《引きこもりLv.999の國づくり! ―最強ステータスで世界統一します―》引きこもり

――ここまでなのか。

息子と剣の押し合いを続けているうち、シュンのに諦観ていかんが浮かんできた。

――君は弱くなったんだよ。昔よりずっとね――

ディストの言葉には不思議と説得力があった。

普段ならこんな妄言などにはじなかったかもしれない。だが、実の息子に本気で殺されんとされている現在、シュンの心には揺らぎが生じていた。

「トルフィン……思い出せ。おまえがいたから――おまえが元引きこもりだったから、俺は助けられた」

「…………」

シュンの言葉には構わず、トルフィンは殺意を帯びた剣を押し込んでくる。

シュンは諦めずに説得を続けた。

「おまえがいたから、アルスは正気を取り戻した。わかるだろ? おまえとアルスがいなきゃ、今頃俺たちはディストに殺されてた」

「ふん。なにを言うかと思えば」

ディストが呆れた聲を発する。

「お涙頂戴なみだちょうだいでも狙っているのかな? がっかりだよ。そんなことでトルフィン君は戻らない」

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ディストは玉座から立ち上がると、どこから出現させたか、巨大な杖をトルフィンに向けた。

「もういい。トルフィン君。君の親は時だ。さっさと殺したまえ」

「…………」

トルフィンは無言で頷いた。

直後。

全力を出したのか、トルフィンはかつてないほどの膂力りょりょくを解放した。まさに常識を超えた力。かなりディストにステータスを上げられたようだ。

「しまっ――」

息子に押し負けた。

シュンは仰向けに倒れ、無慘にも餅をついてしまう。下半に鋭い痛みが走るが、そんな痛みなど些末さまつなものだった。

「…………」

トルフィンは無言のまま、闇の剣を逆手に持った。完全に首を狙っている。彼がこのまま剣を降ろせば、いかにシュンとはいえ看過できぬダメージが通るであろう。

「くくく……あっはっは!」

創造神の邪悪な哄笑が響きわたる。

「どうだねシュン君! 実の息子に殺される気分は!」

「て、てめぇって奴は……!」

「そう、その顔だよ! 君のその顔を見たいがために、君たちにトルフィン君を授けたのだ! まさに傑作の表だよ!」

「――じゃあ、今度はおまえがそんな顔をする番だな」

突如として。

さっきまで虛無の顔つきだったトルフィンが、くるりとディストの方向を向いた。そのまま猛然と創造神へ向けて疾駆し、剣を振りかぶる。

「……な、に!?」

ディストは當然のごとく驚愕するが、反応速度はさすがだった。勢いよく振られたトルフィンの剣を、杖で弾き返す。

「ちっ、駄目か」

舌打ちをかましながら、トルフィンは大きく後方に飛び退き、シュンの隣に並んだ。片腕を掲げ、謝罪のポーズを取る。

「わりぃ父上。駄目だった」

「……はっ。目覚めただけでも及第點ってもんだ」

シュンは不敵に笑うと、地面に片腕をつき、素早く立ち上がった。そのまま二人で創造神と対峙する。

「ば、馬鹿な……どういうことだ!?」

ディストは大きく顔を歪め、び聲を放った。そこにさっきまでの余裕はない。

シュンはふうと息をついた。

「ディストさんよ。あんた、神様の割には察しが悪いな」

「な、なんだと……?」

「考えてたんだ。おまえの《洗脳》がどういう種類のものなのかをな」

かの武大會において、トルフィンはアルスの記憶を取り戻させた。

その手段は実に単純だ。

アルスは過去のコンプレックスを指摘され、正気を取り戻したのである。

実際にも、アルスは劣等に打ちひしがれてたとき、ディストに心を奪われたのだ。これが大きなヒントになった。

「……おそらく、おまえは心の隙につけ込むことで、人を支配していたんだんだろう。だったらそれを解消すりゃいい」

「くっ……さっきの陳腐なお涙頂戴はそのためか……!」

ディストはぎりりと歯を食いしばった。

「しかし、やはりありえない! そんなことで人のコンプレックスが解消されるわけは……!」

「そこが見當違いだったんだよ」

と言ったのはトルフィンだった。

「たしかに昔の俺は《引きこもり》であることに引け目をじていたさ。死のうと思ったこともある。だが……そんな俺を変えてくれた奴がいるんだよ。リュア、っていう名前のな。もう俺は、過去の自分を恥じたりはしない」

「馬鹿な……。引きこもりの分際で……!」

「引きこもりだからこそ、さ。だから父上は俺の気持ちを察したんだ。俺の心傷を癒す、一番いい方法を知ってたんだ」

「お、おのれ……!」

「どうだ創造神さんよ。俺の言った通り、いまのアンタもだいぶ変な顔してるぜ?」

「ぐ……!」

「煽るなよおい」

シュンは息子の肩を叩くと、凜と燃える瞳をディストに向けた。

「《いまの俺は弱くなった》と言ったな。これを見て本當にそう思うか? 引きこもりがそんなに出來損ないに見えるか?」

「ふん。なんとでも言うがよいさ」

ディストはつまらなそうに首を橫に振ると、杖を親子に向け、再び片頬を吊り上げた。

「ならば証明してみるがいい。引きこもりの可能を。世界を創りしこの神に、引きこもりごときが勝てるかを!」

殘り時間 ――0:13――

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