～南海side～

真っ先にいたのは咲だった。

咲が裝著している弓―――――フィルカシーナは矢を必要とせず、代わりに魔力を矢の形に収束させて放つという武である。

矢というコストが必要なく、魔力が続く限り何度でも撃てるというこの武は、かなり高い能を持っている代わりに厄介な質を持つ。

咲はゆるーいじの活発系なのではあるが、彼の本質は冷酷な王のソレである。

必要だと思えば、たとえ親であろうと簡単に売り払うことができ。

必要であれば、たとえ人だろうと平然と裏切ることができる。

そんな冷酷な彼の本質を知る者は、なくとも私たちのクラスの中でも私と靜香くらいじゃないだろうか。

 それはさておくとして、フィルカシーナが使用者に求めるもの、それは殘と冷酷さである。

フィルカシーナは、エルフたちの人骨で作られた弓であり、その弓は強い殺意や悪意、怨恨などが染みついている。

一般人がれば、一瞬のうちにを乗っ取られて近にいる人を皆殺しにするであろう強力な魔弓だ。

実際に咲もその例にれず、を乗っ取られはしたのだ。

したのだが。

乗っ取られた時間はたった十秒程度だったのだ。

本人曰く、

「確かに一瞬だけ乗っ取られたけど、別にそこまでひどいものじゃなかったよ～」

などと平然と言ってのけた。

さらには、彼はその弓を使いこなし、様々な魔を討伐していった。

遠距離から攻撃などされれば、接近戦オンリーの私では歯が立たない相手である。

そんな彼が今、今までにないほど真剣な表で弦を引き絞っている。

狙うは劣等竜レッサードラゴン。

限界まで弦を引き絞り、青白い矢が輝きを増していく。

それはどんどん大きくなり、やがてそれが５ｍを超えようとしたとき―――――

ヒュンッ。

そんな音を殘し、青白く輝く矢は劣等竜にまでたどり著き、発・・した。

流石にこれには私もびっくりである。靜かでさえポカンとした表を浮かべている。

「うん？　どうしたの二人とも、そんな呆けたような顔して」

「どうしたもこうしたもあるか！　発するならそう言ってくれよ！」

今の発でこっちの存在を知されちまったな。これじゃ奇襲できそうにないな。

「しゃーねー。こうなったら正面突破だ。覚悟は……って、聞くまでもないか」

「當たり前ですよ南海。なんとしてでもこの國を守って見せます」

「やる気があるって言ったら噓になるけど～、友達の頼みを斷れるほど、私もそこまで図太くもないし～。だからできるだけ努力はするよ？」

いつも通りの雰囲気を保っている二人に私はしだけ笑うことができた。

「じゃ、相手方も痺れを切らしてるだろうし、そろそろ始めますかね」

私はそう言って劣等竜レッサードラゴンに向かって突進する。

劣等竜も私を食い殺そうと私目掛けて全力で突進してくる。

「いくら竜とはいえ所詮は畜生、羽の生えたトカゲのデカい版でしかない」

愚直にまっすぐ突っ込んでくる劣等竜をギリギリで回避して拳を構え、放つ―――――！

ドゴッッッ！！　という音を響かせながら、竜のの側面に直徑５０センチほどの風ができていた。

なんてことはない。ただの正拳突きである。

まあ、ただのという割には魔力を込めて威力を上げたりしているので、一般人に打てば風どころでは済まないのだが。

「いやぁ～、いつ見てもすごいね～」

咲が心したような聲を上げる。

「これくらいなら私じゃなくてもできるだろ？」

「いやいや無理無理。なくとも私にはできない」

そう言いながら咲は空に浮かぶ魔たちをバンバン打ち抜いている。

私から言わせれば咲も結構規格外だと思うんだけど。

 私はガントレットの裝飾である紅の寶玉の一つを取り外し、腰にぶら下げているケースから蒼の寶玉を裝著する。

寶玉巨腕ギガントカラー。それが私の得である。

この寶玉巨腕には左右に三つ、計六つの寶玉があしらわれている。

寶玉には一つ一つ強力な魔法が込められており、裝著されている三つの寶玉の魔法を組み合わせることによって、既存していない、全く新しい魔法を編み出すことができる。

強いことは強いのだが、寶玉の力が強すぎて誰の手にも余るようなものだったから私が使ってみたら見事私とぴったり波長が合うことが分かったので、現在まで使用している。

確かに力の制が難しいが、きちんと扱えばちゃんと手加減できるようにはなった。

「まだまだこれからぁぁぁああ！！」

左右のガントレットに裝著されている紅と蒼の寶玉に魔力を込める。

―――――コォォォォン―――――

という音が響き、だんだんと寶玉に魔力が蓄積される

火魔法でも水魔法でもない、熱で敵を攻撃する私だけの新しい魔法。火魔法と水魔法を合させて作り上げた、いわば熱魔法とでも名付けようか。

水蒸気によって相手を攻撃するので、例え相手がい鱗で覆われていたとしても、蒸し焼きにして殺すことができる。

五ほどの劣等竜を巻き込んで蒸し焼きにした。

咲が次々と魔を打ち落としていくのを目に、靜香の方に目を向ける。

ちょうど帝國兵とぶつかるようだ。

靜香は何の躊躇もなく敵を切り殺していく。

私は靜香が握っている得に目を向けた。

靜香の得である刀―――――妖刀・花。

あの刀はやばい。見ただけで背筋が凍るような覚に陥った。

妖刀・花

この世界に現存する數ない妖刀シリーズのうちの一つ。

その數ない妖刀の中でもトップクラスの力を持ち、尚且つ非常に兇悪な質を持つ刀である。

妖刀の基本的スキルである吸による【切れ味上昇】はもちろんのこと、魔法を切ることによって切りつけた魔法を刀に付與するという能力に加えて、花本來が持つスキルは相當厄介なものである。

花が持つ固有能力。それは切りつけた相手の神心を壊す能力である。

人は誰もが、たとえ自覚していなくとも心的外傷トラウマを抱えている。

花はそれを揺さぶり起こし、切りつけた相手を側から殺すことを得意とする。

この能力を聞いたとき、私は今まで以上に恐怖した。

これ、もしかしなくとも靜香と敵対したら終わりじゃないか…………？

モンスター相手に効果があるのかどうかはわからないが、を、心を持つ生に対して絶大な力を誇る。

そんな武を片手に、靜香は自分に向かってくる帝國兵の大群を一人で凌いでいた。

いや、あれは凌ぐというよりもあしらっていると表現したほうが正しいのかもしれない。

靜香はスピード重視の戦い方がメインであるため、防は最低限しかしていない。なので一撃でも致命傷を負えばそこでゲームオーバーである。

対して帝國側はガッチガチに固めた重戦士型である。機はかなり落ちるものの、生半可な攻撃では傷一つ負わず、じわじわと相手を責め立てるというスタイルである。

一対一ならともかく、一対多のこの狀況では靜香の方が分が悪い。

普通なら・・・・。

先ほども説明したが、靜香の得は妖刀、それも神を責め立てる力を持っているのである。

たとえかすり傷であろうとも、刀にれた時點で能力は発する。

故に靜香はたとえ致命傷を與えずとも、刀をにれさせることさえできれば、その時點で勝ちなのである。

現に先ほどから靜香は鎧の繋ぎ目を狙って斬撃を放ち、傷つけられた相手は発狂してその場で暴れまわり、敵味方の判斷ができないのか暴れまわっている。

暴れまわっている敵は突然を直させ、そのまま地面に伏した。

これが、花の能力である。

靜香曰く、もう一つ能力があるらしいのだが、それは教えてもらうことはできなかった。

だが、自由自在な遠距離攻撃が可能な咲と、あらゆる魔法の組み合わせで敵を倒すことのできる私、と神の両方に攻撃を加えることのできる靜香が揃っている。これならば、たとえ魔族相手でも負けることはないだろうと、高を括っていた。

その安直な考えが間違いだ気付かずに…………。

＊

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＊

～晃side～

俺は今急ぎのスピードで南門に向かっている。

先ほどの衝撃と斬撃が來た方向、そして何より魔の數から推測して南側から敵が來たと考えたのだ。

というか―――――

「魔多すぎぃ……」

空中を移しているため、飛行型の魔と先ほどからエンカウントしているのだが、ハーピーやら劣等竜レッサードラゴンやら、々と多すぎである。

「空中戦の練習にはなるから倒すのは構わんが、流石に多すぎるぞ」

右手に凍荂とうわ、左手に紅蓮ぐれんを持ち、ただ我武者羅に攻撃を続ける。

先ほど分かったのだが、例え高いレベルの武スキルを持っていたとしても、それだけでは上手く武を扱えないらしい。

雪雫せつなは自分ののように思ったように扱えるし、破砕の斧ディバイズや十魔印鎖ヴェルモントは雪雫のようには使えなくとも、ある程度は使えるのだが、短剣―――――小刀と言った方が正しいかもしれない―――――に関しては思ったように扱うことができない。

ただ付與している能力は強力であり、小さい分小回りが利くので一対多の狀況であれば重寶する武なのである。

これは誰かに師事したほうがいいかもしれんな…………

そんなこと考えながら、こちらに向かってくる魔をひたすら切り続け進撃する。

今まで強い（他の冒険者たちからすれば強すぎるといっても過言ではない）魔たちを相手にしてきた俺からすれば、この程度の數なら一人でもどうとでもできるのだが、それではあまり良くないだろう（主にほかの冒険者たちのレベル上げという意味で）。

なので地上に蔓延っている魔たちはすべてこの國の冒険者に丸投げしているのだ。

子どもたちにも手を出すなら最小限にするよう厳命している。

子どもたちも先ほどのオーク戦によってかなりレベルが上がっているので、そうそう引けを取ることはないだろう。

そう思いながら進んでいくと、後ろに見慣れた魔力をじた。

振り返ってみると、リーナが俺の後ろにぴったりとくっ付いていた。

「いつからいたんだ？」

「ついさっき」

戦っていたので近づかれたことに気付かなかったのだろうか。

自分でも気づかないほど疲れているようだな…………。

この戦が終わったらちゃんと休息しなくては。

敵が前から來たので迎撃しようとするも、逞しい嫁によって活躍の場を奪われてしまう。

うちの嫁マヂ強すぎィ……。

本當に頼りになる良いである。

さて、負けていられないな。かっこいい所見せるためにも―――――

「死に曬せッ！」

俺は腰に差した雪雫せつなを抜刀し、一太刀で葬る。

敵のを超えて斬撃が吹っ飛んでいく。

し先にいる上位竜グレータードラゴンの數を真っ二つにしてしまった。

ドラゴンのはかなり味なので、回収できるなら回収しておきたい。

というわけで速攻で近づいてを回収。

しだけ余裕ができたので、辺りを見回してみる。

……

…………

………………？

おや、あれはもしや？

目を凝らしてみると、懐かしきかな、クラスメイト達の姿が見えるではないか。

ぱっと見だが、あれはたぶん靜香と刎さんだろう。

刎さんが魔をバンバン殺っていくのは違和ないんだけど、靜香が人を殺しているところを見るとなんだか狂気じみたナニかをじるのは俺だけか？