《【書籍化】マジックイーター 〜ゴブリンデッキから始まる異世界冒険〜》293 - 「黃金のガチョウのダンジョン7―祝福された庭師」

「待て、ランスロット」

男がそう告げ、剣に魔法を纏い始めた剣士を手で制した。

男の名は、マーティン・ガーデナー。

イーディス領では名実ともにトップに君臨するAAクラン――祝福された庭師ブレスト・ガードナーのクランリーダーだ。

そして、もうひとりの剣士は、イーディス領隨一の魔法剣士オールラウンダーとも呼ばれる天才であり、祝福された庭師ブレスト・ガーデナーの隊長格でもあるランスロット・ブラウンだった。

マーティンが話を続ける。

「まだ奴が敵だと決まったわけじゃない」

「そんな悠長なこと言ってる場合? 急時に敵か味方か分からない場合は、殺られる前に殺る。ダンジョンでの鉄則でしょ? 忘れたの? それに、もし敵じゃなかったとしても、拘束した後に解放すればいいだけよ」

ダンジョンは無法地帯であるが故に、基本的に見知らぬ者とパーティを組んだり、協力し合うことは相當なリスクを伴う。

善人を裝って近付き、油斷した相手の隙をついて致命傷を負わせ、ぐるみを剝いだ上で、ボス部屋に投げれて証拠隠滅を図るというという輩も多いからだ。

だが、マーティンはランスロットの提案を卻下した。

「駄目だ」

「あの格好と裝備からして魔法使いソーサラーよ? 先にかれたら厄介だわ」

「お前が何と言おうと、まずは話を聞く」

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マーティンの強い意思がこもった言葉に、ランスロットが眉間にシワを寄せて一瞬黙った後、渋々口を開いた。

「……いいわ。でも、しでも向こうが変なきを見せたら殺るわよ」

ランスロットの言葉に無言で返したマーティンが、炎の翼を生やして空に浮かんでいる男に聲をかける。

「俺は祝福された庭師ブレスト・ガードナーのクランリーダー、マーティン・ガーデナーだ。急時につき、無駄な戦は避けたい。所屬と名前を教えてくれ」

だが、男は素直に答えなかった。

「そこで大人しくしていろ。俺はあのカニを先に片付ける」

そう言って黒い長杖を空へ掲げた。

杖にいくつかの紫電が走り、急激に発達し始めた積雲が、菫の空を黒く染めていく。

「大気作系の古代魔導アーティファクトか!?」

マーティンが空の変化に驚き、ランスロットが殺気を放つ。

「だから言ったのよ。魔法使いソーサラーに先手を譲ってあげるなんて無駄死にたいの?」

「ま、待てランスロット!」

マーティンの制止も聞かず、ランスロットが目にも留まらぬ速さで跳躍。

上空にいる男へと迫った。

「敵を攻撃するフリして私たち諸共消そうとしても無駄」

無表の男と視線がわるも、ランスロットは跳躍の勢いのまま剣を振り上げ、一閃。

だが、男も魔法使いソーサラーとは思えないのこなしで防いだ。

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ランスロットの放った斬撃が、男の黒杖ぶつかり、黃い火花を散らす。

(弾かれた!?)

意外な結果に一瞬驚くも、相手を即死させるつもりはなかったために、狙いが淺くなりすぎたせいだと解釈した。

(まぐれは二度も続かないわよ――空駆ソウク!!)

ランスロットの姿が不意に消える。

空を高速で駆けることできる移スキルだ。

剎那の間に、男の背後をとったランスロットが、赤紫の髪を舞い上げながら、剣を振り下ろす。

(もらったッ!!)

赤い剣閃が走り、男の殘像が切り裂かれる。

(えっ!? また躱された!?)

意外な結果に驚愕するランスロット。

だが、殘像の中に垣間見えた男の次の作を予見したランスロットは焦った。

(まずいッ!!)

剣を振り下ろしたことで発生する短い直。

男はその隙きを狙ったかのように、回避した勢のままを捻り、ランスロットの脇腹へ、いつの間にか片方の手に握っていた短剣を突き立てようといていた。

(回避……間に合わなッ――)

「鋼の意志スチール・ウィルッ!!)

瞬時に回避できないことを悟ったランスロットが、防力を高める簡易魔法インスタントを簡易詠唱ショートキャストで強引に行使。

の魔力マナがごっそり消費されるも、間一髪のところで間に合う。

男の振るった短剣がランスロットの脇腹にれ、その瞬間、鋼の意志スチール・ウィルの効果で強化された防が輝き、の粒子が火花のように舞い上がった。

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「ぐぅッ!?」

短いき聲をあげたランスロットが、弾き飛ばされるようにして落ちていく。

(そんな……逆に私がやられた!?)

咄嗟に鋼の意志スチール・ウィルを行使したおで軽傷で済んだランスロットは、落下中に勢を立て直した。

そして、そのまま地面に著地。

衝撃で水飛沫があがる。

「やってくれたわねッ!!」

負けず嫌いなランスロットは逆上していた。

こめかみに管を浮かび上がせた顔で上空を振り返り――頭上から降り注ぐ閃に言葉を失う。

男が間髪れず追撃魔法を放っていたのだ。

咄嗟にその場から離れようとするも、著地した衝撃で泥濘みに足がハマっており、すぐくことができない。

(よ、避けられないッ――)

大きく見開いたランスロットの瞳が真っ白に染まる中、防魔法の込められた魔導アーティファクトが発し、ランスロットの周囲に白いが出現。

線からランスロットを守った。

だが、それも一瞬で亀裂がり、急速に崩壊し始める。

(なんて出力!!)

魔法が僅かな時を稼いだお影で、直撃を免れたランスロットだったが、その場から退避するにはもうし時間が必要だった。

(ま、まだッ――)

焦るランスロットの視界に、ふいに黒い影が映り込む。

地面から勢いよく迫り上がった黒い木の幹だ。

(マーティン!? ナイスッ!!)

魔法が稼いだ僅かな時間は、マーティンが援護に回るだけの時を稼いでくれたようだ。

黒い木は次々と連続でせり上がり、ランスロットの盾となる。

男が放った線が木の幹に到達すると、最初の幹を即座に蒸発させたが、そこで止まった。

木の幹に當たった線が、稲妻となって木の幹を伝い、地面へと流れる。

(これは……雷魔法!!)

直後、橫から球による援護撃がる。

これらの援護は、マーティンが得意とする植作魔法と、魔法だ。

マーティンが放った球が、黒髪の男が放った線がぶつかると、眩いを放つ発が発生した。

間近にいたランスロットが再び弾き飛ばされたが、すぐさま勢を立て直し、悠然と空に浮かび、見下ろしてくる男を睨みつける。

「まだよッ!!」

そこへ、ふたりの間に割ってったマーティンがんだ。

「ふたりとも止めろッ! 斷頭ガニギロチン・クラブの群れが迫ってるッ! このまま共倒れするつもりかッ!!」

だが、頭にがのぼったランスロットに、マーティンの言葉は屆いていなかった。

ランスロットがに淡い赤りを纏い始める。

再び攻撃を仕掛けるため、能力をあげる補助魔法バフを自にかけたのだ。

しかし、ランスロットがくよりも早く、マーティンが一瞬で距離を詰めると、怒りの形相でランスロットのぐらを摑んだ。

「お前もいい加減にしろッ! いつになったらその短絡的な格を直すんだッ! 狀況を考えろッ!!」

「な、なによ」

いつもは溫厚なマーティンが激怒した姿に、いつもは強気なランスロットが珍しくたじろぐも、マーティンはすぐランスロットを突き放し、男へ向き直った後、帯剣していた武を地面に置くと、両手をあげた。

「非禮は詫びる。この通りだ。蓮生やしの巨大ガニロータス・ジャイアントクラブを討伐する邪魔はしない」

「マーティン!?」

ランスロットが非難の聲をあげるも、マーティンは無防備な勢のまま、男の返事を待った。

「勝手にしろ」

素っ気なくそれだけ告げた男が、視線を蓮生やしの巨大ガニロータス・ジャイアントクラブへと戻す。

話が通じたことに、マーティンはをなでおろした。

「すまない」

だが、ランスロットは納得がいっていなかった。

「どういうつもりッ!?」

そう詰め寄るも、マーティンは有無を言わせない険しい表でランスロットに告げた。

「一旦ここから下がるぞ」

直後、まるで津波が押し寄せてくるように、青いカニが雪崩込んでくる。

こうなってしまっては、さすがのランスロットも撤退する以外に選択肢はなかった。

「そうね……」

ふたりがその場から撤退すると、上空に発生した積雲がゴロゴロと大きな音をあげてり始めた。

ランスロットがマーティンに問う。

「あの男、何者なの? 間違いなく魔法使いソーサラーのきじゃなかったわ。私の剣を2回も躱すなんて。それにあの線、呆れるほどに出力の高い雷魔法よ。信じられる?」

「そのようだ。あの黒い杖が雷系統の古代魔導アーティファクトなのは間違いないだろう。もしかしたら、俺たちと同じ魔法剣士オールラウンダーかもしれないな」

「もしそうだとして、あの実力で私たちが顔を知らないなんて」

「世界は広い。俺たちが知らない強者なんて腐るほどいるだろ」

「だとしても、ここはイーディス領管轄のダンジョンよ? それに――」

「待て! なんだあれは!?」

遠方で巨大な竜巻が発生しているのが見えたため、慌てて足を止める。

「どうやら、他にも冒険者がいるようね。あいつの仲間かしら」

「そうだとすれば、尚の事慎重にくべきだったな」

「あなたがそんな態度だから、腐敗の運び手ロット・ライダーの連中にも舐められるのよ」

ランスロットの當てつけに、マーティンが顔をしかめるも、ふたりの會話は地響きを伴う落雷によって中斷された。

轟音とともに背中を叩く暴風によろけつつ、すぐさま後ろを振り返る。

「凄まじい威力だ……」

「ええ。でも、蓮生やしの巨大ガニロータス・ジャイアントクラブは魔法だけじゃ倒せないはずよ」

「だろうな。俺たちふたりでも、あれを討伐するのはかなり時間がかかる」

「じゃあどうするつもり? あいつがをあげるまで悠長に順番待ちでもするってわけ?」

「いや、勿ないが、帰還石を使って出直そう。その方が早い」

「……はぁ、仕方ないわね」

マーティンが魔法袋から帰還石をひとつ取り出すと、ランスロットがマーティンの腕を摑む。

マーティンが頷き、魔力マナを込めたが、帰還石に反応はなかった。

「おかしい……」

「なにもたついてるの?」

「帰還石に魔力マナを込めても反応がない」

「まさか不良品? これひとつで白金貨1枚もする超高級品よ!?」

「そんなはずは……」

最悪なシナリオが脳裏を過る。

マーティンが急いで予備の帰還石を取り出すと、同じように魔力マナを込めた。

だが、ひとつ目と同様、何の反応も示さない。

「……してやられたな」

「え……まさか予備の帰還石も?」

「何の反応もない」

マーティンの言葉に、ランスロットが絶句する。

「……偽にすり替えられた可能は」

「この魔法袋は俺じゃなければ中を取り出せないから、それはないだろう。それに、信頼できる鑑定士數人に確認させた直後に魔法袋にしまってからは、今まで一度も取り出す機會もなかったしな」

マーティンが苦い顔で続ける。

「しかし、こんなことができるとは……前からガチョウのダンジョンだけが、他のダンジョンと比べて全滅率が高いのが気にかかっていたが、理由はこれか。帰還石の使えない特殊フロアに飛ばせるとは恐れった」

黃金のガチョウのダンジョンにおけるパーティ全滅の原因は、それまで泥棒王メガ・クロオウチュウや泥棒鳥クロオウチュウによって帰還石や魔法袋などの重要アイテムが奪われることが原因だと言われていた。

だが、それも盜難防止の魔導アーティファクトや、戦闘パーティと後方待機パーティとで役割を分けることで対策は可能だったため、冒険者ギルドとしても頭を悩ませていたのだ。

すると、ランスロットが聲を荒げた。

「そんな悠長なこと言ってる場合!? 帰還石が使えないってことは、私たちが蓮生やしの巨大ガニロータス・ジャイアントクラブを討伐しないといけないってことなのよ!?」

「そうなるな」

あっさりと答えるマーティンに、ランスロットは顔を真赤にして何か言おうと震え――力するように息を吐いた。

「はぁぁああ……あーいやだいやだ。白髪増えたら責任とってもらうから」

「責任な。そろそろそれもいいかもな」

「……え? 今なんて」

ランスロットが驚いた顔で聞き返す。

先程から落雷が頻発しており、會話がところどころ聞き取れない狀況ではあった。

「無事にここから抜け出せたらな」

空を駆け巡る無數の稲を見上げながら、マーティンが真顔で告げる。

「そう……分かった」

ランスロットはそれ以上聞かず、真剣な表に変わる。

AAランクに到達し、イーディス領でもトップクラスの実力をもつふたりでも、70階層守護者の変異種となれば、厳しい戦いになることは必至。

勝率は良くて五分。

それも、蔵の古代魔導アーティファクトを出し惜しみせずに使ってようやく達できるかどうかの際どい確率だ。

「様子を見つつ、まずは援護に回ろう」

「あいつがれるかしら」

れるさ。蓮生やしの巨大ガニロータス・ジャイアントクラブは一筋縄ではいかないからな」

――――

▼おまけ

【R】 皇帝ミオトラグス・オクト、3/5、(青)(緑)(1)、「モンスター ― ビースト、ヤギ」、[水上歩行] [水魔法攻撃Lv3] [理攻撃耐Lv3] [魔法攻撃耐Lv3]

「菫のモンスターハウス、攻略5日目。もうダメだ。まだ夜想曲を奏でる人面鳥ノクターン・ハーピーを仕留めていないのに、別の階層の守護者が出現した――パラベドの日記」

【UC】 突進するミオトラグス、1/4、(青)(緑)、「モンスター ― ビースト、ヤギ」、[水上歩行] [理攻撃耐Lv1] [魔法攻撃耐Lv1]

「菫のモンスターハウス、攻略6日目。空には舞い踴る人面鳥ダンシング・ハーピーが飛びい、地上ではミオトラグスの群れが突貫してくる。味方はもういない。帰還石も相変わらず何も反応しない。今は息を殺してを隠すことしかできない――パラベドの日記」

【UC】 泥棒鳥クロオウチュウ、1/1、(青×2)(2)、「モンスター ― 鳥」、[魔導強奪魔法Lv2] [魔導作魔法Lv2 ※使用上限:毎ターン1回まで] [飛行]

「菫のモンスターハウス、攻略7日目。金屬音のような鳴き聲が聞こえる。まさか――パラベドの日記」

【R】 泥棒王メガ・クロオウチュウ、2/2、(青×2)(4)、「モンスター ― 鳥」、[魔導強奪魔法Lv5] [魔導作魔法Lv5 ※使用上限:毎ターン3回まで] [飛行]

「頼みの綱だった隠匿の外套クロークオブカァンシールメントが奪われた。もう隠れてやり過ごすこともできない。せめてこの日記だけでも地上に送ることができれば――パラベドの日記、最後のページ」

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