「エヴァーか？　どこだ？」

周囲を見渡す。

だが、エヴァーの姿や気配をすぐには見つけることはできなかった。

マサトが困していると、シャルルから念が屆いた。

『旦那様、こちらに』

（分かった。今行く）

マサトがシャルルの元へ向かう。

エヴァーは、し離れた場所で、力なく地面に両膝を付いていた。

母となるドラゴンは、両翼だけでなく、両腕すらも失った狀態で、よく見れば、そのはしずつ塵となって消えていっている。

その景に目を見開き、瞬時に不味いと思ったマサトが焦る。

「今すぐ治療を！！」

今ここでエヴァーを失うことは、せっかく摑みかけた兄の報を失うことに繋がる。

エヴァーの治療は最優先事項だ。

焦る気持ちを抑えつつ、先程手したデッキから、回復手段となるカードを探す。

だが、それをの聲が止めた。

「あり、がとう。でも、もう……」

そう言いながら、エヴァーはそれまで大切に両手で持っていた菫の四ツ葉ヴァイオレット・クローバーを、エヴァーの目の前――し視線を下げた場所に降り立ったマサトへと見せた。

エヴァーの小さな手に握られた葉は、綺麗な菫の輝きを放っているものの、その輝きは最初に見た頃よりも弱く、そして何よりも四枚あったはずの葉が、今は一枚しか殘っていなかった。

「この四ツ葉の力も、もう殘ってないの……死ぬはずだった、私の命を繋いだのは、この四ツ葉のお。この四ツ葉が消えるとき、私も消える……」

「消える！？　なにか方法があるはずだろ！？」

そう聞いたマサトに、エヴァーが微笑み、何か納得したような表を見せた。

「ふふ、その顔、Ｊジェイにそっくり。ああ、だからあの時……」

「馬鹿なこと言ってないで、消えずに生き殘る方法を考えろ！！」

諦めにも似た雰囲気をじたマサトがエヴァーを叱責する。

だが、エヴァーは何かを悟ったようにひとりで頷いていた。

その間も、エヴァーの母はしずつ塵となって消えていく。

マサトは必死にカードリストを探るも、直接的な回復魔法カードはなかった。

だが、回復魔法を使えるモンスターカードや魔導アーティファクトカードをいくつか見つける。

「今、治療できるやつを召喚する！　まだ逝くなよ！？　お前には聞きたいことが山程あるんだ！！」

そう告げ、マサトが召喚を行使しようとすると、突然エヴァーがり輝いた。

直後、エヴァーが母となるドラゴンの部から、を投げるようにするりと飛び出す。

「なっ！？」

思わず召喚行使を中斷するほどに驚くマサト。

母となるドラゴンから飛び出したエヴァーの背には、の粒子でできた二対の羽が生え、母に埋まっていた下半には、の白い綺麗な足が２本しっかりとついていた。

涙を流し、けれども微笑みを浮かべながら、両手を広げたエヴァーが落ちてくる。

突然のことに混しながらも、マサトは咄嗟に手を広げた。

「お、おい！？」

だが、エヴァーをけ止めようとばした手はエヴァーをけ止めることができなかった。

マサトへと到達したエヴァーは、直前にの泡となって消えたからだ。

マサトの頭の中に、エヴァーの聲が響く。

『もう、私に殘された時間はないから……私を信じて助けてくれたお禮に、殘った私のすべてを捧げます……それが、きっと未來の私のためでもあるから……』

直前までエヴァーだったの泡が、マサトを優しく包み込む。

すると、マサトの脳裏に數多の映像が浮かんでは消えた。

それは、エヴァーの記憶の殘滓だった。

エヴァーの記憶を覗いたマサトが、宙を見つめながら呟く。

「そうか……そういうことだったのか……」

マサトはしの間、ぼんやりとその記憶を思い返していた。

◇◇◇

エヴァーが殘した記憶はとても斷片的で、完全なものではなかったが、それでもマサトにとっては有益な報だった。

記憶は、エヴァーが高次元霊として生まれ、まだ名もなき小さな存在だった頃から始まる。

――エヴァーが住んでいた世界の名は、蓮の箱庭ロータス・ガーデン。

清らかな水としい花々に囲まれた、まさに霊たちにとっての楽園だった。

だが、その平和な世界に、別の次元の存在――終末の不死者エムラグールが侵略してきたことで世界は一変してしまう。

終末の不死者エムラグールは、次元に存在するあらゆるものを捕食し続ける不死の生命だ。

侵略者に対し、蓮の箱庭ロータス・ガーデンに住む霊や生命も必死に抗ったが、終末の不死者エムラグールには敵わなかった。

鮮やかな世界は、瞬く間に侵食され、荒廃した灰の世界へと変貌してしまう。

その壊れた世界の片隅で、存在が消えかけていたエヴァーを救ったのが、マサトの兄――Ｊジェイだった。

Ｊジェイは、終末の不死者エムラグールを追って次元を渡り歩いてきたと最初は告げたが、エヴァーにれたことで何かをじ取ったのか、エヴァーという名とともに、濃厚な魔力マナを蓄えた菫の種を與えると、エヴァーが回復するまで荒廃した世界に留まった。

そこで、マサトは當時のエヴァーには理解できなかったＪジェイの言葉を聞くことになる。

「これから告げることは記憶の伝言だ。ただ覚えておいてくれればいい」

「マナ喰らいの紋章を進化させろ」

「過去を算し、更に力を付けて、次の次元へ向かえ」

そして最後にこうも言っていた。

「菫の葉が最後の１枚になった時、君は、君を信じた者の中で眠りにつくことになる。だが、心配しなくていい。この不思議な菫の植は、葉がすべて枯れ、その実が消えた後も、宿主に付いた思念は殘る。そして、何かのきっかけで新たに生まれ変わった時、初めて蕾をつけ、別の存在へと進化するんだ。君の名は、その時に咲く花の名から取った。その花の名は、時を経てもエヴァー褪せることのないヴァイオレット不朽の頭狀花クローバーと呼ばれている。奇跡の花だ」

その後、菫の種を取り込んだことで霊としての格が上がったエヴァーは、別の次元へと旅立つＪジェイと別れた。

エヴァーは、Ｊジェイから得た力を使い、自が生まれた世界に再び緑を取り戻そうと考えていたからだ。

Ｊジェイは不可能だとエヴァーに忠告したが、エヴァーは頑なに譲らなかった。

當然、終末の不死者エムラグールによってあらゆる生命が絶されただけでなく、世界の核ですらも命を吸い取られてしまった世界の崩壊を止めることは容易ではなかった。

それでもエヴァーは最後の最後まで諦めることはなかったが、結局は世界の崩壊を止めることができずに終わってしまう。

２度目の絶に涙し、世界の崩壊とともに発生した次元の嵐に巻き込まれるエヴァー。

気の遠くなる間、次元を彷徨い続け、再び存在が消滅する寸前まで衰弱したエヴァーだったが、奇跡的にとある次元の世界へと流れ著く。

それが、このグリムの話世界グリム・ワールドというわけだ。

エヴァーは、そこで祝福された庭師ブレスト・ガーデナーの創設者であり、ガードナー家の初代當主となる庭師――イーグリットと出會った。

植をする心優しき庭師だったイーグリットは、高次元の霊であるエヴァーの神格にれたことで豹変してしまう。

エヴァーを神のように崇め、狂信するようになったのだ。

そして、次元の嵐によって消耗しきったエヴァーを救おうと己のすべてを捧げた。

己の娘の命さえも。

イーグリットは、病弱だった娘のを依代として生贄に捧げることで、エヴァーの命を救ったのだ。

人族にとっては高位の霊にあたるエヴァーの依代となったことで、イーグリットの娘の人格は消え、金の髪も菫に変わる。

もはや見た目すらも別人のようになってしまったが、イーグリットは病気を治療したことでの副作用だと、妻や周囲の者を無理矢理納得させた。

霊であるエヴァーには、人族であるイーグリットがした行為に心を痛めるような倫理観はなかったため、イーグリットの行為に恩はじても、負い目をじるようなことはなかった。

エヴァーは救ってくれたことに対する見返りとして、自の力の一部を與える契約をイーグリットとわした。

契約により、エヴァーから力を得たイーグリットは、妻の反対を押し切って農夫から冒険者へと転職。

瞬く間に頭角を現し、程なくして富と名聲を勝ち取ることに功する。

イーディス領のトップクラン――祝福された庭師ブレスト・ガーデナーの誕生だ。

だが、次第に力を取り戻しつつあったエヴァーの存在を周囲に知られることを恐れたイーグリットは、エヴァーの存在を帝國から隠すため、エヴァーをダンジョンに隠すことを思いつく。

エヴァーの隠れ家として選ばれたのが、黃金のガチョウのダンジョンというわけだ。

大都市イーディスの西部に位置し、時の進みが遅くなる特殊な大型ダンジョンである黃金のガチョウのダンジョンは、娘の治療という裁においても好都合だった。

エヴァーも、イーグリットの提案を素直にけれた。

グリムの話世界グリム・ワールドに漂流した際に、強力な力をもつ世界主ワールド・ロードの存在をじ取っていたため、その世界から隔離されたダンジョン世界であれば、を隠すのに適していると判斷したからだ。

それ以降、エヴァーは長い時をダンジョンで過ごすことになる。

最初こそ、平穏な日々を暮らせていたエヴァーだったが、予期せぬことが起きた。

エヴァーのもつ大きな力が、ダンジョンに影響を與え始めたのだ。

エヴァーの強い魔力マナに長期間れたことで、ダンジョンの守護者のうちの１――うたた寢するシマガメドゥラウジング・トータスが突然変異。

笑い狂う島嶼ラフィング・マッド・アイル、ロンサム・ジョージとして生まれ変わる。

そして、ロンサム・ジョージが長したことで、新たな世界――菫の小世界ヴァイオレット・ガーデンが誕生。

エヴァー自も、意図せず世界主ワールド・ロードへと覚醒してしまう。

時は進み、イーグリットが老衰で亡くなり、ガーデナー家はイーグリットの意志を継いだ息子のローリーへと託された。

だが、エヴァーにとっては不運が続く。

エヴァーの住む菫の小世界ヴァイオレット・ガーデンへ行く方法は、當初はエヴァーと契約したイーグリットのをけ継ぐ者たちだけであったが、ダンジョン自もエヴァーの力の影響をけて変異していった結果、菫の小世界ヴァイオレット・ガーデンへの扉が不用意に開かれることが多くなってしまったのだ。

菫の小世界ヴァイオレット・ガーデンへの侵者が増え、再び世界が壊されることを恐れたエヴァーは、自の世界を守るため、眷屬化したモンスターを配置して守らせるようになった。

そして出來上がったのが、生存率０％の特殊フロア――菫のモンスターハウスというわけだ。

その頃から、次第にイーグリットの子孫たちとの流も減り、エヴァーにも人族に対しての恐怖心が育ったことで、ついには外との流も途絶えてしまい――今に至る。

（エヴァーは、ただ靜かに暮らせる場所がしかっただけだったのか……）

悲運な過去の記憶を覗いたことで、エヴァーに対して同心が生まれると同時に、エヴァーを助ける選択をとった判斷は間違いではなかったのだと、心がし軽くなった気がした。

すると、突然システムメッセージが目の前に表示された。

『特殊條件を満たしたため、新たな稱號を解放しました』

『稱號、託されし菫の願いヴァイオレット・ウィッシーズを獲得しました』

『世界主ワールド・ロードを討伐したため、闇の支配者ザ・ダーク・ロードがＬｖ１→２にあがりました』

エヴァーが死んだことで、闇の支配者ザ・ダーク・ロードの稱號レベルがあがり、新たな稱號を得た。

『託されし菫の願いヴァイオレット・ウィッシーズ』は、[火魔法耐Ｌｖ３] [神魔法耐Ｌｖ３] [能力補正＋０／＋３] に加え、毎ターンのマナ生(赤)(青)(緑)能力のまでついてくる破格の稱號だった。

だが、新たな力を得られたことよりも、エヴァーを自分が討伐した判定となっていたことに、マサトは不満を口にした。

「味方すらも、自分が長するための糧か。相変わらず狂ったシステムだな」

そう愚癡るも、このシステムに助けられてるのも事実だと、頭を振って余計な思考を掻き消す。

今、重要なのはそんなことではない。

問題は、こうなることを兄がすでに予見していたということだ。

（まさか、未來を視る力をもっているのか……？）

そう考え、恐らくそうなのだろうと特に疑うことなく納得する。

名前こそ呼ばれなかったが、兄の言葉が、自分に向けたものだと確信できるほどに、今のマサトの狀況に當てはまっていたからだ。

「紋章の進化と、過去の算、か……」

ステータスを開く。

マナ喰らいの紋章Ｌｖ５０（MAX)

ライフ １１／５０

攻撃力 １５（＋１０）

防力 １５（＋１０）

マナ : (白×１８８)(赤×５４１４)(緑×２１１４)(青×８８６１)(黒×６４２３)

加護：[炎の翼ウィングス・オブ・フレイム]

  [火の加護]

  [火吹きの焼印]

  [深闇の加護(稱號)]

  [影の憑依シェイドポゼッション]　New

  [幻影の爪ファントムクロー]　New

  [神聖な力ホーリーストレンクス]　New

裝備：呪師ショウズの命の指

※月食の雙剣ハティ・ファング

※茨の國の寶剣ヴァーダントナイフソーン

※雷眼の鍛冶神アルゲスの黒杖

補正：[自の初期ライフ２倍(紋章)]

  [基礎値５／５(紋章)]

  [召喚コスト上限１５(紋章)]

  [毎ターン：マナ生(赤)(青)(緑)　(稱號)]　New

  [火魔法攻撃Ｌｖ２]

  [闇魔法攻撃Ｌｖ５(稱號)]

  [防無視攻撃(稱號)]

  [飛行]

  [毒耐Ｌｖ５]

  [疫病耐Ｌｖ５]

  [火魔法耐Ｌｖ３(稱號)]　New

  [闇魔法耐Ｌｖ５(稱號)]

  [神魔法耐Ｌｖ３(稱號)]　New

  [眠り攻撃無効(稱號)]

  [闇の眷屬召喚(稱號)]

  [防破壊攻撃Ｌｖ３(稱號)]　New

  [洗脳強化Ｌｖ３(稱號)]　New

  [支配モンスターへの洗脳耐Ｌｖ３(稱號)]　New

  [不死Ｌｖ１(稱號)]　New

  [攻撃魔法強化Ｌｖ３(稱號)]　New

  [回復魔法強化Ｌｖ３(稱號)]　New

  [(黒)：一時能力補正＋１／＋０ ※上限３]　New

  [一時能力補正＋３／＋０]　New

  [能力補正＋１／＋１]

  [能力補正＋２／＋０]　New

  [能力補正＋１／＋２]　New

  [能力補正＋３／＋３(稱號)]　New

  [能力補正＋０／＋３(稱號)]　New

  [裝備補正＋０／＋１]

稱號：[次元を渡り歩く者ディメンションズ・ウォーカー]

  [深闇の化を喰らう者デザストルイーター]

  [眠りの森の殺戮王カーネイジキング]

  [闇の支配者ザ・ダーク・ロードＬｖ１→２]　New

  [を打ち砕く者ベセル・スマッシャー]　New

  [尊ぶべき絆を弄ぶ者ボンド・マニピュレーター]　New

  [死地を好む者デアデビル]　New

  [憎悪と慈悲の斷罪者ヘイトリッド・マーシー]　New

  [託されし菫の願いヴァイオレット・ウィッシーズ]　New

保有マナの総量はすでに２萬を超えていた。

２萬マナあれば、マナ喰らいの紋章を、世界喰らいの紋章へと進化させることができる。

同時に過去に戻るために必要なマナも２萬７千ほどになるが、力さえあればマナを稼ぐ手段はいくらでもある。

優先すべきは紋章の進化だ。

（ここで進化させてしまうか……）

そう考えたその時、地面から何かが舞い上がるのが視界にった。

「これは……」

舞い上がるそれを摑もうと手をばすも、その褪せた細かい粒子は、手をすり抜けて上昇し、消えていった。

「まさか、ロンサム・ジョージが死んだのか……？」

見渡す限り一面の地帯から煙があがるように、至るところで草木が塵となって空へと舞い上がっていっている。

それは、エヴァーの母であるドラゴンが消滅したときに見た現象と同じだった。

「急いでここを出ないと不味い。シャルル、行くぞ。ヴァートと合流する」

「はい、旦那様」

マサトとシャルルが菫の空へと飛び立つ。

上空から見渡した地平線の先は、真っ黒に染まり始めていた。

――――

▼おまけ

【Ｃ】　鋼の意志スチール・ウィル、(白)、「インスタント」、[一時能力補正＋０／＋４]

「ランスロットのそれは鋼の意志というより頑固なだけだろう――マーティン・ガーデナー」

【ＵＲ】　託されし菫の願いヴァイオレット・ウィッシーズ、(赤)(青)(緑)、「稱號 ― マジックイーター」、[毎ターン：マナ生(赤)(青)(緑)] [火魔法耐Ｌｖ３] [神魔法耐Ｌｖ３] [能力補正＋０／＋３]

「強き願いは、害意からを護る力となる。託されたその願いが強ければ強いほど、その力も強大になる。問題は、何の願いを託されたか、だ――願いを運ぶ使者ミツバ」

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これからも更新続けていきますので、よろしければ「いいね」「ブクマ」「評価」のほど、よろしくお願いいたします。