《引きこもりLv.999の國づくり! ―最強ステータスで世界統一します―》シュンの部 【魔神の想いと葛藤】

――3:49――

「…………」

アリアンヌはしばらく黙り込んでいた。天使とシュンに互に視線を向け、何事か悩んでいるようである。

と。

「ぴきー!」

聞き覚えのある鳴き聲が聞こえ、シュンは振り向いた。

巨大蜘蛛だ。

騒ぎを聞きつけて目を覚ましたらしい。

ふとあたりを見渡せば、巨大蜘蛛だけでなく、さきほど戦った悪魔たちが全員この場に集まっている。

「ぴきー! ぴきー!」

巨大蜘蛛のようすは異常だった。全質に尖らせ、兇悪な紅の雙眸で熾天使ミュウを睨みつけている。

「ん? あんた……」

當のミュウは相変わらず場違いなほど明るい聲を発する。

「もしかしてセリアかな? ごっめん、あまりに醜くてさ、気づけなかったよ。てへへ」

「ぴきー! ぴきー!」

「え? ごめん、なんて言ってんのかわかんないや」

後頭部をさすり、てへへと舌を突き出すミュウ。

――クズめ。

シュンの腹のなかで怒りの炎が燃え上がった。そもそも悪魔たちの姿をこのように変えたのはディストたちだ。それなのにミュウの言い様は……

「おい、おまえいい加減に――」

「ぴきー!」

シュンが言い出すより早く、巨大蜘蛛が耐えかねたようにミュウに飛びかかった。

「っ! 待ちなさ――」

アリアンヌが呼び止めようとするも、間に合わない。

そして。

それは、あまりに一瞬の出來事だった。

ミュウがぱちんと指を鳴らすと。

巨大蜘蛛が、発した。

正直、なにが起きたのかすらシュンには認識できなかった。

突如発生した大発に、巨大蜘蛛は力なく落下し――

ズドン、と。

シュンの近くの地面に打ち付けられた。

がしおれ、紅くれないだった瞳は黒く変している。

「ぴ、ぴきぃ……。ぴ……」

「お、おい……おまえ……噓だろ……?」

「ぴ……」

さきほど仲直りの握手をした巨大蜘蛛は、あまりにも呆気なく、息を引き取った。慌ててシュンがをさするも、ぴくりともかない。

「うっふふふ……あっはっは!」

熾天使ミュウがぶるぶると全を震わせ、天に向けて笑い聲をあげた。

「ちょーうける! いいね! これこそが《殺し》の醍醐味だいごみだよ!」

「あんの野郎……!」

もう我慢の限界だった。シュンは腕をまくり、熾天使へ駆け寄ろうとした――のだが。

「お待ちなさい!」

魔神アリアンヌが、靜かに、だが確かな聲音で言い放った。

「シュンさん、ロニンさん。いまからあなたがたを異次元に転送します。そこで……みずからの力を高めてください」

「おいおい。馬鹿いうな、この後に及んで修業なんて……!」

「いけません」

アリアンヌはシュンの語尾を奪い取ると、瞳に決意を稱え、初めて明確な表を浮かべた。

「言ったでしょう。あなたたちは最後の希なのです。みすみす死なせるわけにはいきません」

「だ、だが……!」

なおも言い募ろうとするシュンを、アリアンヌは軽く突き飛ばした。

「!? な、なんだこりゃ……!」

小さく仰け反ったシュンが、空間のある一點に吸い込まれていく。そこに見えない《口》があるかのように、シュンのがいずこかへと消えていく。

「ごめんなさい。手荒だけど……こうするしか、もう手はない」

アリアンヌは一瞬だけ両眉を下げると、同じようにロニンも突き飛ばした。シュンのときと同様、ロニンの姿も消えて視認できなくなる。

アリアンヌと熾天使ミュウ、そして悪魔たちだけが地帯に殘った。

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