《【書籍化】マジックイーター 〜ゴブリンデッキから始まる異世界冒険〜》10 -「ダークエルフ」

隠れ里に逃げ帰った私は、里の長であるネスへ狀況を報告した。

「ネ、ネス! まずいことになった!」

「レイア、あなたが慌てるとは珍しい。明日は雨ですかね」

ネスはエルフ族だ。

私とは違い、き通るように白い。

言い伝えでは、ダークエルフはエルフと魔族の混種だと言われている。

太古の昔に、純種であるエルフと魔族がに落ちて子をしたことが始まりだという説や、魔族に奴隷として捕えられたエルフが、魔族の子を篭ったのが始まりだという説があるが、真実は分からない。

ただ、私達ダークエルフが総じて魔族に似た傾向を持っていることは確かだ。

エルフとは違い、闇魔法に対する適が高く、好戦的でに対して開放的な奴らが多い。

どれもエルフとは正反対な特だ。

エルフ達は、ダークエルフを不浄の種として蔑み、ダークエルフは好戦的故に、エルフの傲慢な態度が許せず歩み寄りはしない。

結果、両者の関係は悪化の一方だと聞く。

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しかし、この世に関心のない私と、エルフの里から追放された彼には、エルフとダークエルフとの確執など関係がなかった。

生きるためには互いに協力が必要。

ただそれだけだ。

「茶化すな! 上流に、上流側に、マジックイーターが出たんだ! 人族だったが、ゴブリンを引き連れていた!」

し落ち著いたらどうですか? いくつか理解し難い容が聞こえた気がしましたが、まぁいいでしょう。仮にレイアの言うことが全て正しいと仮定して、マジックイーターとは、伝記にもある大魔師のマジックイーターのことを指していますか?」

「そうだ! ネスが信じられないのも分かる! 私だって信じられなかったんだ! だが実際にこの眼で見た! ショックボルトという紫電を発生させる呪文で、あの巖陸亀をいとも簡単に倒すところもだ!」

「ショックボルト…… ですか、なるほど。巖陸亀を倒したのは確かですか? あの魔獣は私達の魔法でも撃退するのが一杯なほどの、強力な魔法耐を持つ魔ですよ?」

「ああ。だが奴は呪文2発で倒した。私達が束になっても倒せなかった巖陸亀をだ。亀の甲羅に私達が付けた傷を確認したからきっと同じ巖陸亀だろう。そしてその後、倒した巖陸亀の魔力を取り込むところもはっきりと確認した」

「俄かには信じ難い話ですが…… もし、それが真実であれば、そのマジックイーターの目的が気になりますね。何か他に報はありますか?」

「うっ…… いや、それは……」

「どうしました? 何かあったのですか?」

「すまない…… その、急に怖くなったんだ…… すぐその場を立ち去ったから詳しいことは分からない」

私は素直に白狀した。

奴に恐怖を覚え、逃げ帰ったのは事実だ。

そして私の役割は偵察だった。

であれば、じたことを全て伝えるのが役目だろう。

すると、ネスは笑いながらこう言った。

「くっ、ははは。あのレイアが子供のように泣いて逃げ帰るような相手だったと言うことですか! くっくっく。狀況は分かりました」

「ちっ… 誰が泣いて… いや、もうその話はいい。これからどうするつもりだ?」

「どうすることもできないですね。巖陸亀を簡単に倒す伝説の大魔師。それが本當であれば私達に勝ち目はありません」

「じゃあこのまま隠れてやり過ごすのか?」

私の問いに、ネスは底の見えない表で、し口元を釣り上げた。

「いや。これは私達にとってチャンスでもあります。マジックイーターでないとしても、強者であることは変わりません。であれば、私達の敵かどうか見極めて、協力者になり得るようであれば接を試みようじゃないですか」

私はネスの返答に驚く。

ネスは、間近で奴の底知れぬ力をじていないから言えるのだと思った。

「正気か!?」

「正気のつもりですよ。ですがレイアこそし冷靜になった方がいいでしょう。他に何をじたかは分かりませんが、必要以上に恐れ過ぎです」

「ぐっ……」

確かに私は過剰に奴を恐れているのかもしれない。

理由は分からないのだ……

いや、分からないからこそ怖いのだ……

「レイアには、引き続きその魔師の監視をお願いします。できますか?」

「……分かった。私にしかできないのなら、私がやるしかないだろう」

「ふっ、頼みましたよ?」

「これは貸しだ! 覚えておけ!」

「承知しました。覚えておきます。ですが無理はしないでください」

「……分かっている」

出発は明日の朝。

私は偵察の準備をするため、自分の寢床へと戻った。

◇◇◇

翌朝、偵察へと向かおうと外に出ると、貓耳を生やした黒の小さなの子が小走りで近づいてきた。

「ネネ、こんな朝早くにどうした? 飯ならないぞ」

「にゃー! 違うー! これ、お守り! レイアにあげる!」

そう言うと、ネネは紐で作られた腕をくれた。

「こんなのがお守りか? ただの紐だろ? ……冗談だ。泣くな。ありがたく貰っておくよ。だから泣くなって」

「にゃいてなーい! もー! レイア無理ダメだよー! 死んじゃ嫌だからね!」

「分かった分かった。だからもう向こうへ行け。泣き蟲がうつる」

「ううー! レイア、素直じゃないね! みんな言ってるよ!」

「なんだと!」

「きゃー! レイア怒ったぁー!」

私が怒る素振りを見せると、ネネは笑いながら走り去った。

ネネは、私と同じ逃亡奴隷だ。

劣悪な環境下にて衰弱死しそうだったところを私が発見し、無理矢理連れてきた経緯がある。

それ以降、私に懐いている。

昔の私では考えられないことだが、今ならネネのために死ぬことができるだろう。

それだけ私もあの子に救われている部分が多いのも確かだし、自覚もしている。

ただ、私は甘えるという行為が苦手だ。

や畏怖の眼を向けられることはあっても、を向けられる経験はなかったのだ。

仕方ないだろう。

「しかし本當に唯の紐か? 後で裝飾品の作り方を教えなければいけないな」

今の私には帰ってくる場所がある。

目的もある。

簡単に死ぬ訳にはいかない。

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