《引きこもりLv.999の國づくり! ―最強ステータスで世界統一します―》魔王様は村人にデレデレです

ディストは限界の寸前だった。

いくら一般モンスターが弱いとはいえ、その數が尋常ではない。激戦に次ぐ激戦に、ディストはさすがに疲労を極めていた。

「シュアアアアア!」

オークの棒が、見事なまでにディストの背中に命中した。威力的にはたいしたことないが、それでも確実にディストのHPを抉る。

「ッてえな!」

思わず激昂してしまい、ディストは縦一文字にオークを切り裂いた。

脳天からった刀が、文字通りオークを真っ二つに分斷した。紫の鮮が周囲に飛び散り、モンスターたちは一歩飛び退いた。

「ま、まだあんなに戦えるのかよ……」

「あのオークを鎧ごと真っ二つに……」

モンスターたちはこう囁いているが、ディストの力はすでにピークに達していた。すでにHPも危険域に突しているだろう。

「どうかしてるな……。この俺が騒いじまうなんて……」

ディストはれる呼吸を整え、モンスターの軍勢に目をやった。

そしてため息をつく。敵兵の數は一向に減る気配を見せない。この果てしなき戦いはいったいいつまで続くのか。ロニンやシュンもまだ帰ってこない。

だが、ディストは信じている。

あの二人なら必ずやり遂げてくれると。

ならば、俺も音をあげるわけにはいくまい。全力で迎え撃つまでだ。

そうして何時間剣を振るっていただろう。

「やめなさい!」

ふいに、城下町に鋭い聲が響きわたった。

ーー誰だ……?

ディストは杖代わりに剣を地に差しながら、ぼんやりと聲の主を見た。敵兵たちもいっせいにそちらへと振り返る。

「ディストは私の側近です。傷つけることは斷じて許しません」

この聞き覚えのある聲。

まさか。

ディストは自の疲労をも忘れ、大きく目を見開いた。

見間違いようがない。見間違えるはずがない。ロニンだ。

だが、その威厳はディストの知る彼とはまったくかけ離れている。

ロニンは権力者たる威容を放ちながら、こつこつとモンスターたちの間を歩いてくる。

「ロニン……様なのですか?」

の敵兵が問いかける。

「無論です。他に誰がいますか」

「い、いえ、別に……」

「先ほどセルスを始末してきました。時期魔王は私がなります」

言いながら、ロニンはで汚れた白いドレスを放り投げた。

モンスターであれば誰もが知っている。この裝は間違いなくセルスのものであると。

數秒の沈黙ののち。

モンスター達が大きくどよめいた。互いの顔を見つめ合い、なにやら話し合っている。

やがて、ゾンビモンスターがおそるおそるといった様子で尋ねた。

「し、しかし……世論はセルス様に……」

「皆の衆。魔王にふさわしいのはどういう者ですか。弱者ですか。強者ですか」

「え……」

「私がセルスを始末したいま、時期魔王にふさわしいのは誰かと聞いているんです」

ロニンの発言に、モンスターたちはまたしても小聲で話し合う。

「そ……そりゃあ、やっぱり、なあ……」

次の瞬間、モンスターたちはいっせいにロニンにひざまずいた。

「ロニン様!」

「ロニン様!」

いっせいに時期魔王へ黃い聲をあげ続ける。

「……はっ」

その景を呆然と眺めていたディストは、思わず吹き出してしまった。

ーーロニン様。本當にお変わりになられた。わたくしは嬉しいです……

ディストはゆっくりと剣を鞘におさめると、ふらふらとした足取りでロニンに歩み寄った。

モンスターたちが制止しようとするが、「やめなさい」というロニンの一聲で思いとどまる。

ディストはロニンの手前で立ち止まり、頭を垂れた。

「このディスト、ただいまロニン様のもとへ帰還いたしました!」

「……うん。あなたは本當に頑張ってくれました。ありがとう」

「はっ! この上なき幸せでございます!」

ーーああ、臣下としてこれ以上の幸せはない。

ロニン様。わたくしはあなたに一生ついていきます。

そうしてディストが傷に浸っていると、またしても闖者が現れた。彼はぼさぼさと後頭部を掻きながら、ひとり、呟いていた。

「あー、やっと著いたぜ」

「あ、お兄ちゃん!」

すると、先ほどまで王たる威厳を漂わせていたロニンが、急に甘っちょろい態度に変わってしまう。

これにはモンスターたちもぽかんと口を開けるしかなかった。

ロニンの変貌っぷりだけでも驚きなのに、時期魔王ともあろう者が人間などと親しくしているのだから。

ロニンは目に涙を浮かべながら、勢いよくシュンに飛びついた。

「お、おう、どうしたいきなり」

シュンがいつもの寢ぼけ眼でロニンをけ止める。

「ありがとう。お兄ちゃんのおかげで、私、私……」

「おお。そうだ、俺のおかげだよな。ははは」

へらへら笑いを浮かべながら、シュンはロニンの頭をでる。

そんな二人に、いつものディストであれば嫉妬の念を抱いたであろう。

だが、もはやそんなさえ沸いてこなかった。

あの村人のおかげで救われた。ロニンを無事に時期魔王に就任させることができた。

そのことは、もはや変えようのない事実なのだから。

~第一章 終~

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