《引きこもりLv.999の國づくり! ―最強ステータスで世界統一します―》トルフィンの部 【わずかな希と失せる】
次なる天使は筋骨隆々の男だった。頭上にを載せ、宙に浮いているさまは共通しているが、ここまで猛々しい天使は見たことない。おそらく理特化タイプだろう。
トルフィンがそう分析しているうちに、リュアとセレスティアも追いついたようだ。息を切らしつつも、二人はトルフィンの背後に並んだ。
自分と相対する三人を見て、天使は不愉快そうに眉をひそめる。
「……なんだ貴様たちは」
「そりゃ俺たちのセリフだね。好き勝手に暴れやがってよ」
トルフィンは剣を引き抜き、臨戦勢を整えながら天使を睨みつけた。
「これ以上おまえたちの好きにゃさせねえ。悪いが死んでくれや」
「死ぬ……? この俺が……?」
しばらく天使は目をぱちくりさせていたが、數秒後、弾けたように笑い出した。
「わっはっはっは! 人間ごときが! この俺を死なすだと!? の程を知れ!」
「ちょ、ちょっとトルフィンくん」
トルフィンの後方でひざまずいているレイア先生が、ぶるぶると震えながら小聲で囁く。
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「き、気をつけて。そいつ、よくわからないけど不思議な力を使うわ」
「大丈夫です。俺たちは負けません」
「ほざけガキがぁ!」
表を歪ませた天使が、例によって右手を突き出してくる。
だがトルフィンたちには何も起こらない。
――《ステータス低下無効スキル》。
これは単にトルフィンたちのを守るだけに留まらず、最大のチャンスをくれる。ステータス作の効かないトルフィンたちに、天使たちはなからず怯むからだ。そしていまも、微だにしない人間三人に、天使が目を見開く。
この絶好の機會を逃すわけにはいかない。
「いくぞリュア!」
「うん!」
「セレスティアさん、ステータスアップは任せました!」
「ええ、任せて突撃して!」
トルフィンとリュアは同時に駆け出した。セレスティアの補助魔法によって高められた理攻撃力。それを以て、全力の剣撃を叩き込んでいく。
やはり、武大會に備え、二人で訓練していたのが幸いした。
トルフィンとリュアのコンビネーションは抜群に優れていた。二人は言葉もわさず、目線だけのやり取りで互いの意志を伝え合った。たったそれだけで、時にフェイントを混ぜ、二人は順調に天使を攻撃していった。
もちろんセレスティアも活躍した。トルフィンの勘だと、ああいう筋バカは総じて魔法に弱い。その予が的中し、セレスティアの攻撃魔法にはかの天使も苦しそうにもがいていた。
數分後には、さしたるダメージもけることなく、天使は無數の粒子となって消え去っていた。
「え……? 私たち、助かったの……?」
「やった……トルフィンくん、リュアちゃん……ありがとう!」
天使が倒れたことで、皆のステータスも無事に回復した。レイア先生を含むのべ三十人もの生徒たちが、トルフィンたちを囲んで賛辭の言葉を投げかける。
特に生徒たちはまだ十歳にも満たない子どもばかりだ。泣き顔をしている者も大勢いたが、みな揃ってトルフィンたちに謝の言葉を投げかける。
「トルフィンくん……」
レイア先生も涙目をこすりながら半笑いを浮かべた。
「まさか自分の生徒に助けられるなんてね……強くなったね」
「いえ……僕だけの力じゃありません。リュアとセレスティアさんがいるから勝てたんです」
「でもあなたの指示もなかなか的確だったわよ。トルフィンくん」
とセレスティアが橫槍をれてくる。
「まるで六歳とは思えないくらい。シュン君と話してるみたいだわ」
「うっ……まあ、それはよく言われるかも……しれません」
「そうよ! トルフィンくんはすごいんだから! だって前世の……」
「おいこらリュア、余計なこと言うな」
軽い掛け合いに、その場にいる誰もが和やかな気持ちになった。常軌を逸した現実から目を背け、楽しいひとときを過ごしたい――そう思うのも無理からぬことである。
しかしながら、そう楽観視してもいられない。學園にはまだ天使が潛んでいる可能もある。一秒でも油斷してしまえば、突如現れた天使に殺されるかもしれない――そう考えると、どうしても暗い気持ちにならざるをえないのであった。
「ごめんねトルフィンくん……」
と口火を切ったのはレイア先生だった。
「私、魔法擔當の教師なのに……みんなを守れなかった。たぶん、ほとんどの生徒はもう……」
――やはりそうか。
トルフィンは下を噛んだ。
「先生のせいじゃありませんよ。奴らはステータスそのものに干渉してきます。どんなにステータスが高くても、奴らにとっては赤子同然なんですよ」
「ステータス干渉……そんなの、無茶苦茶だわ……」
それからトルフィンは、シュンとロニンが神に対抗すべく鍛錬を積んでいることを簡潔に伝えた。絶的な狀況ではあるが、まるで希がないわけではない。それを知ってほしかった。
皆がわずかながらほっとした顔をしていたとき、ふいにリュアが口を開いた。
「ねえ、先生」
「ん?」
「騎士団のみんなはどうしたの……? お父さんは……戦ってないの?」
「それは……」
レイア先生は迷ったようにトルフィンに目を向けた。明らかに戸っているようすだ。
――やはりそうなのだ。ゴルムはもう天使たちに殺されている。
トルフィンはなんとか話題を変えようとしたが、その瞬間、なんたることか別の生徒が喚くように言った。
「みんな……みんな死んじゃったんだよ! 騎士たちだって、あの天使には全然勝てなかったんだから!」
「…………え」
突如、リュアの目からが失せた。
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