奴らはすぐに見付けることができた。

それもそのはずだ。

こんな危険な場所……

大牙獣のテリトリー近くに……

更には、魔達が水を飲みにやってくるような水場に拠點を作り、あまつさえ火を起こして炊き出し。

（考えられない！

奴らは死にたいのか！

こんなもの、魔達に襲ってくれとアピールしているようなものだ！

……いや、待てよ。

それが狙いか？）

マジックイーターは、命を奪った上で、その命の源――魔力マナを喰らうという。

であれば、魔を敢えてき寄せるというのも筋が通る。

（ここに生息する魔は敵ではないということか……

ふざけた奴らだ。

しかし、ゴブリンを配下にするとは。

ゴブリンなど、戦力になるどころか足を引っ張るだけの存在だろうに。

それより、最初よりもゴブリンの數が増えている気がするが……）

昔から、ゴブリン種は1匹見たら100匹はいると思えということわざがある。

奴の配下も何百、いや何千という配下がいるのかもしれない。

（恐ろしい……

だが、寢床にしている窟は確か行き止まりだったはずだ。

ゴブリンの巣がどこにあるのかも突き止めなければ……）

食事を終えた奴らは、滝壺へ近づき、おもむろに服をぎ、水浴びをし始めた。

綺麗好きなゴブリンとは珍しい。

ゴブリン達を見張っていたマジックイーターもまた、服をぎさり、滝壺へとっていった。

部には “マナ喰らいの紋章” が見える。

（やはり見間違いではなかった！

奴はマジックイーターだ！）

男のは見慣れていたが、奴のはやはり異質に見えた。

傷一つない綺麗なに、均衡のとれた筋。

そして皮を被ったナニ。

（クックック……

可らしいものだな！）

奴等はを滝壺で洗い終わると、各々が日當たりのよい巖の上で寢転び始めた。

無防備過ぎる。

だがこれも魔をき寄せるための罠なのだろう。

「ガァルァアア！！」

案の定、餌に釣られてジャガーが近くの茂みから飛び出してきたのが見えた。

全のゴブリンが餌に見えたのだろう。

一番近くにいたゴブリンへと走る。

しかし次の瞬間、私はゴブリンの行に驚かされた。

逃げる素振りを見せず、全のままを丸めてジャガーへ突進して行ったのだ。

予想外の展開に、ジャガーもゴブリンを警戒して飛び避けたが、無策だと分かると再度ゴブリンへと飛びかかった。

だが、全のゴブリンは急所を腕で守っているため、中々しぶとい。

他のゴブリン達は、この隙に各自が武を手に取り、マジックイーターを守るように態勢を立て直した。

まるで長年訓練された軍隊のようなきに、思わず見ってしまった。

（これが…… ゴブリンのき…… か？）

ゴブリンは弱小種族だったはず。

そして、自分勝手で橫暴、同種族の仲間の命すら無下に扱う下等種族だ。

自分の命を即座に犠牲にする判斷や連攜など、ゴブリンが獨斷で出來るとは到底思えない。

だが、奴等はそれをほぼ阿吽の呼吸でやってのけた。

一瞬の躊躇いもなく。

まるで自分達が使い捨ての駒だと分かっているような行だ。

私は言い知れぬ怖さをじた。

「全員でジャガーを攻撃！ 生かして返すな！ 見ゴブ2を救え！！」

突然の號令にビクッとが直する。

私は、心冷や汗でいっぱいだった。

先ほどまで、奴のナニを可らしいと嘲笑っていたのにだ。

それだけの気迫が、奴の號令には含まれていたのだろう。

（気迫だけでこのプレッシャー…… 化め……）

號令をけたゴブリンの行は素早かった。

各々が全速力でジャガーへと突進する。

あるものはジャガーの正面へ、あるものはジャガーの両サイドへ回り込んだ。

「糞貓がぁあああ！！」

奴の怒號が木々を震わせた。

ジャガーも怯んだのか、その場で直している。

すかさずゴブリンの1が火の玉を放ち、逆サイドからもう1のゴブリンが飛び掛かる。

ジャガーは、向かってくる火の玉に驚き、避けようと瞬時に飛び退いた。

だが、退路に先回りしたゴブリンに斬りつけられ、甲高い悲鳴を上げた。

その後、ジャガーは更に突進してきたゴブリンに腹を槍で貫かれたが、まだ致命傷にはいたっていないようだった。

もがくように暴れるジャガー。

すると、マジックイーターが凄い勢いで突っ込んでいった。

一瞬何が起きたのか分からなかった。

次に奴を見たときには、奴はジャガーの首元に腕を回して締め殺そうとしていた。

負傷していたとはいえ、仮にも兇暴な “ガルドラのジャガー” を、だ。

それを全で羽締めにし、絞め殺すなど……

その一連の景は、私に息をするのも忘れるくらいの衝撃を與えた。

奴の元では、ジャガーの魔力を喰らった紋章が、まるで生の心臓のように、鼓のリズムに合わせて淡い輝きを放っていた。

◇◇◇

奴等がジャガーを仕留めた後、私はを隠せる簡易的な寢床を木の上に作り、そこから奴等を見張ることにした。

見張りを再開すると、丁度マジックイーターと2のゴブリンが、滝の橫の崖を登っている姿が視界にった。

「……正気、なのか？」

あの崖上からはガルドラ樹海の中層にあたり、生息する魔獣が更に兇暴になる。

有名なのは、ガルドラの大牙獣とガルドラの爬蟲竜。

どちらも個々の強さは、複數のベテラン冒険者で討伐可能なBランククラスだが、どちらも知能が高く、群れで狩りをする習があるため、討伐ランクはB+として扱われる兇暴な魔獣達だ。

いや、巖陸亀を簡単に倒すような奴ならB+ランク相手でも大丈夫なのだろうが……

因みにAランクまでいくと、討伐に軍隊が必要とされるくらいの危険度となる。

（奴は何か中層に目的があるのだろうか？）

すぐ思いつくところとしては、最高級の食材として取引される魔獣「虹鼠」、霊薬の調合薬として価値の高い「白蓮草」あたりか。

前者は爬蟲竜、後者は大牙獣の好であり、それぞれがその生息領域をテリトリーとして群れている。

爬蟲竜も大牙獣も、そのテリトリーを侵さなければ遭遇することはない。

逆に言えば、そのテリトリーを侵せば、奴等はテリトリーの外に出てくる可能が高くなる。

仮にも奴等の好を持ち帰ろうものなら……

「ちっ！ 余計なことを！」

私は舌打ちしながらも、奴の背中を睨み付けることしかできなかった。

◇◇◇

待つこと數時間。

ドボォオオオン！！

ーーバダァァアアン！！

崖から滝壺へ、マジックイーターとガルドラの大牙獣が飛び込んだ。

嫌な予が的中した。

大牙獣がテリトリーから出てきてしまったのだ。

「その獣を陸に上げるな！ そのまま全員で仕留めろ！！」

大牙獣は泳ぎが不得意なのか、水面を前足で叩いて必死に泳いでいる。

そこへゴブリン達が石や木の槍で攻撃し、大牙獣を陸へ上がらせないよう対応している。

私でも知らない大牙獣の弱點をつく、上手い策だと心したが、問題はそこではない。

滝壺から上がったマジックイーターは、ゴブリンの槍を手に取ると、そのまま大牙獣の口へ突きれ、一撃で倒してしまった。

（こんなにも簡単に大牙獣を倒すのか……）

しかし、大牙獣がテリトリーを出てまで追ってきたとなれば、他にも奴を追って下層まで降りてきた大牙獣がいるかもしれない。

これは死活問題だ。

今すぐ里へ戻り、警戒を促したい衝に駆られたが、今は奴等の向を探るのが先だろう。

濡れた服をぎ、全になった奴の後ろ姿を睨め付ける。

ふいに奴の綺麗なが目にり……

しムラついた気持ちが湧きあがった。

「クソッ！ なぜこんなときに…… 奴なんかにを……！」

生命の危機をじさせるような畏怖すべき存在を前に、魔族のが刺激されたのだろうか。

暫くご無沙汰だったの復活に複雑な気持ちを抱きつつも、私の眼は奴のを凝視し続けた。