《銀狼転生記~助けたと異世界放浪~》028 ~スフィアの願い~

『この聲……スフィアなのか!?』

俺は、頭に響いた聞き覚えのある聲へと尋ねる。

『ええ、私です。最期の力を振り絞って、何とか【念話】だけ使えました。長くは持ちませんが…』

”最期”か…。

やっぱりスフィアはもう…。

だったら!

『だったら、俺なんかじゃなくてフィリに聲を聞かせてやれよ!!』

これが最期なのだとしたら、スフィアはフィリと話すべきだ。

姉妹なんだ。

つもる話はたくさんあるだろう。

『いえ、念話する際に魂のパスを繋げれたのはあなただけですので、それにロウさんに最期のお願いをしに來ました』

『お願いだって?』

スフィアは『はい』と言って言葉を続ける。

『私のを【捕食】して、【恩恵】でこの里を救ってください』

……は!? 何を言ってんだ!!

確かに、モンスターを【捕食】することでスキルを手する事は出來る。

でも、エルフを食べてスキルを得ることが出來るかは分からない。

というか、知り合いを食べるのはいくら何でも抵抗が大きすぎる。

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だいたい……。

『なんで、俺のスキルを知ってんだ?』

そう、俺はスフィアにはスキルを教えてない。

『それについてはガーゴに聞いて下さい。私はそろそろ限界時間ですので。あ、差し支えなければあの子に”してる”とお伝え下さると幸いです。』

『おい、それは自分の口で──』

『では、異界からの転移者さん。フィリの事を願いしますね。あなたが居て良かった…』

それっきり、スフィアの聲は聞こえなくなった。

──逝っちまったか。

てか、転移者ってバレてたわけかよ。

ホント、底の知れねえ人エルフだった。

「ロウ。大丈夫?」

と、ここでフィリが家から出てきた。

どうやら、γはフィリの護衛を完遂したみたいだ。

『おう、フィリ。 の調子は─って、顔が赤いぞ!? 大丈夫か? 熱があるのか!?』

「っ!! こ、これは…なんでも…ない。私は大丈夫」

俺が心配すると、更に顔を赤く染めるフィリ。

…ホントに大丈夫か?

まあ取り合えずフィリにも、スフィアの事を伝えるか。

俺は、フィリにスフィアの最期の言葉とその願いを伝えた。

フィリは、俺の話を聞き終えると迷いの無い表を浮かべ、言葉を発する。

「そう、姉さんが…分かった。ロウ。姉さんを【捕食】して」

なっ!! 本気かよ!

『お、おい。いいのか? いくら何でも、決斷が早くねえか。そんなことをすればスフィアのは──』

「俺からも頼む、ロウ。それがスフィアのんだことなら、俺達は何も言わねえよ」

後ろから聞こえた聲。

俺は、聲の聞こえた方へ振り向く。

『ガーさん…』

そこには、いつの間にかガーさんが見覚えのある爺さんと一緒に立っていた。

確か、ジゲルだったか?

『ロウ殿。確かに長様のがなくなるのは悲しいが、それは長様がんだこと。ならば、儂達は甘んじてそれをれる覚悟は出來ているつもりです。』

ガーさんとジゲルの顔に迷いはない。

それほど、スフィアの意思が尊重されているのだろう。

「ジゲルの言うとおり、私達の事は大丈夫。姉さんをロウが食べても、姉さんはロウの中で生き続ける。土に埋めるより私はその方が良い。だから、お願い、ロウ。」

目を潤ませて、真っ直ぐに目を見つめてくるフィリ。

ああ~、だから涙目には弱えんだよ俺は!!

もう一度、スフィアのへ目を向ける。

3人の意思は既に固まってる。

それならば、スフィアを【捕食】しても良いように思える…が。

──やっぱり、喰いにくいな。

俺の元人間としての道徳観がそれを邪魔する。

クソ、ここで日和ひよったって誰のためにもならねえ。

この世界では、甘さを捨てるって決めたじゃねえか。

俺は既に人間をやめてる。

そうだ、やってやる。

俺は、スフィアを──喰べる。

『わかった、ただ、食べる所は見ないでくれ、それが條件だ』

それが、俺の出來る最大の譲歩。

流石に、捕食シーンを他人に見せることは出來ねえ。

「ん。わかった。ありがとう」

「すまねえな。ロウ」

「ロウ殿。この恩はいつか必ず」

三者三様の返事とその場から離れていく足音を聞きながら、に手をかける。

──いくぞ、スフィア。 ”いただきます”。

心の中で、手を合わせて俺はスフィアの冷たいへとかぶりついた───────

◆◆◆◆

同時刻。

そこは、嘗て〈南の森〉と呼ばれていた場所。

地面には薄く氷のが張り、集していた大量の木々は、今では氷の彫像と化している。

周囲の気溫は低く、しっかりとした準備をして足を踏みれなければ、たちまちに凍死してしまうだろう。

森のシンボルでもあった巨大樹は見る影もなく、代わりにかくも見事な氷山がそびえ立っていた。

その氷山を見上げる人影が一つ。

蜃気樓のようにぼんやりとしているが、よく目をこらせばの形を取っているのがわかるだろう。

「地形を丸ごと一つ変化させるとは、凄まじいな」

が呟く。

事実、地形を変化させる程の魔力を持つ者はこの世界では限られたほどしかいない。

「雪姫の魔力とも違う。これは一──」

と、に近づく一人の男。

男は、の傍へ跪くと言葉を発する。

「ルキフゲ様、エルシアの反応が消えました。おそらく、試練に失敗したものかと」

その報告にルキフゲと呼ばれたは怪訝な顔をする。

「エルシア…だと?」

「はい。完全に消失したと思われますので、蘇生は不可能でしょう」

「そうか。では──」

「それともう一つ」

「……なんだ?」

ルキフゲは、”まだ面倒ごとがあるのか”とでも言うように不機嫌になる。

「エルシアが消失した辺りで、この森の殘存魔力と同質のを確認しました。おそらく同じ個かと」

その報告に目のを変えるルキフゲ。

しばらく、顎に手を添え考える素振りを見せる。

そして、男の方へ向き直って言った。

「わかった。取り合えず報告に戻ろう。我らが主、魔王バアル様の元へ」

「そうですね」

二人の男の姿は次の瞬間、始めからそこには何もいなかったかのように掻き消えた。

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