《引きこもりLv.999の國づくり! ―最強ステータスで世界統一します―》トルフィンの部 【コミュ障の辛いところ】

前世において、トルフィンはほとんど人と関わってこなかった。

誰かとコミュニケーションを取ること自が億劫おっくうだった。昔はそんな自分をなんともじていなかったし、このまま一生孤獨で構わないと思っていた。

けれど。

そんな自分を、現在トルフィンは死ぬほど後悔していた。

――俺は気づけなかった。

リュアだって馬鹿じゃない。もしかしなくても、ゴルムが既に殺されている可能があると……いながらもじていたのだ。

それでいて耐えていた。

いま世界を救えるのは自分しかいないと、必死に自分をい立たせてきたのだ。

なのに俺はなんだ。

のために父の死は隠しておこうだなんて……馬鹿馬鹿しいにも程がある。俺はリュアの心のびに気づけなかったのだ。

ずっと守ってやると誓ったはずだ。なのに。

――いや。

自分を責めるのは後でいい。

いまの俺にはやらねばならないことがある。リュアを見つけ出し、安全な場所へ連れ出すという使命が。

だからトルフィンは走っていた。誰もいないシュロン學園の廊下を。 

どうやらレイア先生たちを除いて生存者はいないようだった。片っ端から教室やトイレなどを調べていくが、リュアはおろか、その他の生徒も見當たらない。相手が子どもであろうと、天使たちはまったく容赦しないようだ。

さすがに疲れてきたとき、トルフィンはあっと聲をあげた。割れた窓から、リュアの姿が見えたからだ。

は學園のロータリーに立ち盡くしているようだった。トルフィンとリュアが初めて會った場所でもある。幸いなことに天使の姿もない。

トルフィンは駆け足で階段を降り、リュアのもとへ走った。

「大丈夫か」

コミュニケーション能力の淺いトルフィンにはそうとしか言えなかったが、それでも彼は応じてくれた。

「うん……」

は振り向かなかった。

ただ顔を落とし、かすれたような聲を発する。

ここでまた気の利いたことが言えればよかったが、引きこもりたるトルフィンになにか思いつくわけもなく。もごもごと口ごもっている間に、リュアが遠くを向いたまま話し出した。

「ごめんね。迷だよね。わかってる。戻らなくちゃいけないって……わかってるんだけど……」

「…………」

思わずトルフィンは息を呑んだ。

本當に強い娘だ。親を失ってもなお、まわりの狀況を考えていられるとは。

トルフィンが素直にその気持ちを伝えると、えへへ、と若干無理をした笑いが返ってきた。

「私も頑張ってるんだよ。トルフィン君が大人すぎるから、ちょっとでも追いつこうって……」

「そんなことないさ。俺だってまだまだガキだ。わからないことだらけだからな」

「え……そうなんだ。意外」

そこでトルフィンは勇気を振り絞ってリュアの肩に手を置いた。

「俺に親を失った苦しみはわからない。だからいまはなにも言わない。ただ……おまえには俺がいるってことだけ、忘れないでくれ」

「…………」

正直、この言い方で良かったのかはわからない。ひょっとしたらさらに傷つけてしまったかもわからない。

トルフィンが固唾を飲んでいる間に、リュアはぶるぶるとを震わせ、我慢の限界というように振り向いてきた。そのままくしゃくしゃな泣き顔をトルフィンのに押しつけてくる。

大きな泣き聲が響きわたる。

いままでよほど我慢してきたのだろう。

リュアは溢れんばかりに涙を流し続けた。

トルフィンも無言で彼の頭をでてやった。

のようない子どもにとって、親とはかけがえのない存在に違いあるまい。それはトルフィンとてよくわかる。特にリュアはゴルムを尊敬し、そして信頼しきっていた。そんな父を失ったリュアの心は、トルフィンには察するにあまりある。

むしろ、これまでよく耐えてきたと言うべきだろう。

だからトルフィンは無言で彼の悲しみをけ止め続けた。それが引きこもりたるトルフィンが、唯一できることだから。

何分経っただろう。いくぶんか落ち著きを取り戻したリュアが、ゆっくりと赤い目でトルフィンを見上げた。

「ごめん……。泣いちゃった」

「あ、ああ。大丈夫さ」

「それと……ありがとう。だいぶスッキリしたかも」

「そうか……」

ならトルフィンの頑張りもすこしは報われたことになる。彼はほっとで下ろした。

「みんな待ってるぜ。教室に戻ろう」

「うん」

リュアは目をごしごしとけずり、トルフィンに片手を差しべてきた。

「いこ」

「ん? て、手を繋ぐのか?」

「うん。駄目?」

「いや駄目ってことぁねえが……」

――恥ずかしい。

前世を含めて二十年あまり、経験など皆無のトルフィンである。

ぎこちない笑みを浮かべながら、リュアの小さな手を摑もうとしたとき――

背中に激痛が走った。

「かはっ……」

トルフィンは思わずき聲をあげる。

立っていられなくなり、片膝で自を支えた。

ポタポタという音を立てながら、自が地に垂れている。

――いったいなにが起きた――

「くくく、生きて帰れると思うなよ人間が」

「お、おまえは……」

トルフィンは目を見開いた。

目の前に、さきほど始末したはずの敵――筋骨隆々の天使が立ちふさがっていたからである。

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