《銀狼転生記~助けたと異世界放浪~》026 ~復讐者・前~
相も変わらず雨が降る夜。
雨雲によって、遮られた月はエルフの里には屆かず、里はかろうじて、街燈の明かりによって暗闇の浸食を阻んでいる。
そんな里の上空。
そこには金髪のが一人、宙に浮いていた。
が呟く。
「ふふふ、予定通りですね」
の視線の先には、森へ向かって走る銀の獣と、里を飛び回るガーゴイルの姿がある。
「やはり、私の存在に気付きましたか。全く、あの娘スフィアには手を焼かされました。
まさか最後の最後、外部の魔獣に助けを求めるとは、まあ多の予定変更はありましたが、全ては私の掌てのひらの上、問題はありません。
あの忌まわしきガーゴイルが踴っているのは、見ていて稽ですが、時間はそれほどありませんし、さっさと用事を済ませてしまいましょう」
そう言っては、金髪を靡かせながら重力に従って落下。
靜かに屋の上に著地する。
は鍵のかかっていない窓を開けて、2階の一室に侵する。
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その部屋は殺風景で、大きなベッドが二つ、並んでおいてあるだけ。
そのベッドの1つには小さなが寢ており、うなされていた。
はに歩み寄る。
「苦しいでしょうね。でも安心して、もうすぐあなたはあのお方の・。さあ、私と供に行きましょう? フィリ」
そう言って、に手をばそうとした剎那。
背後からの殺気には咄嗟にをよじる。
「がはっ!!」
───ガシャーン!
が、衝撃は橫合いから、腹への一撃だった。
回避行ををよじるだけにとどめたは、その攻撃をまともにくらい、ってきた窓を割りながら外へ放り出された。
「ぐっ─なにが!?」
は宙に浮くことで、勢いを殺し自分に攻撃を加えた者がいるであろう部屋の中へと目を向ける。
『自分の家なんだから、窓からっちゃダメだろ? スフィア。いや───使用人・・・』
そこには、目に怒気を宿らせた銀狼がいた。
◆◆◆◆
俺は目の前のスフィア──の姿をした何か──と対峙する。
そいつは、俺の姿を確認すると目に涙を浮かべて泣きマネを始める。
「もうっ! 痛いじゃないですか! ロウさん!! 幾ら私が噓言ったからって……毆ることないじゃないですか!! フィリが悲しみますよ?」
わざとらしい。
幾ら、スフィアの姿をしていようとも中は全くの別者。
不要な甘さを捨てた俺は、相手が知り合いだったとしてもやり合える。
そんな言葉や仕草に俺の怒りは微塵も揺らぐことはねえ。
そんな事は関係ないとばかりに短剣を投擲してやる。
普通に避けられたが。
「あら、躊躇わないんですね? 甘い魔犬だと思っていたんですが、存外酷い犬でしたか?」
『他人のを好き勝手使ってる奴が言う臺詞か?』
「やはり気づいていらっしゃいますか。ふふっ」
その聲で、その顔で笑うな、蟲唾がはしる。
俺は更に目に込める怒気を強める。
「それより、先程あなたが森の方へ向かったのを確認したんですが、どうしてここにいるんです? 瞬間移でも使ったんですか?」
それは、俺の分だ。
呪いにかかったスフィアのが持ち去られたことから、呪いにかかってしまったフィリが連れ去られる可能が高い。
そう考えた俺は、ガーさんに頼んで相手を釣り出すため(ついでに周囲のエルフの避難導も任せた)にわざとフィリから離れて貰い、同様に俺の分も森に向かわせる。
後は、まんまと罠にかかって部屋にってきたを、部屋の外から〈転移〉して、大きくなぎ払った尾で吹き飛ばしたわけだ。
『企業だ。それよりお前は何者なんだ? 何が目的だ?』
「あなたのような、魔犬風に教えることはない──」
『っ! てめぇ…』
「と、本來なら言いたいところですが、私の存在にづいたご褒です。特別に教えて差し上げましょう」
は、その場で優雅にお辭儀をした後、口を開いた。
「私の名前はエルシア・エアロ。魔王バアル様へと心を捧げた下僕であり、第三 窮姫キュウキ候補。そして──」
待て。”エアロ《・・・》”だと?
そのはフィリやスフィアと一緒じゃねえか!?
てことはこいつは……。
「フィリやスフィアの生みの親──母親です♪」
『っ!!』
「あら? これは予想外でしたか? 」
『なんで!!』
 「はい?」
『なんで、実の母親が娘達を裏切ってまで魔王側にいるんだ!? 死んでねえなら、一緒に暮らしてやれば良いじゃねえか!』
俺の質問にエルシアは、さも當然というように言い放った。
「そんなの嫌ですよ。バアル様のお側にいられなくなるじゃないですか。それに──私、その子のことが嫌いですから」
エルシアの視線の先には、苦しそうに顔を歪めたフィリの姿がある。
──こいつ……。
「あなたは1つ勘違いをしてらっしゃるようです。私は里の連中に殺され、既に死んでます。 そして殺された理由は、その娘フィリが生まれたから。恨んで當然ですよね。まあ、今となっては死んだおかげで、バアル様にお會いする事が出來たとも言えるので、そこまで恨んではいませんが」
『おまえ──』
「そして、私の目的ですが……」
俺の言葉を遮るエルシア。
「ズバリ、端的に言えば”里への復讐”でしょうか? 本當の目的は別ですが」
やっぱりか……。
だが、
『本當の目的だと?』
俺の言葉にエルシアは左手の指を二本立て、順に折り曲げていく。
「ええ、一つはスフィアとフィリの回収。因みに、生死は問いません。二人の娘の存在を知ったバアル様が是非、配下《窮姫》に加えたいと仰ったので。
二つ目は〈アヴァロンの実〉の取得。これは、スフィアを使ってあなた達を利用しましたが、失敗したようですね。森があんな風に凍ってしまっては採取どころではありませんし。 おそらく〈雪姫ユキヒメ〉の仕業でしょうが」
一旦言葉を切るエルシア。
そして、大きく手を広げたかと思えば、聲高らかにんだ。
「そして!! この二つの試練を合格した暁には、私は晴れてバアル様の窮姫に!! あぁ、早くあの立派なモノで私を可がってしい!!」
まるで、そのバアルとやらが傍にでもいるかのように恍惚うっとりとした表を浮かべている。
『……つまり、我がしさに里と娘を売ったってことだな?』
のからどす黒い何かが湧き出てくるようだ。
「そうですよ? あの方のためなら、何も惜しくありませんし、私は復讐を果たせる──メリットしかありませんしね。あ、勿論、娘共々可がって貰うつもりですよ?」
……我慢の限界だな。
もう、容赦はしねえ。
俺はこいつをフィリ達の母親とは認めない。
『なあ、エルシア。お前は一つ勘違いしてる』
「なんです?」
恍惚とした表から一転、怪訝な表を浮かべてこちらに目を向けるエルシア。
『誰が、実の採集に失敗したって言った?』
「それは!!」
驚愕に目を見開くエルシア。
それもそうだろう、いつの間にか俺の口には紛れもないリンゴ──じゃない、〈アヴァロンの実〉が咥えられていたのだから。
「その実を渡しなさい!! それはバアル様のです!!」
俺はその聲を無視して、実をフィリの口元へ持って行く。
すると、実が僅かに発する。
途端にフィリの顔は、苦悶の表からいつもの、見る者の心を洗い流すような寢顔になる。
実の効果で呪いから解放されたのだろう。
──待たして悪かったな。フィリ。
フィリにかけた呪いが消えたのが分かったのだろう。
エルシアは顔から表を消し去った。
「ご自分が、何をしたかご理解されてますか?」
『さあな』
俺の返答にエルシアは憤怒の表を浮かべ、ヒステリックにぶ。
「あなたは!! 今この時!! 私の──いえ魔王バアル様の王道を妨げました!! 明確な敵対行為とみなし、あなたを排除します!!」
『上等だ……』
元より、俺はこの騒の元兇を生きて返すつもりはねえ。
例えそれが、フィリの親の姿をしていようとも。
魔王様の王道を妨げた? 上等だよコノヤロー。
こうなったら、とことん魔王に敵対しまくってやるよ。
まずは、憂さ晴らしから始めてやる!!
俺はこちらに向かって突進してくるエルシアに向かって吠えた。
『かかってこいや!! 雌豚がぁあああ!!』
戦いの火蓋は、今切られた────
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