《【書籍化】マジックイーター 〜ゴブリンデッキから始まる異世界冒険〜》312 - 「黃金のガチョウのダンジョン26―ジャコ・シャ・コ」

「あ! 父ちゃん來たよ! おーい! こっちこっちー!」

空を見上げていたヴァートが、飛び跳ねながら両手を振る。

その周りには、ヴァートの師匠であるパークスだけでなく、イーディス領の案人として同行した後家蜘蛛ゴケグモ構員のアシダカの他、ダンジョンブローカーである闇ギルド――青の天眼ブルーヘブンリィアイズのチョウジ、菫のモンスターハウスで偶然鉢合わせた祝福された庭師ブレスト・ガーデナーのマーティン・ガーデナーとランスロット・ブラウン、それに加え、捕虜となった腐敗の運び手ロット・ライダーのリーダー、ジャコ・シャ・コらが全員集まっていた。

ヴァートはマサトの帰還を素直に喜んだ一方で、チョウジはありえないものを見たような表で、口を開けて停止している。

チョウジはマサトらが五満足では戻って來れないと考えていたのだろう。

それは、マーティンとランスロットも同じだった。

モンスターの軍勢を引き連れているとはいえ、まさかたったふたりで、金の鷲獅子騎士団グライフスヴァルトの主力戦力と同等と評価される、ヴィリングハウゼン組合を制圧してくるとは思ってもいなかったようだ。

(確かにヴィリングハウゼン組合は強敵だった。コントロール奪取魔法がなかったら危なかったな)

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マサト自も、今回の一戦はぎりぎりだったと実していた。

戦いを軽く振り返っていたマサトがマーティンとランスロットにも目を向けると、彼らは一瞬怯んだ様子を見せた。

張した面持ちのまま、マサトの向を注意深く窺っていたふたりへ特に話しかけるわけでもなく、マサトが他へと目を移す。

周囲の地形は大きく抉れていたり、腐敗の運び手ロット・ライダーのメンバーと思わしき死が無數に転がっている。

無殘に転がる死の傍で、無邪気な笑顔を浮かべる息子を見て、マサトは一瞬複雑な気持ちになったが、すぐに頭を切り替えた。

「そっちは問題なかったようだな」

マサトが地上に降り立ちながら聞くと、ヴァートはし照れくさそうに、それでいながら満足気にを張って答えた。

「もっちろん! ちょっとだけ強そうだった敵のボスは師匠がやっつけたし、他は大したことなかったよ!」

堂々と言い切ったヴァートの頭をくしゃくしゃとでてやると、ヴァートは「へへ」と笑った。

そんな仲睦まじい親子の一時を傍で見守っていたアシダカが、笑顔でマサトへ聲をかける。

「マサト様、ご無事で何よりです」

「ああ」

アシダカへ返事を返しながら、マサトはパークスへと目を向けた。

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泥棒鳥クロオウチュウの群れに上著を奪われたパークスは、上半のままだ。

用の銀縁の眼鏡も失っており、視界がぼやけるのか目を細めた渋い表でマサトを見ている。

マサトの視線に気付いたのか、パークスが口を開く。

「そちらは片付いたのですか? 世界主ワールド・ロードの気配が消えたようですが」

さすがはパークスだと、マサトが関心する。

目で確認できない分、周囲の気配に神経を尖らせていたようだ。

簡潔に答える。

「世界主ワールド・ロードは死んだ。だが、こっちの目的は最低限果たせた」

「そうですか」

なぜかと追及されると構えていたマサトだったが、パークスはそれ以上何も聞いてこなかった。

その代わりに、焦った様子のチョウジが左手をばしながら口を挾んだ。

「ちょ、ちょちょちょ! じゃ、じゃあヴィリングハウゼン組合はどうなったんスか!?」

「大方片付けた。生き殘っているのは、俺の力で洗脳した者たちだけだ」

そう告げたマサトの後方には、いつの間にか黃の全鎧にを包んだ戦士が靜かに待機していた。

「まさか本當の本當に、あのヴィリングハウゼン組合を……? それもたったふたりで……? めちゃくちゃかよ……」

話を聞いたチョウジが、あまりの衝撃に呆れる。

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驚いたのはチョウジだけでなかった。

祝福された庭師ブレスト・ガーデナーのマーティン・ガーデナーとランスロット・ブラウンも同様に言葉を失っていた。

だが、ランスロットに関しては持ち前の負けず嫌いを発揮したのか、赤紫の長髪を揺らしながらマサトへと詰め寄った。

遅れて我に返ったマーティンがランスロットを止めようとしたが、ランスロットが聲をあげる方が早かった。

「ありえないわ! ヴィリングハウゼン組合は全部隊が揃っていたのよ!? あんたたちたったふたりで敵う相手じゃ……」

ランスロットが言葉とともに足を止める。

目の前に、槍を突きつけられたからだ。

その槍を向けたのは、マサトに洗脳されたヴィリングハウゼン組合の槍士ランサーのひとりだ。

「ど、どういうこと?」

ヴィリングハウゼン組合員から武を向けられたことで、ランスロットは混した。

一方で、闇に対して知見の深かったマーティンは、その場にいる組合員が発する闇の気配が、マサトが放つ気配と同じことに気付いていた。

「止せランスロット。彼の言ったことは本當だ」

マーティンの言葉に、マサトが続く。

「そういうことだ。生き殘りは皆、俺の支配下にある」

「噓でしょ……そんなことって……」

すぐには納得できなかったランスロットも、自分に槍先を突きつけてきた組合員の、兜から覗く真っ黒な瞳を見て、その違和に気付く。

「まさか……」

まだ何か言いたそうにしていたランスロットだったが、マーティンに腕を引かれ、そのまま後ろに引き戻されていく。

マサトはそんなマーティンの後ろ姿を見て、エヴァーの記憶が頭を過ぎったが、ガーデナー家の三代目であるマーティンは、ガーデナー家に纏わるエヴァーとの契約を知らない。

ガーデナー家の二代目となった先代のローリーが、エヴァーに関する一切の報を隠蔽したからだ。

エヴァーは、ローリーがついた噓を見抜いていたが、契約はガーデナー家のが途絶えぬ限り続くため、エヴァーがその噓に言及することはなかったようだ。

なぜ先代が後世に契約の話を引き継がなかったのかは不明だが、推測はできる。

恐らく、エヴァーが原因と思わしき冒険者の犠牲が増えたことで、罪の意識が増したのだろう。

その罪の重荷をマーティンにまで背負わせたくなかったのかもしれない。

先代であるイーグレットがエヴァーと結んだ契約により繁栄したガーデナー家だったが、二代目のローリーにとっては、自の自由を奪い、ダンジョンに縛られる原因を作った諸悪の源――言い換えれば『呪い』だと認識していた可能すらあった。

(エヴァーは契約者として、ローリーが抱く負のにも気付いていた。エヴァーはローリーの怒りや恨みのを知った上で自由にさせていたんだろう)

エヴァーがじた孤獨すらも思い出したマサトだったが、過ぎたことだと忘れようとする。

なくとも、何も知らずに育てられてきたマーティンには関係のないことだ。

ここで真実を告げても証明する手立てがないというのもあるが、エヴァーが死んでも、エヴァーとの契約を結んだガーデナー家の直系子孫に流れるエヴァーのは殘る。

それを不純なだと嫌悪されるのは気分が良くないともじていた。

だが、それに水を差す人がいた。

腐敗の運び手ロット・ライダーのリーダー、ジャコ・シャ・コだ。

◇◇◇

後ろ手で縛られ、両膝をついた狀態のジャコが、崩れた青いオールバックヘアー越しに、恨みがましい視線を向けながら地面に唾を吐いた。

「けッ! てめぇら、やっぱりグルだったか。そりゃそうだよなぁ! あのモンスターに寄生したガーデナー家なら當然だよなぁ!?」

ジャコに再び家格を愚弄されたマーティンが立ち止まる。

その表は、込み上げる怒りをぐっと堪えているようだった。

だが、ジャコは構わず続けた。

「てめぇのその力も、結局はあのモンスターから得た紛いだろぉが! それをあたかも生まれ持った才能だと言わんばかりに見せびらかしやがってよぉ。ふざけやがって! 何も知らねぇボンボンが!!」

マーティンの表に怒り以外のが垣間見える。

「どういうことだ……? お前は何を知ってる……?」

ジャコが鼻で笑うと、意地の悪い笑みを浮かべながら答えた。

「あの世界主ワールド・ロードを、このダンジョンに匿った大罪人がてめぇらガーデナー家だ。初代イーグレットが自分の娘を生贄にしてあのバケモンを助け、二代目のローリーが全て隠蔽した。だから三代目のお坊ちゃんであるてめぇは何も知らねぇのさ」

「なんだと? そんな話を信じるとでも……」

そう反論したマーティンだったが、その顔は青い。

世界主ワールド・ロードであるエヴァーが姿を現したときに、何かじるものがあったのだろう。

ジャコが畳み掛ける。

「そもそもなぜオレら腐敗の運び手ロット・ライダーがここにいると思ってんだ? あぁ? 偶然か? んなわけねぇだろ! 全てはヴィリングハウゼン組合様からのご依頼だ! 世界主ワールド・ロードの眷屬であるガーデナー家であるてめぇと、てめぇらガーデナー家が作った祝福された庭師ブレスト・ガーデナーが邪魔するようなら殺せってな!!」

「デ、デタラメを……」

「信じられねぇなら、今ここで、てめぇの力を使って証明しやがれ」

「俺の力だと……?」

「そうだ。てめぇのだか植を扱う力だ。の契約は契約主が死んでも、分け與えられたが消えることはねぇ。だが、契約によって與えられた加護は消える。世界主ワールド・ロードが死んだっていうのが本當なら、マーティン。てめぇの先代がの契約によって世界主ワールド・ロードから得た力も弱してるはずだ」

ジャコが有無を言わさぬ強い視線をマーティンへ向ける。

だが、マーティンが答えるより先に、ランスロットが割ってった。

「マーティン、こんな小悪黨の與太話にわされないで。どうせ助かりたくて出任せ言ってるだけよ」

「あ、ああ。そう、だな」

マーティンが自分の掌を見ながら、曖昧な相槌を打つ。

「マーティン?」

生返事に違和を覚えたランスロットが、マーティンへと振り向き、聲をかける。

すると、マーティンは慌てて開いていた手を握り、大丈夫だと答えた。

「本當に大丈夫なの? 何か変よ」

「問題ない。それより、早くここから出る方法を探した方が良さそうだ」

マーティンが周囲へと目を向ける。

大地からは黒い煙のように、塵と化した粒子が舞い上がり、黒く染まった遠方の空は徐々に迫ってきていた。

そこでようやくマサトが本題を告げる。

「この世界を支えていたロンサム・ジョージが死んだせいで、崩壊が始まっている。ここもそう長くは保たないだろう」

チョウジが口を挾む。

「で、でも、肝心の出口がないッスよ……? 帰還石だってまだ……」

その手には、ただの石と化した黃金の小さな帰還石が握られていた。

マサトが話を続ける。

「出口は俺が作る」

「えっ?」

なぜ作れるのか? 出口を作れるならなぜ最初から作らなかったのか? とでも言いたそうな顔をしたチョウジを無視して、マサトは掌を翳した。

すると、何もない空間にが走り、ひとつのを作ると、そのは次第に大きくなっていった。

の中央が真っ暗闇なが、またたく間に上級悪魔ハイ・デーモンが通れるくらいまで大きくなると、マサトが皆に告げた。

「ダンジョンの6階フロアに繋げた。このを潛れば、瞬時に移できる」

さすがのヴァートたちも呆気に取られ、その表に疑問のが濃くなるのをじたため、マサトは補足を付け加えた。

「世界主ワールド・ロードを倒したことで得た力だ。時間がない。質問はなしだ」

そう告げ、手下のモンスターたちにを潛らせる。

ダンジョン6階には攻略中の冒険者パーティがいるかもしれないが、上級悪魔ハイ・デーモンの姿を見れば戦わずに逃げ出すだろうと気にせず送り出す。

「シャルル、ヴァートを頼む」

「はい、旦那様」

シャルルがヴァートの元へ向かう。

すると、パークスが拘束されたジャコたちを一瞥し、マサトに聞いた。

「この者たちは?」

「そのままでいい。俺が対処する」

「分かりました」

「モンスターは6階に留まらせるつもりだが、當然、現場は混するだろう。現場の封鎖と冒険者たちの導はヴィリングハウゼン組合の者たちにやらせれば、しは時間稼ぎができるはず。その間にどうするか考える。一先ず、赤糸アカイトがいる4階の宿で落ち合おう。アシダカは先導を頼む」

「お任せください」

アシダカが頷き、パークスがすぐ様移を開始する。

「では、私もヴァートたちとともに一足先に宿へ向かいます」

「頼んだ」

「ヴァート、行きますよ」

「わ、分かった。父ちゃん、気をつけてね!」

「ああ」

アシダカを先頭に、パークス、ヴァート、シャルルがを潛る。

「ちょ、ちょっと待って! 俺も行くッスよ!!」

チョウジが慌ててその後に続くと、マサトはマーティンたちへも聲をかけた。

「お前たちも行くといい」

何か考え事をしていたのか、マサトから言葉を向けられてハッとしたマーティンが慌てて答える。

「い、いいのか……?」

「初対面の俺を信用できるならな」

チョウジたちがを潛ったとはいえ、認識のない相手が作った謎の空間にを投げるのは恐怖だろう。

そう考えて告げた言葉だったが、マーティンは意外にもすんなりれた。

「大丈夫だ……あなたは、信用に足りる……」

マーティンの言葉に、マサトよりもランスロットの方が驚き、聲をあげた。

「な、何言ってるの? マーティン、本當にどうしちゃったの? さっきからおかしいわよ?」

「そうだな……揺しているようだ」

マサトは、マーティンのその様子を見て、マサトの中に眠るエヴァーとの繋がりをマーティンがじたのだろうと察した。

だが、説明している暇はないと、マーティンたちを急かす。

「時間がない。早く行け」

「……すまない」

マーティンが、青い顔で謝罪とも取れるお禮を述べると、ランスロットがマサトを睨んだ。

「あんた! まさかマーティンに!」

「止せランスロット!」

「でも!」

「頼むから今は靜かに言うことを聞いてくれ……理由は後で話す」

力なくそう告げたマーティンに、ランスロットが渋々従う。

「分かったわよ……」

俯いたマーティンと、そんなマーティンを心配したランスロットがを潛る。

殘りは、ジャコら腐敗の運び手ロット・ライダーの生き殘りだけだ。

マサトが無言でジャコへと目を向けると、その視線の圧に耐えられなかったのか、ジャコが口を開いた。

「オレたちは役に立つぜ? どうだ? 手を組まねぇか?」

そう提案してきたジャコへ、マサトが淡々と答える。

「ああ、最初からそのつもりだ」

ジャコの顔から焦りのが消え、口元に笑みが浮かぶ。

「へっ、話が分かる旦那で助かるぜ」

他のメンバーの張の糸も急に緩む。

すると、ジャコや手下の奴らに、マサトを侮るような雰囲気が出始めた。

騙しやすい相手だとでも思ったのだろう。

だが、マサトが無言で黒い杖を向けると、ゆるい雰囲気が一変。

異変をじたジャコが顔を引き攣らせながら口を開く。

「お、おい、何して」

ジャコの言葉に被せるようにして、マサトが告げる。

「俺の役に立ってもらう」

「ど、どういう……」

黒い杖に白い稲妻が走ると、ジャコが目を見開き、聲をあげた。

「お、おい止せッ!!」

直後、強いが周囲を照らし、大地を穿つ轟音が場を躙した。

『腐敗の運び手ロット・ライダーの荒くれ者を獲得しました』

『腐敗の運び手ロット・ライダーの荒くれ者を獲得しました』

『腐敗の運び手ロット・ライダーの荒くれ者を獲得しました』

『腐敗の運び手ロット・ライダー、ジャコ・シャ・コを獲得しました』

――――

▼おまけ

【UR】 腐敗の運び手ロット・ライダー、ジャコ・シャ・コ、4/3、(黒)(3)、「モンスター ― 人族」、[音速拳Lv3] [影の拳闘Lv2、(黒):一時能力補正+2/+0、回避能力強化Lv2 ※上限1] [策謀Lv2]

「青い髪をオールバックにした強面のAAランク格闘職ファイターであり、何かと悪い噂の絶えない腐敗の運び手ロット・ライダーのリーダー。高圧的で、傲慢な面ももちろんあるけど、酒も煙草もやらないっていう荒くれ者の集まるクランのリーダーとは思えないストイックな一面もある。計算高い男。要注意――冒険者ギルド付嬢オミオの手帳」

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