《引きこもりLv.999の國づくり! ―最強ステータスで世界統一します―》神をも弄ぶ男
「はぁ……はぁ、はぁ……」
荒い呼吸が、室に響き渡る。
「參ったなぁ……本當に……負けちゃうなんて……」
仰向けに転がり、震える腕で自の顔を隠す熾天使ミュウ。
そのは傷にまみれていた。
白銀のローブは各所が切り刻まれ、を出させている。足や腕にに至っては無數の切り傷が存在し、彼の周囲には、赤いが円上に広がっている。
激しい戦いだった……
魔王ロニンは闇の剣を地面に突き刺すと、そこに自の重を支えた。こうでもしないと、まともに立つことさえできそうにない。
――勝った……
開放をにじつつ、ロニンもかすれた聲で呟いた。大きな聲を出す力はまったく殘っていない。
「シュンさんたちのおかげだよ。私だけの……力じゃない」
「あっそ……」
ミュウは興味なさそうに答えると、聲に若干の邪気をはらませた。
「どうでもいいけど。ねえ、早く殺してくんない? こんな格好するくらいなら、イッたほうがまし」
「《殺し合い》はしない……言ったでしょ」
「……ふん」
ミュウはつまらなそうに顔をそむけると、ふいに、ぽつりと呟き聲を発した。
「知ってる? ディストはなんで、このタイミングで世界を消そうとしたのか」
「え……」
返答に窮し、口をもごもごさせてしまう。
いきなり天使が現れ、人間・モンスターを殲滅せんめつさせていく――この一連の流れそのものは、ディストの悪趣味な娯楽のためだと聞いている。
自分の創造した《箱》に生命をつくり、ある程度繁栄したら絶滅させる――その足掻くさまが好きなのだと。
でも。
そういえばロニンは知らない。
ディストが特殊な癖を持っているとしても、なぜ《いま》なのか……
ロニンがなおも黙りこくっていると、熾天使は大きく息をつき、語り始めた。
「一言にいえば、シュン……彼があまりにイレギュラーな存在だったからよ」
「えっ……」
「人間とモンスターは、《憎しみ、殺し合うようにする》。ディストはそんなふうに世界を創ったの。あなたも悩んできたでしょ? なんで人間はこんなにもモンスターに冷たいのか」
「あ……」 
記憶の糸をたぐり寄せたロニンは、知らず知らずのうちに目を見開いた。
「そう。ディストはその戦爭を見て楽しんでいた。なのにそのシステムを作り替えた人がいたのよ」
「それが……シュンさん……」
ミュウはこくりと頷いた。
「シュロン國を創って、人間とモンスターを共存させる。それって、神に対するとんでもない反逆なのよ。最初は建國に苦しむみんなを鑑賞してたようだけど……でも、だんだんそうも言えなくなってきた。エルノスも死んじゃったからね。実質、シュンに刃向かえる人はいなくなった。本當に平和な世界が創られてきて、ディストにとってはつまらなくなってきた」
「そっか……そういうこと……」 
得心がいった。
つまりは、ディストをあそこまで駆り立てた人間も、またシュンだったというわけだ。あの規格外な國王は、神さえも振り回していたということになる。
「ねえ、ロニン」
改めて名前で呼ばれ、ロニンは
「え……?」
と小さな聲で返事する。 
「正直、あたしは世界がどうなろうが興味ない。だけど……シュンはたしかにすごい人だよ。あんたが惚れるのもわかる」
「あ……」
「あいつなら、本當にディストさえ倒しそうな気がする。だからまあ……せいぜい頑張りなさいな。ディストがいなくなって、世界が変わるのも面白そうだかんね」
「ミュウ……あなた……」
――そうだ。
私はシュンの妻。
だったら、彼を支えるのもまた、私の役目……
ロニンが謝の言葉を述べようか悩んでいると、ふいに、ミュウが激しい悲鳴をあげた。をよじらせ、両手を空に掲げ、空気を求めるように口を痙攣けいれんさせる。
――なんだ!?
ロニンは大きく目を開き、思わず構えてしまった。しかしなにも起こらない。熾天使の苦悶のび聲だけが、室に響きわたる。
「あはは……ディスト……あんたって奴は……私まで取り込む気……!」
取り込む。
いったいどういうことだ。
ロニンがしどろもどろしている間にも、ミュウのはさらに蝕まれていく。気づけば、熾天使のが、下半から上半にかけて徐徐じょじょに消滅している。
ミュウの全はあっという間に破壊の波に呑み込まれ、ついに頭部のみが殘された。
「じゃあね……ロニン……」
死に際、ミュウはただそれだけを言った。
「あたし……あんたたちは嫌いじゃなかったよ。せいぜい……頑張り……なさ、い……」
殘り時間 ――0:01――
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