《【書籍化】マジックイーター 〜ゴブリンデッキから始まる異世界冒険〜》305 - 「黃金のガチョウのダンジョン19―騙し合い」
ヴィリングハウゼン組合の第二班隊長であるメストが、マサトとタコスの壯絶な衝突を目の當たりにして息を呑む。
(首領ドンと正面から毆り合って引き分けた……? どういうことだ? あの男はそれほどに強いのか?)
目の前で起きたその出來事をすぐにはけれられず、その場で呆然としていると、メストに向けて誰かがんだ。
「おいメストッ! お前はまだ正気かッ!?」
第一班隊長のケイ・チャムだ。
燃えるように赤い髪を苛立たしげにかきあげながらやってくると、睨みつけるようにしてメストの顔を凝視した。
突然視界にってきたケイに気が付き、我に返ったメストがいつもの調子で答える。
「至って正気だが」
淡々としたメストの返事に、ケイがしほっとした様子で頷く。
「……おし、いつものお前だ」
ケイはそう言ってすぐ周囲に目を向ると、再び険しい表になり、悪態をついた。
「クソがッ! 何だったんだあれはッ!!」
メストはその言葉だけで、ケイが何に対して憤っているのか察した。
「あの影のことか」
あの影とは、マサトが周囲へ放った悪魔的集団憑依デモニックマスポゼッションのことだ。
メストとケイは、あの影の正が何なのかまでは分かっていなかったが、部隊全が何かしらの攻撃をけたということは理解していた。
ケイが口を開く。
「あの不快な影のせいで、俺の部下は正気を失いやがった。聲をかけても毆っても反応ひとつしねぇ。黒く染まった眼でぼーっと見返してくるだけだ。今は大人しくしてるが、嫌な予しかしねぇ」
「それでこっちに來たのか」
その返答に、し馬鹿にされた気分になったケイは、軽く舌打ちをして不快を顔に出すも、ため息を吐くように話し始めた。
「ああ、そうだ悪いかよ。俺の部隊は、あの手の攻撃と相が悪いのは知ってるだろ。支援役も無力化されちまったら立て直しが効かねぇんだよ」
主力部隊にも、支援役と呼ばれる回復や支援に特化したサポート専門の隊員がおり、部隊が危機的な狀況に陥った時でもけるよう、比較的安全な後方編となっている。
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だが今回は、その後方に位置していた隊員ですら全て飲み込まれてしまうほどの広範囲攻撃だったため、部隊を立て直そうにも、その手段を斷たれた狀態になってしまっていた。
不機嫌そうな顔で口を尖らせたケイに、しだけ首を傾げたメストが淡々と答える。
「いや、別に悪いと言っているわけではない。さすがにあの攻撃は想像を凌駕していた。予備作はおろか、周囲の魔力マナの歪みすら一切なかったからな。妨害魔法を得意とするユージの部隊ですら何もできずに飲み込まれていた」
「ユージの部隊でも駄目か。なら、お前の部隊はどうだ? あの手の攻撃に耐があったはずだろ? 支援役は殘ってるか?」
ケイの言葉に、メストがようやく後方にいるはずの部下たちへ目を向けるも、すぐさま顔をしかめた。
「……どうやら狀況は芳しくないようだ」
「黒魔法に耐のあるお前の部隊でも駄目ってことは――クソッ!」
から炎を溢れさせながら憤るケイを余所目に、メストはこの後どう行するべきか周囲の様子に気を配りながら考えていた。
(あの影に抵抗できた部下は、ざっと見渡した限りでもたった數人……今はこの場で部隊の立て直しに専念するべきか……? いや、立て直しを図るにしても、洗脳や作系の魔法に耐のある裝備でを固めているはずの支援役でも抵抗できなかったとなれば、さすがに対処できる許容を超えているか……対処法も分からない狀態では、手段は限られてくる)
そこまで思考し、部隊の指揮を放棄して合流を選んだケイの選択にようやく理解が追いつく。
「俺たちだけでも首領ドンの元へ向かおう。幸い、カシが標的の確保に功したようだ」
メストの視線の先には、遮斷する白いプリズムホワイトプリズムアレイと思わしき白いの壁が空高くびている。
そのの壁を隔てる形で、タコスとマサトが対峙しているのが見えた。
メストがケイを促す。
「首領ドンから次の指示があるはずだ。それにサヤもカシの近くにいたはず。どちらにせよ、ここで悩み続けるよりはマシだろう。行こう」
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「チッ、仕方ねぇか」
瞳が黒く染まった部下たちを目に、ふたりはタコスの元へ移し始めた。
◇◇◇
白いの壁――遮斷する白いプリズムホワイトプリズムアレイを隔てて向かい合うマサトとタコス。
落ち著いた様子のマサトと違い、タコスの表には焦りが見え始めていた。
「シェイド系の悪魔デーモンを使った広域洗脳……これほどの奧の手があったとは……」
タコスが小さい聲で呟く。
仲間だった者たちから殺気を向けられたことで、攻勢から一転、油斷の許さない狀況へと流れが変わったことに気付いたのだ。
そして、この形勢を覆すには、遮斷する白いプリズムホワイトプリズムアレイの向こう側にいるカシかサヤの力が必要だということも。
「中々やりおる……」
タコスの視線が、マサトの側で悪びれた様子もなく、飄々としているカシへと向く。
兜から僅かに覗くカシの瞳は、他の者たちのように黒く染まるといったような異変は見られなかったが、タコスはマサトの何かしらの力によって、すでにカシも洗脳狀態にあると判斷した。
(念の為にと、主戦場から遠ざけておいたことが裏目に出たか……)
ヴィリングハウゼン組合にとって、カシが率いる第六班は後方支援部隊の要であり、今回のような非常事態における保険でもあった。
さすがのタコスでも、第六班隊長のカシだけでなく、第六班の隊員全てが一斉に洗脳される事態になるなど想定すらしていなかった。
(これは困りましたな。せめてサヤが健在であれば……)
第五班隊長であるサヤは、黒髪の――シャルルからびる複數の影によって拘束されていた。
タコスが影に抵抗しているうちに一戦あったらしく、先程まで裝備していた兜はげ、彼の特徴的な白磁はくじいろの長髪は、頭部から流れたによって所々赤く染まっていた。
今は、後ろ手に縛られた狀態で項垂れている。
だが、タコスはそこに違和をじた。
(拘束されているということは、カシのように洗脳はされておらぬのか? なぜだ? カシは洗脳できて、サヤは洗脳できない理由があるというのか?)
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考えを巡らせながら、視線をマサトへと戻す。
「ふむ……」
の壁越しに見えるマサトには、しの揺も見られない。
(見た目の若さと噛み合わぬ、老練な指揮のようなこの落ち著きよう……まだ何か奧の手があると? それとも虛勢か?)
そう疑ったタコスであったが、目の前の男は、自分と正面から毆り合える力量をもち、悪魔デーモンなどの闇の軍団を従えた闇の支配者ザ・ダーク・ロードであることは確かである。
それだけでも相當な戦力となるが、更にあの男は、どんな手段を使ったのか分からないが、兇悪な時魔法を駆使する世界主ワールド・ロードと手を組んでしまった。
その上、部隊全への強力な洗脳である。
部隊の大半は無力化され、先程まで標的を追い込むことに功していた狀況が一転し、気が付けば自分たちが崖っぷちに立たされることになっていた。
これには、さすがのタコスも驚きを通り越して、敵を稱賛したい気持ちに駆られたほどだ。
だが、諦めるにはまだ早いと、タコスはゆっくりと口を開いた。
「他の者を人質にとるとは。お主はそのような姑息な真似はしないと思っておったが、我輩の見込み違いでしたかな?」
タコスがそう挑発するも、マサトは冷靜だった。
「これも俺の力の一つだ。命懸けの戦いに、自分の力を使うのは當然だろう」
マサトはそう告げた後、目を瞑りながら一呼吸置いた。
タコスには、その仕草の機微が、なにかを躊躇っているかのようにもじられたが、黙って様子を窺っていた。
再びマサトが話し始める。
「これが最後の通告だ。世界主ワールド・ロードは諦めて、ここで退け。そうすれば、俺も彼らの洗脳を解く」
「なぜそのような提案を?」
率直な疑問だった。
タコスの質問に、やや間があった後、マサトは視線をし下げつつ、素直に心を吐した。
「……約束を反故にした負い目がある。救うために戦う必要があっただけで、無闇に敵対したいわけでも、殺がしたいわけでもない」
「ふぅむ……」
タコスが腕を組みながら唸る。
この狀況下で、改めて撤退を促されるとは思っていなかったからだ。
(ただ純粋に、無駄なを流したくないと……?)
そう考えて、つい鼻で笑ってしまう。
仮にも相手は、多元宇宙マルチバースに數多に存在する世界の管理者――世界主ワールド・ロードの中でも、混沌と絶が渦巻く闇の世界を支配する者たち――闇の支配者ザ・ダーク・ロードの名をもつ者だからだ。
(闇の支配者が慈悲を口にするとは。似合いませんな。となると、これはブラフであり、なにか注意を反らしたいものが別にあるということですかな? そう、この大規模な洗脳になにか欠陥があるとか……)
タコスの口端が僅かに上がる。
そしてその判斷に至ったのは、タコスだけではなかった。
「隨分、必死じゃねーかよ、おい。早く撤退してほしい理由でもあんのか? あぁ?」
全から溢れ出す炎を揺らしながら現れたのは、第一班隊長のケイだ。
その後に、黒い靄を纏った第二班隊長のメストも続く。
「首領ドン、第一班も第二班もほぼ無力化されてしまいました。ですが、ここまで大規模な洗脳が、相応のリスクなしで実行できるとは到底思えません。なくとも長時間の維持は不可能かと」
メストの言葉にタコスが頷き、マサトへ告げた。
「ふむ、なにか反論はありますかな?」
「……これでも退かないか」
「ん? なんですかな?」
小さく獨り言を呟いたマサトに、タコスが首を傾げながらも聞き返すも、マサトはすぐに返事をしなかった。
ふたりの間に沈黙が流れ、その間に第三班隊長のリュウ・オウと、第四班隊長のユージも合流する。
タコスが再びマサトへ問いかける。
「そこにずっと隠れていても、狀況は好転しませんぞ? ロンサム・ジョージが息絶え、このフロアが崩壊するまでそこにいるつもりですかな?」
マサトはともかく、世界主ワールド・ロードはこのフロアの崩壊を阻止したいはずだとタコスは踏んでいた。
そして、行するためには遮斷する白いプリズムホワイトプリズムアレイを解く必要があると。
ケイも続く。
「おい腰抜け野郎! そっから出てきて俺と戦えッ!!」
すると、ようやくマサトが反応した。
鋭い眼をケイに向けながら、怒気のこもった低い聲で告げる。
「そんなに戦いたければ、戦わせてやる」
マサトの瞳に仄暗い紫の炎が燈り、濃厚な殺気がマサトのから溢れ出すも、ケイがそれに気付いた様子はない。
上等だとばかりに、ケイが威勢よく煽る。
「ハッ! ならかかってこいよオラァッ!!」
挑発を続けたケイだったが、突然周囲から向けられた殺気に表を一変させた。
「なんだッ!?」
勢いよく振り向いたケイの瞳に、無數の火球が映り込む。
自分の部下たちが、ケイたちに向けて攻撃を開始したのだ。
「お前らッ!? クソッ!!」
迫りくる火球の弾幕を、ケイは咄嗟に炎の盾を目前に現化させて防いだ。
タコスは周囲にのを展開し、メストやリュウたちもそれぞれ獨自の方法で防いでみせた。
だが、それは単なる牽制でしかなかった。
火球の弾幕に続く形で、複數の黒い影がタコスたちに襲いかかる。
最初に攻撃をけたのはケイだ。
接近してきた黒い影から放たれた黒い斬撃を、瞬時に現化した赤くる剣で弾くと、炎を纏った拳で迎え撃った。
「目ぇ覚ましやがれッ!!」
振り抜かれた赤い拳が黒い影を捉える。
「ガハッ!?」
小発が起こり、黒い影が衝撃で消し飛ぶと、黃い全鎧姿の戦士が姿を現した。
その黃い鎧は、ルードヴィッヒのの鎧と呼ばれる魔導アーティファクトだ。
主力部隊は、全員がこの鎧を裝備しており、容姿で部隊を判別するはないが、ケイにはそれが第二班の隊員だと分かっていた。
黒い影を纏った飛行戦は黒魔法によるものであり、メストが率いる第二班が得意とする戦でもあったからだ。
兜越しとはいえ、顔を強打された隊員は、意識を飛ばしたのかそのまま落下していった。
その様子を凝視していたケイが苛立つ。
「クソッ! どうすりゃいいんだッ!?」
落下していく隊員に変化は見られなかったため、洗脳も解けていない可能が高いと判斷したのだ。
「全員気絶させるしかねぇのか!? ふっざけんなッ!!」
周囲にはまだ複數の影が様子を窺うように旋回しており、その他にも炎を舞い上げた隊員たちが迫ってきている。
メストやリュウ・オウも同じような狀況だった。
どの隊長格も、洗脳されているだけの部下たちを殺すことはできず、かといって手加減しながら戦うには數も多く、次第に防戦一方になっていった。
それはタコスも同じだった。
(まさかここまで強い洗脳とは……)
周囲を見渡したタコスが額に汗を浮かべる。
主力部隊だけでなく、カシやサヤが率いる後方支援部隊までもが、自分たちを敵とみなして攻撃してきたことで、ようやく自の誤ちに気付いたのだ。
(ぬかったか……仮にも闇の支配者ザ・ダーク・ロード。我輩たちの常識では測れぬ存在であったか……)
マサトという存在を過小評価しすぎていたと、結局は自分にも自覚できていない奢りがあったのだと、タコスは悔やんだ。
だが、タコスが正しくマサトの評価ができなかったのは、仕方のないことでもあった。
マサトはこの世の理から外れた存在であり、マサトが行使する魔法もまた、この世の理から外れた力である。
最初からこの世の理で測れる対象ではなかったのだ。
悔しさで歯を強く噛み締めたタコスだったが、決斷と意識の切り替えは早かった。
大きく息を吐き出すと、おもむろに両手をあげてんだ。
「我輩の負けであるッ! 降參ですぞッ!!」
タコスへと高速で接近してきていた3つのが、タコスの間近でぴたりと停止すると、それぞれ槍の先をタコスへと向けた狀態で姿を現した。
槍の扱いに長けている戦士が多いのは、リュウ・オウが率いる第三班だ。
(止まったということは、洗脳した者に遠隔で指示も出せるということですかな)
そう狀況を分析しつつ、あることに気付く。
(もしや、この人數全てに指示が出せると? だとすれば、とんでもなく恐ろしい力ですな……)
大粒の汗が額を流れる。
これ以上の戦闘継続は、部隊の大半を失う覚悟をしなければならないと判斷したからだ。
さすがのタコスでも、その心労は相當堪えるものだった。
ケイら洗脳されなかった部隊長も、タコスのびに応じてきを止めたが、どの部隊長も、その表は苦渋に満ちていた。
降參宣言をけたマサトが、タコスへ告げる。
「……いいだろう。そのままこのフロアから出ろ。洗脳した者はその後に続かせる」
「お主の言う通りにしよう。ただ、ひとつだけ我輩の頼みを聞いてはくれぬか?」
「なんだ?」
「そこにいる負傷したサヤも連れて行きたい」
し間があった後、マサトが口を開く。
「駄目だ。後で向かわせる」
「それならせめて、無事だけでも確認させてはくれぬか?」
タコスの懇願に、マサトがシャルルに視線を送り、シャルルが無言でサヤを拘束をいくつか解く。
上半の拘束が解けたことで、項垂れたままのサヤが、そのまま力なくお辭儀するような形で前のめりになった。
「おい、顔をあげろ。意識があるのは分かってる」
マサトがそう告げると、サヤのが小刻みに揺れ始めた。
「ふ……ふふふ……」
「……笑ってるのか?」
マサトが問い、シャルルが再び影をばし、サヤの首を締め上げて強制的に上を向かせる。
のこびり付いた白磁はくじいろの髪がれて顔にかかるも、その髪の隙間から覗く口元は笑っていた。
狂気を孕んだ瞳を大きく見開き、マサトを見上げたサヤが口を開けると、口の中で白く輝く寶石を噛んでいるのが見えた。
焦ったカシがぶ。
「あっ!? やっべ忘れてた! それを今すぐ止めさせて! じゃないと――」
カシが言い終わる前に、サヤが行に移す。
「ヴィリングハウゼンを舐めんじゃないわよッ!!」
サヤはそう吐き捨てると、口の中にあった寶石を噛み砕いた。
その瞬間、サヤを中心に白い波が発的に広がった。
白い波は一瞬での壁へと到達すると、を中和しつつ外へと急速に広がっていく。
「フッフ、お手柄ですぞッ!!」
白い波を浴びたタコスがサヤに稱賛を送る。
サヤが噛み砕いた寶石は、周囲の付與魔法エンチャントや魔導アーティファクトを一時的に無効化する魔導アーティファクト――靜寂の白き波石サイレンス・ホワイトストーンだったのだ。
「邪魔な壁は消えたッ! 後は全力で頭を叩くのみッ! 行きますぞぉおおおッ!!」
全から黃金のを放ち始めたタコスが、マサト目掛けて突進をかける。
背後にの殘像が発生するほどの高速移だ。
一瞬でマサトとの距離を詰めたタコスは、そのままマサトの首を摑み、突進した勢いのままその場からマサトを強引に押し出した。
シャルルがマサトの救助に向かおうとするも、すかさずメストがその行く手を阻み、世界主ワールド・ロードのエヴァーには、待ってましたと言わんばかりのケイ・チャムとリュウ・オウがそれぞれ攻撃を仕掛けていた。
タコスに首を摑まれたマサトが抵抗しながらぶ。
「くっ……これを狙っていたのか!!」
「フッフ、約束を反故にされた気分はどうですかな? これでお互い様ですぞ」
「部下の命が惜しくはないのか!?」
「ヴィリングハウゼン組合の志を侮ってもらっては困りますな。我輩たちは最後のひとりになったとしても、任務遂行を続行する組織ですぞ?」
「チッ……」
「我輩たちの心配より、お主自の心配をしてはどうですかな?」
「なに……?」
次の瞬間、マサトの首を摑んでいたタコスの手から眩いが放たれ、瞬く間にマサトとタコスを飲み込んだ。
「白炎陣ハクコウバクエンジンッ!!」
白き閃が迸った後、まるで時間を巻き戻したかのようにその閃が収束すると、大発を引き起こした。
その場に浄化効果のある聖なる白きと炎による超高溫発を発生させる、タコスの奧義のひとつである。
程距離がなく、敵を捕まえておくか、敵の懐にる必要はあるが、その威力は世界主ワールド・ロードをも仕留められると言われるほどのものであった。
當然、発者への負擔も大きく、連続では使用できないなどのリスクもあるが、タコスは確実にここでマサトを仕留めておかなければならないと判斷したのだ。
(者を仕留めれば、洗脳も解けるはずであるが……)
発の余韻が風に流されて消えていく中、四肢の吹き飛んだマサトの姿を見ながらタコスが思案する。
(さすがの闇の支配者ザ・ダーク・ロードも、聖なる白き炎には抗えなかったようですな)
タコスは一息つくと、再び全に力を込め、マサトの首を握りつぶした。
から切り離された頭部が落下ざまに黒い粒子となって消える。
四肢を失ったマサトのも遅れて黒い粒子となって霧散。
その景に、タコスが一瞬固まる。
「……まさか」
タコスが嫌な予に目を見開くと同時に、タコスを呼ぶメストの聲が響いた。
「首領ドンッ! それは偽だッ! 本はこっちにいるッ!!」
タコスが聲のした方角に勢いよく振り向くと、一際強いを放つ炎を纏ったふたり――ケイ・チャムとマサトが、激しく戦しているのが見えた。
「うぬぬ……あれは紛れもなく本であったはず……一どういうことなのだ……」
◇◇◇
(あれがカシの言っていたタコスの奧義か。あれを空撃ちさせたのは大きいな)
タコスが発させた白炎陣ハクコウバクエンジンを遠目で見ていたマサトが、ケイ・チャムを相手にしながらそう考えていた。
タコスがマサトだと思っていたのは、マサトが深闇の化を喰らう者デザストルイーターの力で作り出した闇の眷屬だった。
闇の眷屬に、カシが所持していた一時的に姿を変えることができる魔法の薬――多相の薬シェイプシフターポーションを振りかけて偽裝し、タコスたちが洗脳した組合員たちと戦し始めたときに、本はシャルルの影の中にを隠したのだ。
マサトとしては、敵の不意を突ければいいと考えての策だったが、それが思わぬ果を生んだ結果となった。
「余所見してんじゃねぇえッ!!」
炎を纏った男が毆りかかってくる。
火の加護をもつケイ・チャムだ。
気迫は凄いが、タコスに比べると虎と子貓ぐらいの差があるなと、マサトは迫ってくる赤髪の男を見て他もない想を抱きながら、魔力マナを凝させたことで赤く輝き始めた拳を繰り出した。
「シッ!!」
先に突き出したケイの拳よりも、後に繰り出したマサトの拳が先にケイ・チャムの頬を捉える。
「グふッ!?」
ケイの頭部が発し、その衝撃でケイがを回転させながら弾き飛ばされるも、すぐ勢を戻し、一瞬だけ驚いた表を見せた。
だが、すぐにマサトのカウンターにやられたことを理解したのか、怒りに顔を赤く染めると、雄びをあげた。
「そんなな拳が効くかよッ! オラァああああああああッ!!」
ケイのから猛烈な熱風が吹き荒れ、それが炎となって渦を巻いていく。
炎は次第に大きくなっていき、一匹の大蛇へと変わった。
「灰燼と化して消えやがれぇえッ! 蛇炎煌牙ジャエンコウガッ!!」
炎の大蛇が大口を開けて迫ってくる。
マサトは橫に回避しようとくも、炎の大蛇はマサトのきに合わせて軌道を変えた。
ケイが笑う。
「ハッ! この蛇炎からは逃げられねぇよッ!!」
どうやら、この炎の大蛇には追尾能があるようだ。
それならと、マサトは瞬時に魔力マナを練り、高圧させた火球を作った。
それを炎の大蛇の口へと放つ。
火球は瞬く間に大蛇の口へると、大蛇を木っ端微塵に吹き飛ばすほどの大発を起こした。
「なにッ!?」
風に目を細めながらも、ケイが驚きの聲をあげる。
そして、発によって広がった炎と煙の中から飛び出してきたマサトに気付くと、信じられないものを見たかのように目を見開いた。
「そんな馬鹿な……蛇炎煌牙ジャエンコウガが打ち消された……?」
自の奧義が簡単に破られた事実をけ止められなかったのか、敵を目の前にして隙きを曬すケイの顔面に向けて、マサトは無言で腕を振り抜いた。
「ぐぅはッ!?」
鮮が飛び散り、白い歯が數本宙を舞う。
すかさず、マサトがケイの首を左手で摑み、全力で締め上げた。
「ィッ!? がはっ!?」
ケイがマサトの腕を摑み、抵抗しようとあがく。
だが、力の差は歴然としていた。
マサトの片手すらも振りほどけずに暴れるケイの顔が、赤から紫に変わっていく。
悔しそうな視線を向けるケイへ向けて、マサトが告げる。
「俺と戦いたかったんだろ? どうだ? これで満足か?」
挑発を返されたケイが、怒りと苦しさで眼を充させるも、マサトは構わず続けた。
「ひとつ気になってたんだが、なぜお前だけ兜を被ってないんだ? あの厄介な兜があれば、ここまで不用意に顔を狙われることも、首を締められることも、そのまま頭を刺されて殺されることもなかっただろうに」
その言葉と、の消えたマサトの瞳の奧に潛む闇を垣間見たケイが、恐怖で目を見開く。
「よ、止せ……」
首を左右に振り、止めるよう必死に訴え始めたケイを無視し、マサトは月食の雙剣ハティ・ファングをケイのこめかみに突き刺した。
瞳孔が上を向き、瞼の中へと消える。
「殘り、あと4人・・か……」
――――
▼おまけ
【UC】 靜寂の白き波石サイレンス・ホワイトストーン、(白)(1)、「アーティファクト ― 波石」、[生贄時:周囲の付與魔法エンチャントや魔導アーティファクトを一時的に無効化する] [耐久Lv1]
「嵐の前の靜けさを知りたければ、赤の魔導工房で試しにこの石を砕いてみるといい。それまで騒がしかった工房が一瞬で靜かになるぞ――青の魔導工房長アオ」
【R】 多相の薬シェイプシフターポーション、(青)(1)、「アーティファクト ― 薬」、[生贄時:対象を2つ選ぶ。一時的に前者は後者のコピーになる。ただし、能力は使用できない] [耐久Lv1]
「東部の森林地帯に潛んでいた青い皮をもつ一族ミミスティークを絶やしにした際の戦利品。彼ら一族の能力に似た効果を得ることができる代。A級管理――ヴィリングハウゼン組合備品記録」
★★『マジックイーター』1〜2巻、発売中!★★
また、文社ライトブックスの公式サイトにて、書籍版『マジックイーター』のWEB限定 番外編ショートストーリーが無料公開中です!
・1巻の後日談SS「ネスvs.暗殺者」
・2巻の後日談SS「昆蟲王者の大メダル」
https://www.kobunsha.com/special/lb/
これからも更新続けていきますので、よろしければ「いいね」「ブクマ」「評価」のほど、よろしくお願いいたします。
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