《引きこもりLv.999の國づくり! ―最強ステータスで世界統一します―》測定不能

「…………」

シュンはしかし答えない。とぼけた顔で空なんかを眺めている。

苛立ったようにアルスがもう一度大聲を発した。

「聞こえなかったのか。新生シュン君! 前に出なさい!」

「……あ、やっぱ俺?」

「おまえ以外に誰がいる! さっさと前に出ないか!」

「……やれやれ」

シュンはロニンを一瞥すると、そっと手を離し、代わりに肩をすくめた。

「初々しい新生を《おまえ》呼ばわりですか。怖い怖い」

「……ふん。減らず口は変わらんようだな」

二人のやりとりを、他の新生たちは呆然と眺めていた。

人類の希ーー勇者アルス。

彼に対し、ここまで傲岸な態度を取れる者がいようとは。しかも勇者の口振りからして、この二人、以前に會ったことがあるような雰囲気がある。

「おい……あいつ、さっきセレスティア様と話してた奴じゃないのか?」

「まさか勇者とも知り合いなのかよ!」

他の新生がそんな聲を発したせいで、他グループの生徒たちもシュンに目を向けた。ちなみにセレスティアはこの場にはいない。

もはや、ほぼすべての者がシュンとアルスに注目してしまっている。試験中の三人だけは必死に剣を振るっているが。

シュンは一歩前に出ると、懲りずに薄く笑った。

「久しぶりじゃねえか。おまえ、ずいぶん人気者みてえだな」

「……立場をわきまえろ。いまの俺は教師だ。そしておまえは生徒だ」

「……へいへい、わかったよ」

シュンは両拳をがつんと打ちつけ、戦闘の構えを取った。

「おまえ、剣は?」

「いらん」

「……ふん」

この試験は騎士としての適正を試すものであり、別に剣を使わずとも騎士にはなれる。

だからアルスはそれ以上はなにも言わず、指をぱちんと鳴らした。

途端、シュンの眼前にデッドスライムが現れる。彼我の実力差がわかっていないのか、シュンに向けてぴきーっといううなり聲をあげる。

そこからはほんの一瞬の出來事だった。

他の新生たちには突風が舞ったとしか認識できないまま、ばたりとデッドスライムが倒れたのである。

実際には頭部に一発だけ毆打を見舞ったが、それを見て取れたのはロニンだけ。

アルスもよく見切れないままに、シュンの試験は終了した。

「おい……見えたか、いまの……」

「いや、全然……」

あまりにも呆気ない結末に、新生たちも驚きを隠せない。それだけシュンの攻撃は人間離れしていた。

「……待て」

長い靜寂を、アルスの太い聲が破る。

「デッドスライムはまだ死んでいない。モンスターを討伐するまでが試験だ」

それは事実だった。

デッドスライムは気を失ったように白目を剝いているが、絶命には至っていない。時間が経てばまた目を覚まし、人間に襲いかかってくるだろう。

しかしシュンはデッドスライムに背を向け、大きく欠をする。

「知らねえよ。いまので実力はわかったろ?」

「ならぬ。デッドスライムを殺すまでは……」

「おい、二度も言わせんなよテメェ」

シュンは振り返り、鋭い眼で勇者を睨んだ。 

「う……ぐ……」

アルスは気圧されたように唾を飲んだ。

そうしながら思い出していた。四ヶ月前、圧倒的な実力差でシュンに殺されかけたことを。その気になれば、シュンは勇者など簡単に殺せるということを。

この四ヶ月、アルスも必死に己の技を磨いてきた。何度も剣技と魔の鍛錬を行ってきた。

ーーそれなのに、まだまだこの村人には適わぬというのか。

歯ぎしりをしながら、アルスは震える聲で言った。

「……新生シュン、測定不能。次の者、前へ出よ」

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