《引きこもりLv.999の國づくり! ―最強ステータスで世界統一します―》大好きな彼のように

命を賭けて戦うのは何年ぶりだろう。

魔王城を侵略したときか。

あるいは、セレスティア率いる人間軍と戦ったときか。

しかしいずれにしても、私の近くには常にあの人……シュンがいた。彼に守られながら、私はこれまでの戦いを乗り越えてきた。

けれど、いまは違う。

彼はこの場の一切を私に任せて行った。その先に創造神ディストが待ちけている以上、彼が私に気遣っていられる余裕はあるまい。

――実質、これが初めてだ。本當に命賭けで戦うのは。

思考の端でそんなことを考えながら、ロニンは剣を引き抜いた。切っ先を熾天使ミュウに向ける。

相手は神族。こちらの常識を超えた存在だ。一瞬たりとて油斷はできまい。

「ふふ」

熾天使ミュウは斧を肩に擔ぎ、綽々とした笑みを浮かべる。

「楽しみね。あんたはどんな顔で逝くのかしら? 最大級の苦痛を味あわせてあげる」

「…………」

思わず黙り込んでしまうロニン。

の狂気的なまでの発言に、ある種の予を抱かずにいられなかった。

「……さっき、アルスさんは孤児院の子たちを連れてきてなかった。もしかして、あなたが殺――」

「そう、殺したわよ」

――殺した。

自分で聞いておきながら、にわかには信じることができない。

セレスティアに集められ、心の傷を癒しつつあった子どもたちを、殺したと――ミュウはたしかにそう言ったのだ。

なぜ。どうして。

それを問う前に、ミュウは両手の指を絡み合わせ、恍惚的な表を浮かべた。

「いま思い出してもゾクリとするわね。あの呆気ない顔。なにも理解できないまま死んだのでしょう。うふふ……あぁ、やっぱ子殺しはたまんない!」

その猟奇の瞳をぎょろりとロニンに向ける。

「あんた、だいぶ強くなったんでしょ? 最高の《殺し合い》を楽しもうよ!」

「……そう。そういうことだったのね」

なんとなくわかった気がした。

ミュウは生の命を殺すことに異常な癖を抱いている。

そういう意味ではディストと同類といえた。

奴が人の足掻くさまに興するのと同様に、ミュウもまた、人殺し――とりわけ、い子どもの命を奪うことに執著している。だから孤児の一員として、セレスティアに匿われていたのだろう。虎視眈々と、子どもたちの首を狙って。

でも。

ロニンは首を橫に振った。

「殺し合い? 馬鹿いわないでよ。そんなのお斷り」

「……は?」

ミュウが目を丸くする。

「なに言ってんの? 私たちを始末しにきたんでしょ? そうしないと世界が滅ぶんだよ?」

ロニンはふうと息をつくと、ミュウのきを警戒しつつ、口を開いた。

「私はモンスター。人間には嫌われて當たり前の存在だったよ。実際、王都のクローディア學園では、學試験の的にデッドスライムが『使われて』た」

「……そりゃそうよ。ディストがそんなふうに世界を創ったんだから」

「でもね。たったひとりだけ例外がいたの。彼は人間なのに、私の味方をしてくれた。モンスターがひどい扱いをけないように、人間とモンスターが共存する國を作ってくれた」

「…………」

ミュウが不愉快そうに顔をしかめるが、ロニンは気にせず話を続ける。

「すごいと思わない? みんなが嫌ってる相手にすら、彼は歩み寄ろうとしたんだよ。そして私は気づいたの。私たちは本來わかりあえるはずなのに……勝手に壁をつくって、相手を悪者扱いして、自分から遠ざけてるんだ。それじゃ、どんどん距離が開いていくだけなのに」

「それで? なにが言いたいの? 私、そろそろ戦いたいんだけど」

「……だから《殺し合い》なんてやらない。彼が私にそうしてくれたように……私は、あなたさえ救ってみせる!」

決然と剣を構えるロニンに、ミュウは數秒間だけ目をぱちくりさせ――弾けたように笑い出した。

「あっはっはっは! 傑作! この私を救うだって! いいでしょう! やれるものならやってみなさいな!」

そして腰を落とし、斧を構えながらび出す。

「神族の最高位たる熾天使……魔王ごときに負けるほどやわじゃないわよ。目にものを見せてあげる。さあ、かかっておいで!」

――こうして、魔王と天使の戦いは幕を開けた。

殘り時間 ――0:40――

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