力 2

マナ：0

加護：マナ喰らいの紋章「心臓」の加護

裝備：なし

補正：自の初期ライフ2倍

+1/+1の修整

ライフが40に回復しているのを見てホッとする。

MEでは、ライフが自然回復することはなかったので不安だったのだ。

しかし、そうなると他にもMEと異なることが多いのかもしれない。

注意が必要だ。

考え事をしていると、目の前のゴブ1がこちらを窺っているのに気が付いた。

（ああ、何か指示がしいのか。そうだな…… 取りあえず、朝食の準備を手伝ってもらうか）

マサトは、ゴブリン達を集めて朝食の準備を始めることにした。

◇◇◇

ゴブリン達と昨日の亀鍋の殘りを食べ終えると、全員で水浴びすることにした。

（若干、臭ったんだよなぁ…… あぁ石鹸がしい！ 水浴びくらいじゃ、完全に臭い取れないよなぁ…… あっ、困った時の案ゴブ……）

案ゴブに石鹸代わりになるがないか聞く。

すると、今度森で探して見ると返事があった。

（……なんだろ。案ゴブはゴブゴブとしか言ってないのに、言ってることが理解出來てしまう。すご。これ凄いよね？ って、聞ける相手はいないけど…… くそ！ 人間の話し相手がしい！）

結局、水だけでも汗を流すことにしたマサトは、ゴブリン達と共に水浴びを決行した。

全員で滝壺に浸かり、手でを洗う。

最初、ゴブリン達は水浴びを嫌がった。

それには、命令したマサトも意外だった。

命令は絶対！ という訳でもないみたいだが、この場には熱狂的なマサト信者――狂信ゴブがいた。

狂信ゴブが他のゴブリン達を一喝すると、手本を見せるとばかりに、自ら率先して水浴びをし始めた。

流石は狂信者だ。

崇拝対象はどうやら俺らしいが、今はその信仰心がとても助かる。

と一緒に著も洗わせる。

俺はTシャツとトランクスだけ洗うことにした。

ジーパンはまだ洗わなくて大丈夫だろう。

乾くまで全ってのも嫌だしな。

水浴びを終えると、ゴブリン達は全で各々巖の上に寢転がり、日浴を始めた。

開放があってとても気持ち良さそうだ。

俺は水から上がると、濡れたTシャツを絞り、そのTシャツでを拭いた。

そしてせっかくなので、俺もゴブリン達の真似をすることにした。

濡れた類は、予め木の枝を組み合わせて即席の干し竿を作っておいたので、そこに全て干してある。

ここにいる全員が、全で巖の上に寢そべっている。

そう――

この時、全員が無警戒だった。

夜も見張りを立てて警戒をおこたらなかったゴブリン達が、今この一瞬だけ、全員無警戒だった。

気を抜いていた。

それがいけなかった。

このタイミングを待っていたかのように、1匹のジャガーが森の茂みから飛び出してきた。

音とジャガーの鳴き聲に、全員が飛び起きる。

まず狙われたのは、ジャガーの位置に最も近かった見ゴブ2だ。

幸い、俺はジャガーから一番遠い窟のり口付近にいたので、ジャガー含め、ゴブリン達全員が視界にっている。

ジャガーを見た見ゴブ2は、1度こちらを振り返った。

そして、案ゴブに何やらアイコンタクトを送り――

何を考えたのか、その小さいを丸めて、ジャガーへと突進して行ってしまった。

俺は目を疑った。

贔屓目に見ても、見ゴブ2ではあのジャガーには勝てない。

ジャガーには鋭い爪と牙があり、格もゴブリンに比べてふた回りくらい大きい。

一方で見ゴブ2は小柄で全だ。

首元に噛み付かれたら一発で致命傷だろう。

しかし、俺は見ゴブ2の真意を知ることができた。

召喚者と召喚された者の繋がりにより、ハッキリと見ゴブ2の意識が流れ込んできたのだ。

見ゴブ2は、自分の命を犠牲にしてでも、全員が態勢を立て直す時間を稼ぐために、死地へ飛び込んだ。

いや、見方によっては、ただ逃げるよりも生存率が上がる方法だったのかもしれない。

見ゴブ2の予想外の行に驚いたジャガーは、そのまま跳びかからずに橫っ飛びし、威嚇しながらも見ゴブ2を冷靜に観察した。

そしてそれが虛勢だと判斷すると、勢いよく飛びかかった。

ジャガーに飛びかかられた見ゴブ2はそのまま縺れるように倒れ、ジャガーの攻撃に必死に対抗している。

（まずい…… このままだと見ゴブ2が殺られる！）

焦った俺は、攻撃呪文を行使するためにジャガーへと向かおうと踏み出した。

しかし、それを一番近くにいた狂信ゴブに止められる。

そのタイミングで、ゴブリン達全員の意思が伝わってくる。

『ボスは、おれたちが、守る』

見ゴブ2の稼いだ時間で、紅蓮ゴブが杖を取り、案ゴブが鉈を構え、見ゴブ1が木の槍を、ゴブ1は短剣をそれぞれ構えて攻撃態勢をとっていた。

俺を守るように。

ゴブリン達の行にジーンとが熱くなる。

だが、今はすべきことがある。

今は、見ゴブ2を助ける方が先だ！

「全員でジャガーを攻撃！ 生かして返すな！ 見ゴブ2を救え！！」

ゴブリン達が一瞬ギョッとしたが、直様こちらの意図を把握し、行を開始してくれた。

ジャガーがこちらの総攻撃を察したのか、見ゴブ2に食い込ませていた牙を抜く。

ぐったりした見ゴブ2が見える。

自分の胃がぎゅうっと締め付けられた気がした。

「糞貓がぁあああ！！」

ジャガーに向かって走る。

紅蓮ゴブが火の玉を放ち、案ゴブが逆サイドから飛び掛かる。

火の玉に驚き避けようと飛び退くも、退路へ回り込んでいた案ゴブに斬りつけられ、ギャンと甲高い悲鳴を上げた。

反撃に出ようとするジャガーに、木の槍を持った見ゴブ1が突進し、ジャガーを串刺しにする。

手痛い反撃に焦ったジャガーは、鋭い爪の生えた前足を振り下ろして応戦するが、すでに見ゴブ1は木の槍を手離して退避したため、ジャガーの攻撃は不発に終わった。

ジャガーは、橫っ腹に突き刺さった木の槍が抜けずにもがいている。

（注意がこちらから離れた今が絶好のチャンス！）

俺はジャガーに向けて全速力で突っ込み、その首元を摑んで腹部にヒザ蹴りを合わせた。

その勢いのまま、ジャガーの後ろに回り、首元に腕を回してチョークスリーパーをかける。

もがくジャガー。

木の槍の刺さった腹部からが噴き出た。

俺は一気に力を込める。

段々とジャガーのきが鈍くなり、十數秒後には完全にかなくなった。

案ゴブは素早く鉈でジャガーの部を斬り割き、心臓を取り出すことでトドメを刺した。

これで大丈夫だろう。

起き上がり、周囲を見渡すと、そこには紅のの粒子を纏う見ゴブ2がいた。

（間に合わなかったか……）

の粒子は見ゴブ2から離れ、俺のへと吸い込まれた。

自分で召喚したモンスターが死んだ場合でも、その魔力を吸収することができる。

マナと生命のループ。

これがMEの核となる戦略要素であり、マジックイーターが神とも邪神とも呼ばれる設定の源だ。

“命を奪い、その命で、新たな命を創る”

そう見えるのであれば、それは神か邪神のどちらかにしか見えないだろう。

見ゴブ2に、心の中で謝する。

ジャガーからも緑のの粒子があがり、の紋章へと吸い込まれていく。

《 マナ喰らいの紋章 Lv2 解放 》

紋章Lv1 → 2

ライフ 40/40

攻撃力 2

防力 2

マナ：（赤）（緑）

加護：マナ喰らいの紋章「心臓」の加護

裝備：なし

補正：自の初期ライフ2倍

+1/+1の修整

召喚マナ限界突破5 New

Lvが2に上がった。

新たに召喚マナ限界突破5が付いたが、これは計5マナ必要とする中型召喚を行使できるようになったという意味だ。

この戦いでし思い出したことがある。

MEでの戦いは、召喚を食って食われてを繰り返しながら紋章Lvを上げて、大型魔法で止めを刺すのが基本の戦いの流れだということを。

これを、この現実めいた世界で再現するとなると、今回のようなが締め付けられる戦いになるのかと、しばかり気が滅った。

俺は案ゴブに見張りを任せ、土や落ち葉やらで汚れたを再度洗うため、冷たい滝壺へっていった。