《【書籍化】マジックイーター 〜ゴブリンデッキから始まる異世界冒険〜》314 - 「仙族のセンリ2」

センリの弾発言に、場の空気が凍る。

さすがに想定外だったのか、メグリスだけでなくチョウジまでもが口を開けて驚いていた。

當然、騙された形となったマサトも不快を滲ませる。

「ボスは倒した。それは同行したチョウジが証人になったはずだ。それとも、始めから噓だったのか?」

マサトの言葉に、シャルルだけでなく、その場に同席した背赤セアカとアシダカからも殺気が放たれる。

ヴァートもお怒りの表だ。

ララとキングは突然殺伐とし始めたことに揺し、メグリスとチョウジは狼狽した。

見屆人として同行したチョウジも、これはさすがに我慢できないと抗議の聲をあげる。

「ちょ、ちょっと姐さん何言ってんスか!? 自分はちゃんと報告したッスよね!?」

このままでは々と不味いとメグリスも続く。

「センリさん! 往生際が悪いですよ! いい加減にしてください!!」

だが、センリの不遜な態度は変わらない。

煙管煙草きせるたばこから口を離したセンリが、煙をマサトの顔へ吹きかける。

その挑発行為に、シャルルの殺気がピークに達するも、マサトはまだ待てと念で指示。

シャルルからの鋭い殺気を向けられても、顔一つ変えずどこ吹く風のセンリが口を開く。

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「ふぅ〜。外野が何を言っても変える気はないよ。お前らがいう未知のボスってのは、本當にダンジョンのボスだったのかい? それなら討伐報酬がドロップするはずだろう?」

センリの言葉に、マサトはセンリが何を言おうとしているのか察した。

マサトが倒したモンスターたちはボスではなく守護者であったり、ダンジョンのボスとは関係のない世界主ワールド・ロードだったりと、最初に提示されたボスの定義には當てはまらない。

この黃金のガチョウのダンジョンは、固定の階に出現するボスを討伐すれば、その報酬テーブルの中から選で必ず何かがドロップするという、とてもゲーム的な仕組みなのだ。

そしてのこの仕組みは既に認知されているため、センリはボスを倒して何もドロップしなかったのなら、それはボスとは言えないと主張したに過ぎない。

(そういえば、エヴァーはダンジョンのボスに該當しないのか……ヴィリングハウゼン組合との激戦があったせいで、本來の目的を忘れていたな……)

チョウジや他のメンバーは、世界主ワールド・ロードであるエヴァーを未知のボスと認識していたため、その証言を盾に押し通すことは可能だが、それでセンリが引くとも考えにくい。

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マサトはし考えた後、それならばと気になったことを口にした。

「未知のボスが本當に存在したとして、そのボスがドロップした報酬だと、どうやって証明できる?」

マサトの問いに、今度はセンリが「む……」と渋い顔をした。

だが、それだとメグリスとの賭けに負けてしまうことになると、センリはしどろもどろになりながらも強引に我儘を通した。

「そこは……ほら……それっぽいものを提示してくれれば信じるさ。一応、チョウジという証人もいるし……」

センリのその発言に、皆のセンリを見る目が変わり、場に白々しい空気が流れる。

マサトも、それでいいのかと、センリの理解し難い言に首をひねったが、それならと考えを巡らせた。

そして、崩壊していく菫の小世界ヴァイオレット・ガーデンを出る直前に手した、とあるカードを思い出す。

(そういえば、あれがあったか。あれならそれっぽく見えるかもしれないな)

マサトが右手を開き、何もない掌を上に向けてセンリに見せつつ、一芝居打つ。

「仕方ない。見せるつもりはなかったが、そこまで言うなら……これがその討伐報酬だ」

そう告げながら召喚を行使。

「これが、世界亀ワールド・トータスロンサム・ジョージの魂核だ」

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マサトの掌に、炎のように緑の粒子を燃え上がらせながら輝く球の寶石が出現した。

【SR】 世界亀ワールド・トータスロンサム・ジョージの魂核、(3)、「アーティファクト ― マナ生、裝備品」、[マナ生:(緑×2)] [裝備補正+0/+3] [(緑):再生Lv3、一時能力補正+0/+3 ※上限3] [裝備コスト(0)] [耐久Lv3]

世界亀ワールド・トータスロンサム・ジョージの魂核は、マナの枯渇を気にすることなく、毎ターン緑2マナを生し続けることができる希な魔導アーティファクトだ。

更には、に付けるだけで防力が3上がる、裝備コストなしの裝備品でもある。

それだけでなく、緑マナを注ぎ込めば再生能力を使える上に、更なる防力強化まで可能という大きなおまけ付きだ。

寶石を見たセンリの瞳が大きく見開かれる。

「こ、こ、こ、こ……」

驚愕のあまり、センリが正しく発聲できずにいると、目を輝かせた好奇心の塊がマサトの足に飛びついてきた。

「すっごいかしらぁあああ! 魔力マナが濃すぎて、溢れ出た魔力マナの粒子が炎のように燃え上がってるように見えるのよ! もうし近くで見せるかしら!!」

マサトは足にしがみついたララに見える位置まで手をおろすと、ララはゆっくりと手をばし、緑の炎にれた。

「全く熱くないかしら! やっぱりこれは魔力マナの放出が濃すぎてこう見えているだけなのよ! フンス!!」

ひとり興狀態にあるララ。

そのララに、古代魔導アーティファクトのブローカーとして表立って仕事をしてきたプライドを刺激されたのか、衝撃から復帰したセンリが加わる。

「わ、私にも見せてくれないか!? 下手な真似はしないと誓おう! 何ならここで契約をわしてもいい!」

「別に構わない。契約もいらないから自由に確認してくれ」

マサトがセンリの前に再び差し出すと、センリは食いるように魂核を見ながら、震える手をばした。

「これほどのものが、本當に討伐報酬だと……?」

疑う意味での発言ではないと雰囲気で分かっていたものの、補足は必要だろうとマサトが皆に説明する。

「俺たちが訪れた、菫のモンスターハウスと呼ばれる特殊なフロアは、笑い狂う島嶼ラフィング・マッド・アイルロンサム・ジョージという小世界を作るまでに巨大化したモンスターの背にできた世界だった。これは、その巨大モンスターが死んだことで手にった魔導アーティファクトだ」

マサトの説明を、真剣な表で聞きるセンリ。

澄んだ青の瞳は、マサトという人を見極めているようにも思えた。

突飛的な言や行をするセンリだが、真剣な表で佇む姿は、絶世のというに相応しく、それだけで男にとってはプレッシャーとなるが、マサトは気にせず話を続けた。

「結果だけを見れば、その巨大モンスターも、その世界の主と呼ばれる存在も全てが死んだ。この事実だけを利用し、俺たちが討伐した結果だと言うこともできるが、そこに至った経緯は違う」

「ほほぉ? 続けて」

素直に討伐したと済ませなかったマサトに、センリの口元にし笑みが生まれる。

「俺は、その世界の主である存在と、その世界自を助けようとした。そのせいで、急遽ヴィリングハウゼン組合とやり合うことになったのだが、それはすでに聞いているな?」

話を振られたセンリが答える。

「あれとやり合ったことは、チョウジから報告をけている」

「そうか。だが、なぜ俺が組合と敵対してまで、モンスター側の味方につく必要があったのか、その理由までは知らないだろう」

「そうだな。それは聞いていない。教えてくれるのか?」

センリの問いに、マサトが頷く。

「他の者にとっては大したことではないが……理由は単純だ。俺が最も探し求めていた、俺の兄に関する報を、その世界の主が持っていたからだ」

「お前の兄と、その世界の主とやらに接點があったということか」

「そうだ。おで俺はその世界の主――世界主ワールド・ロードのエヴァーの記憶から、兄の伝言をけ取ることができた」

センリの瞳が再び大きく見開かれる。

「記憶から伝言をけ取っただと……? その方法も気になるところだが、もしそれが事実なら、お前の兄は、お前が世界主ワールド・ロードに接することを予知していたことになるぞ?」

「俺も兄の能力までは知らないが、その予測はすぐに立てた。そして、恐らくそうだろうと納得もした」

センリの視線が鋭くなる。

マサトの言うことが真実であれば、センリはその未來を描くためにいたということになる。

他の誰でもない。

黃金のガチョウのダンジョンにいた世界主ワールド・ロードとマサトが出會うきっかけを作ったのは、センリ自の思いつきだったのだから。

「はぁ〜、これは參ったね〜」

センリが溜息とともに目を瞑り、煙管を咥える。

先端の火皿が赤くった後、センリは上を向いて煙を吐き出した。

「ふぅ〜、この私が知らず知らずのうちに、どこの誰かも知らない男の運命の歯車の一部にされてたって〜? 笑えないねぇ〜」

「信じるのか?」

マサト自、信じてもらえるなどと思っていなかったが、返ってきた答えは意外なものだった。

妖艶な笑みを浮かべたセンリがマサトに告げる。

「信じるさ。私は、その手の予知や占に詳しい仙族だからねぇ〜。それに、この世界の住民でもないしさ」

「仙……この世界の住民じゃないなら、別の次元からどうやってきた? やっぱりダンジョンか?」

マサトの質問に、センリがにやりと口元に深い笑みを作った後、わざとらしい溜息を吐いた。

「はぁ〜、今ちょっと用でねぇ。外もあんな有様だろ? ここを出ようにも々と準備しなくちゃいけないことも多くてさ〜。それに、暫くはどこか安全な場所にを隠そうと思ってるんだけど、どこか食住を気にしなくていい場所とか知ってたら嬉しいんだけどねぇ?」

センリの流し目をけたマサトは、背赤セアカに視線を移す。

マサトから視線をけた背赤セアカは、その視線の意味を察したのか、すぐさま頷いた。

マサトがセンリの要をのむ。

「分かった。金も場所も安全も、むものは後家蜘蛛ゴケグモが提供する。これでいいか?」

マサトの回答に、センリが満足気に頷いた。

「ふふっ、話が早い男は好きだよ」

そう言って、センリは元から一冊の小さな本を取り出し、マサトへと差し出した。

「ここに私が知り得た隠しダンジョンに関する報が全て記載されてる。好きに使うといい」

その本を見たチョウジとメグリスがギョッとする。

「え、ええ!? ちょ、姐さん、それ渡しちゃっていいんスか!?」

「センリさん!? それ私たちの飯の種ですよ!? 貴重な収源!!」

焦るふたりへ、センリが鬱陶しそうに手を払う。

「もうそろそろこの家業も時だって言っただろう〜? この辺が引き際なのさ。それに、目の前に最高の買い手がいるのに、ここで売らなくていつ売るっていうんだい?」

「そ、そりゃそうッスけど……」

「それでも全部売らなくたって……」

「はぁ……思い切りの悪い子たちだよ本當に」

センリがそう溜息を吐く中、マサトはセンリから手渡された、ほんのりと溫かく、甘い香りの漂う本を開いた。

そこには確かにダンジョンに関する報が事細かく記載してあった。

(この容が真実かどうかを確認するはない……そこは信用するしかないか)

「確かにけ取った。こちらも約束は守ろう」

すると、センリが挑発的な視線を向けた。

「そこに記載してある報が噓かもしれないとは思わないのかい?」

「あなたも、目的を達した俺が後で約束を破るとは思わないのか?」

質問を質問で返されたセンリが朗らかに笑う。

「アハハ! それもそうね。でもそっちは安心していいわよ。それは誓って本

そう告げながら、センリがを寄せる。

両手でマサトの頭を抱えるようにして抱きついたセンリが、マサトの耳元で囁く。

「私の予が正しければ、お前さんはまた私に會うことになる。この本は、私にとって良い未來へと続く道になるのよ」

センリの顔が正面に移する。

鼻と鼻がれ合う至近距離で、センリの青い澄んだ瞳がマサトの黒い瞳を見つめ、にこりと微笑んだ。

「それじゃ〜、また逢いましょうね」

らしい妖艶な香をに纏ったセンリが、マサトへ軽い口付けをわすと、何事もなかったかのように離れる。

流の挨拶なのかと考えたマサトだったが、そうではなかったのだとチョウジとメグリスの反応を見て気付いた。

口をあんぐり開けたチョウジとメグリスがそれぞれ呟く。

「あ、あの姐さんが……男に、デレた……?」

「ど、どういうこと……?」

ヴァートは赤面し、パークスが軽い溜息を吐く。

ララはやれやれと首を振り、キングがヒューと口笛を吹くと、その直後、シャルルと背赤セアカからピリピリとした刺すような圧がマサトへと突き刺さる。

アシダカは苦笑いだ。

ヴァートがいる手前、気不味いなと思うマサトだったが、再び場の空気を弄ぶことに長けたセンリが次の話題を投じた。

「そういえば、南部が一面氷の世界に変わった原因って、そっちでは把握してるのかい?」

「いや、知らない」

マサトが答え、マサトに視線を向けられた背赤セアカも首を振る。

すると、センリが答えた。

「なら特別に教えてあげる。南部が氷の世界に変貌したのは、世界級ワールズの魔導アーティファクト――凍結の寶珠フリーズンオーブが使われたせいよ。私の報が確かなら、あれはニニーヴ・リーヴェが持っていたはず。つまり、凍結の寶珠フリーズンオーブを南部でぶっ放したイカレ野郎は、アリス教の教祖リデル・オブ・マーリンの弟子にして人とも言われている大魔導師アークメイジの老婆ってことさ。気をつけな」

――――

▼おまけ

【R】 凍結の寶珠フリーズンオーブ、(2)、「アーティファクト ― 寶珠」、[(青):凍結カウンター+1] [生贄時:全凍結魔法Lv5、効果範囲は凍結カウンターの數に比例] [耐久Lv3]

「神が、生命の進化を遅らせるために作ったとされる寶珠。時に神は、行き過ぎた文明を壊す目的でもこの寶珠を使う――神を観測する者マツゲンジ・ロウ」

【SR】 世界亀ワールド・トータスロンサム・ジョージの魂核、(3)、「アーティファクト ― マナ生、裝備品」、[マナ生:(緑×2)] [裝備補正+0/+3] [(緑):再生Lv3、一時能力補正+0/+3 ※上限3] [裝備コスト(0)] [耐久Lv3]

「希な世界亀ワールド・トータス種から極稀に手できる幻の逸品。この商品を扱っているのは、星界に數ある素材屋の中でも、私たちくらいでございます。現一品限りですので、お早めにお買い求めください。今なら、選で素敵な商品が當たるスターラッシュキャンペーン中でございますので、この機會にぜひ――星界の素材屋シングルスターの店主ソリテス・アブエ」

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