《【書籍化】マジックイーター 〜ゴブリンデッキから始まる異世界冒険〜》294 - 「黃金のガチョウのダンジョン8―石」

の空が、無數の稲妻が走る巨大な積雲に覆われている。

その真下では、轟音とともにいくつもの落雷が絶えず落ち続けており、地上にいる大型モンスター――蓮生やしの巨大ガニロータス・ジャイアントクラブの甲殻を著実に削りつつあった。

落雷により、甲殻の上部を舞っていた赤い蝶のようなカニ――斬り裂く蝶カニバタフライクラブは大分數を減らしたが、地上一面が染まるほど大量に湧いた青のカニ――斷頭ガニギロチンクラブは、まばらに生えた黒い樹木をなぎ倒しながら周囲に広がっている。

(ここまでいモンスターが大量に湧くと、この杖でも火力不足が否めないな……)

杖とは、マサトが眠りの森のダンジョンで獲得した雷眼の鍛冶神アルゲスの黒杖のことだ。

だが、杖ひとつで先程のハーピーの群れを一掃できたのも事実。

決して、雷眼の鍛冶神アルゲスの黒杖が弱いわけではない。

(地道に削っていくしかないか……?)

念のため周囲を警戒する。

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先程、突然現れた冒険者らしきに攻撃されたばかりだったからだ。

誤解があったようだが、異世界人の常識と現代人の認識のズレは相変わらず慣れないとマサトは溜息を吐いた。

マサトとしてはそんなつもりはなかったとしても、魔法が使える異世界で杖を掲げることは、現代でいうところの「拳銃を向ける行為」と同じだったのかもしれない。

その問題の冒険者2人組は、どうやらここから離れたようだ。

大量のカニの群れが迫ってきたので、當たり前といえば當たり前だが、地上から數十メートルの高さで滯空しているマサトに一瞬で薄し、鋭い斬撃を放ってきた実力は相當なものだといえた。

あの時は、咄嗟の判斷で月食の雙剣ハティ・ファングを取り出し、[俊足Lv4] の効果で相手のきを凌駕することができたが、次回も上手くいく保証はない。

手練れの剣士相手であれば、同じ手は通用しないと考えた方がいいだろう。

もちろん、ちゃんと対処すれば勝てる相手だという認識ではあったが、ふいに背後から奇襲されたとなれば話は変わる。

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(念のため、護衛を召喚しておいた方が良さそうだな)

「闇の眷屬」

闇の眷屬召喚は、闇を育むものデザストルを取り込んだ時に手した稱號『深闇の化を喰らう者デザストルイーター』の能力のひとつだ。

闇の支配者Lvと同等の攻撃力と防力をもつ眷屬を、Lv分だけ召喚できる能力だが、殘念ながらまだマサトの闇の支配者Lvは1と最弱である。

とはいえ、闇の眷屬はシェイドタイプのモンスターであるため、周囲の警戒はできるだろうと判斷しての召喚だ。

黒い淡いりの粒子が舞うと、頭から黒い布を被ったような、半明の影のモンスターが現れた。

「お前は周囲を見張れ」

命令を認識したのか、闇の眷屬がその場を離れ、ようやく目の前の巨大カニに集中できるようになる。

黒杖の先をカニへ向け、魔力マナ込めると、黒杖に黃い稲妻が走った。

そして放たれる眩い――超高電圧による放電、雷魔法攻撃Lv5だ。

極太の線は、一直線に巨大カニへとび、その巨大な甲殻に當たった。

バチバチと周囲に稲妻が走り、それまでゆっくりと移していた巨大カニが上を僅かに沈ませる。

(やはりいな……手応えはあるが、貫通はできないか。出力をあげれば、このまま焼ききれるか?)

追加で魔力マナを込めて出力をあげると、さすがに耐えかねたのか、巨大カニが口から大量の泡を吹き始めた。

だが、次の瞬間、巨大カニの甲殻が青く輝き始める。

(なんだ……?)

輝きは徐々に強くなった。

そして、遂にはマサトがそれまでじていた手応えにも変化が起きた。

それまで甲殻の一點を焼き続けていた線が、甲殻の表面をるように四方に流れ始めたのだ。

(まさか……魔法無敵!?)

浮島要塞プロトステガとの戦爭の際、白群の大型飛空艇――リヴァイアス號がサイクロプスの熱線をけた時の景と重なる。

リヴァイアス號は、[魔法無敵] という最強の防をもつ海神リヴァイアサンの鱗で作られた飛空艇だ。

(厄介だな……)

手応えもなくなったため、これ以上の雷魔法攻撃は無意味だと悟る。

マサトが魔法の放出を止めても尚、巨大カニは青くに覆われた狀態のままだ。

だが、先程と異なり、カニは移を止め、その場に靜止しつつ、口元から泡とともに青い卵のようなものを大量に吐き出していた。

(青いカニの卵か? 防を固めているうちに手下を増やすパターンのようだが)

手下のカニを増やしたところで、空を飛べないモンスターは驚異にならない。

そう判斷したマサトだったが、次の瞬間、その判斷が間違いだと気付く。

青いカニの群れから何かが飛來したのだ。

それは青い斬撃だった。

最初はまばらに放たれたそれも、次々と他のカニも続いたため、無數の青い斬撃が合わさり、最後は青い波となって面で迫ってきたのだ。

(もうしだけ高度をあげるか……)

飛來した斬撃を回避するだけであれば、今のマサトには造作のないことだった。

問題は次の一手だ。

(魔法は効かず、かといって近付けば、青いカニの群れが無數の斬撃を放ってくる)

例え近付けたとしても、あの強固な甲殻を割るには相當な力と時間が必要だろう。

一方で、あまり悩んでいる時間もないように思えた。

なぜなら、先程まで沈黙していた巨大カニの背に、菫の花が咲き始めたからだ。

それは距離の離れた上空にいるマサトでも分かるほど、濃厚な魔力マナを放つ花だった。

(何かし始める前に片付けた方が良さそうだな)

マサトが決斷する。

敵が切り札を出すまで大人しく待ってやる必要はない。

「石の雨ストーンレイン」

【UC】 石の雨ストーンレイン、(赤)(X)、「ソーサリー」、[石の雨LvX] [土地破壊Lv1、ランダム]

行使したのは、土地破壊の効果が付いた、X火力呪文だ。

立派な攻撃魔法だが、降らせた石自理判定になるため、魔法無敵の相手にも有効打になる。

込めるマナは10マナ。

大抵のモンスターを殺せる威力にはなるだろう。

問題は、狙いを付けることができず、フレンドリーファイアどころか、自分も攻撃範囲に含まれてしまう諸刃の剣となることだが、石の雨を回避するだけであればそれほど難しいことではない。

命中率に欠陥のある石の雨ストーンレインだが、今回のように的が巨大で、尚且かない敵に対してであれば、當たる確率も格段に高くなる。

マサトのから赤いの粒子が舞い上がると、マサトの更に上空に、巨大な魔法陣が次々と浮かび上がった。

(よし。一旦退避するか)

魔法が発さえしてしまえば狙いが固定されるため、その場からいても効果範囲に影響はない。

後は、巨大なカニに、運良く石の雨が被弾してくれることを祈るだけだ。

マサトがその場から撤退したのと、魔法陣から巨大な火の玉が飛び出してきたのは、ほぼ同時だった。

石の雨と表現するには過小評価過ぎるほどの大きな隕石が、炎に包まれた狀態で勢いよく落下していく。

まず1発目が地面へ落ちると、衝撃波でクレーターができ、音とともに大きな土柱が上がった。

(始まったか)

どうやら1発目は外れたようだ。

だが、その周辺にいた青いカニは跡形もなく木っ端微塵になっていた。

次々と上空の巨大な魔法陣から放たれる石の雨。

そして遂に、その中の1発が巨大なカニの脳天に直撃した――。

――――

▼おまけ

【UC】 石の雨ストーンレイン、(赤)(X)、「ソーサリー」、[石の雨LvX] [土地破壊Lv1、ランダム]

「雨は神からの贈りであり、それが途絶えるのは神の罰である。神の怒りは時に石の雨を降らせるが、それが途絶えても神の許しにはならない――墮天使イオリ」

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