《引きこもりLv.999の國づくり! ―最強ステータスで世界統一します―》シュンの部 【過去へ】

心のタガ。

それを破壊するには、自分と向き合うことが必要不可欠であると――アリアンヌは言った。過去のトラウマを改めて直視することで、心の制約が外れ、タガが破壊されるのだという。

「ここです」

アリアンヌがふいに立ち止まった。

小さな祠ほこらがそこにあった。ずいぶん古くから作られたのだと推察できるが、丁寧に清掃が行き屆いているためか、どこか靜謐せいひつな雰囲気が漂っている。その祠のなかに、水のったお椀わんが二つあった。

「これは……」

ゴクリと息を呑みながらロニンが訊ねる。

「神聖水しんせいすい。そのままですね。飲むと神の力が宿ります」

アリアンヌいわく、いつかディストを倒す者が現れるのを期待して、長いこと製してきたのだという。つまりこの水には、何百年ものアリアンヌの想いが詰まっている。

ただならぬ雰囲気に、さすがのシュンもやや真剣味を帯びた表になった。

「飲むだけでいいのか……? それだけで《神の霊気》とやらがモノにできるのか……?」

「そう簡単にはいきません。あなたたちは自分と戦っていただきます。それに勝利して初めて、神聖水に認められたことになるのです」

「自分と……戦う……?」

「まあ実際に飲んでみるのが早いでしょう。きっとあなたたちなら大丈夫です」

言いながら、アリアンヌはお椀をひとつずつシュンとロニンに差し出してきた。シュンはおそるおそる椀の中を覗き込むが、正直ただの水にしか見えない。だがどこか名狀しがたい、かすかな圧力をじる。

「それを飲み、あなたたちがいつ目覚めるのか……期待して待っています。さあ、お飲みなさい」

「お……おう」

シュンはちらりとロニンに目を向けた。小さな妻が張した面持ちで頷くのを確認し、シュンは思い切って、椀の中をぐいっと飲み干した。

――ここはどこだ?

目覚めたとき、シュンはまるで見知らぬ場所にいた。

……いや。

見知らぬ場所ではない。

ここはかつてのシュンが通い詰め、そして忌避した、故郷の《學び屋》である。

古い木造の室に、小さな機が二十個ほど等間隔に並べられている。正面には黒板があり、これを用いて先生が勉強を教える。まだ授業の開始時間ではないので、一足早く來た子どもたちが、わいわいはしゃぎながら遊んでいた。

気づけば、シュンのは丸ごと小さくなっていた。推定で六歳ほどか。

シュンの故郷にシュロン學園のような巨大施設はない。しかし、村長が知識人を雇い、子どもに勉學を教えさせる《學び屋》は存在した。かつてシュンは他の子どもたちと同じく、この學び屋に通わされていた。

――過去に來たってことか。

シュンは思わず大きな息を吐いた。

そもそもシュンの故郷はアルスによって殲滅せんめつされている。アリアンヌが《過去のトラウマを直す》と言っていたことを鑑かんがみても、昔に飛ばされた可能は高い。

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