――２：００――

再び大地が揺れた。

シュンは舌打ちし、ロニンとともにアリアンヌを庇かばう。彼がいなければ自分はここまで強くなれなかった。なにがなんでも守り通さねばならない。絶対に。

だが同時に、とめどなく焦燥が溢れ出してくる。

いったい、これからどうすればいいのか。

ディストとミュウは現在、見果てぬ場所にいる。もたもたしている時間はない。ディストの言葉が正しければ、あと二時間で世界が消えてしまう。

「困ったことに……なりましたね……」

この場にいた誰もが同様のことを思ったのだろう。アリアンヌがれた呼吸のまま呟いた。

「私の力が健在であれば……ご案できたのですが……。申し訳ありません。いつも肝心なところで……」

アリアンヌのせいではない。シュンは首を橫に振った。

考えなければならない。

必ず、なにかしらの方法があるはずだ。創造神ディストへ辿りつく方法が。

「――それは俺が助太刀しよう」

と、ふいに、どこか懐かしい聲がシュンの耳に屆いた。

瞬間。

とある地面の一點に、突如として幾何學模様が発生した。この現象も見覚えのあるものだ。ワープの魔法である。

幾何學模様から上空へ、の柱がびていく。そこに現れた人影を見たとき、シュンは思わず目を見開いた。

「おまえ……アルスか……？」

「久しぶりだな……。やはりここにいたか」

勇者アルスはやや切迫した表だった。シュンとロニンを見渡し、ふうと息を吐くと、両膝に手を當てた。

「苦労した……。いままで彼らを守っててな」

「彼ら……？」

視線をずらすと、現れたのは彼だけではないことがわかった。

セレスティア、リュア……そして、レイア先生を含む、數十名のシュロン學園の生徒たち。

彼らがみな、へたり込む形で地面に橫たわっている。死んではいないようだが、現在、けないらしい。

アルスが話を続ける。

「いきなり、みんなのステータスが１にされたようでな。俺はディストから《神の霊気》を授けられてるから無事だったが……」

「そうでしたか……」

答えたのはアリアンヌだった。

「私の作した《ステータス作無効スキル》はあくまでその場しのぎのもの。熾天使の力には抗あらがえなかったようですね……」

となると、ステータスを作され、けなくなった彼らを、アルスは単で守り続けたことになる。彼も彼で大変な思いをしてきた……ということか。さぞ多くの天使と戦ってきただろう。

「あれ、でもちょっと待って」

わずかな沈黙を、ロニンが破った。

「トルフィンは？　トルフィンはどこにいったの？　一緒にいたはずだよね？」

「ああ……それが、だな」

アルスは申し訳なさそうに視線をずらした。

「トルフィンだけは守りきれなかった。天使の連中に……連れ去れてしまった……」

「つ、連れ……！？」

ロニンがいっぱいに目を見開き、足をふらつかせる。

シュンも揺を隠しきれなかった。あの抜け目なさそうな息子が……

「トルフィンはいま、神殿で監されていると思う。天使ども、他の人間たちは問答無用で殺していたが、トルフィンだけは無傷で連れていったからな……。俺は勇者失格だ。……だから」

アルスは凜然りんぜんたる瞳でシュンを見據えた。

「俺も協力させてくれ。勇者として……なにより一人の人間として。幸いなことに、すこしずつ思い出してきたよ。どのような経路で神殿に連れて行かれたかを」

「ああ……俺からもよろしく頼む」

言いながら、シュンは右手を差し出した。アルスは若干戸ったようだが、すぐに片手を差しだし、握手に応じた。

「さて、そうと決まったらすぐに行かねえとな。どうやったらいいんだ？」

「それはだな……」

アルスが言いかけた、その瞬間。

――っ！

シュンはふいに怖ぞ気を覚えた。

慌てて上空を振り仰ぐ。

見るも大勢の天使たちが、こちらへ向けて飛んできているところだっった。白銀のしい両翼を羽ばたかせ、真っ直ぐに向かってくる。その數、百はくだらない。

「くそったれめ……！　ディストの差し金か！」

奴らを倒すことなど造作もない。

だが事態は一刻を爭う。なるべく無駄な時間を使いたくない。

かといっって奴らを無視すれば、アリアンヌやセレスティアたちが……

瞬時。

さっきまで隠れていたのべ五十二もの悪魔たちが、シュンたちの前に姿を現した。

「うぎー！　ぎぎぎ！」

「ぴぴぴ！　ぴー！」

それぞれの言語で、シュンたちに何事かをんでくる。

「ここは私たちに任せて、アリアンヌも人間たちも守ってみせる……って言ってる！」

「あ、ああ……そうか……」

シュンは中で込み上げるものをじた。

悪魔たちの強さは、修業中に嫌というほど思い知らされている。なくとも二時間、彼らならなんとか凌いでくれるだろう。

「悪い……任せたぜ！　セレスティアを……みんなを頼む！」