「……ん？」

會場へ向かう道すがら、シュンはふいに立ち止まった。

人だかりができている。

どうやらひとりの生徒を、大勢の新生が囲んでいるらしい。かなりの人気者のようで、五十人もの生徒たちが彼に話しかけようと躍起になっている。

「お兄ちゃん。あれなに？」

「……さあな。わからん」

ロニンの問いかけに、シュンも首を傾げた。

一瞬、生徒の貌に惚れた猿どもが群がっているのかと思った。

だが、どうもそれだけではないらしい。集団のなかにはの子も多く混じっているからだ。彼らは生徒に向けて熱狂的なまでにアピールを行っている。

「セレスティア様、お目にかかれて栄です！」

「ああ、セレスティア様！」

様付けとは、かなりやんごとなき分なのかもしれない。

ーーそれにしても、セレスティア、か。

どっかで聞いたことある名前だが……誰だっけ？

シュンは考えるのも面倒くさくなり、そのまま會場へ向かおうとした。彼にとってはコネ作りなどどうでもよく、単にタダ飯をしているだけだ。

すると。

「あら」

ふいに、セレスティアがシュンに目を止めた。

「ごめんなさい。ちょっとどいてくださるかしら。すこしあの者に用事があるの」

「えっ……！」

取り巻きが一斉にどよめきを上げた。

皇にして次期國王の有力候補として名を馳せているセレスティア。彼が自分から聲をかけにいく人とは、いったいどんな者なのか。

その場にいた誰もが、シュンとセレスティアに目を向けた。

「ごめんください。シュンさん、でよろしいかしら？」

「ん？」

シュンはぽかんと口を開けた。なぜこのが自分の名前を知っている。

ロニンはちょっと攻撃的な目つきでセレスティアを睨んだ。

「あなた……辺境の村の出でしょう？　國王様からの推薦狀を授かったのね」

瞬間、またしても學生たちがどよめきをあげた。

推薦狀。それを授與される者は數十年にひとりといない。

それを貰ったというのだから、このひょろひょろとした男はさぞかし素晴らしい人なのだろう。みなの期待がシュンに集まった。

「そうだが……誰だおまえ」

不躾ぶしつけなシュンの態度に、セレスティアは一瞬だけむっとしたが、すぐににっこりと笑みを浮かべた。

「これは失禮を。わたくし、セレスティア・ヴィ・クローディアと申します」

ーークローディア。ってことは王族か。どっかで聞いたことあるとは思っていたが。

「ほーん」

しかしながら、シュンの発した返答は、そんな間抜けなものだった。