《銀狼転生記~助けたと異世界放浪~》閑話:~鳴する王國~

──王國 城中

「どういう事ですか!?」

部屋の外にまで聞こえた聲、廊下を警備していた二人の兵士が顔を見合わせる。

「今の聲、ミラー様の聲だよな?」

「ああ、あの人が聲を荒げるなんて珍しい事もあるもんだな」

現在、兵士達が警備している部屋では王國の名の元に、集まったそれぞれの小國や都市の近況報告が行われており、各都市のトップや小國の王達による、機報のけ渡しなどが行われている。

勿論その中には一兵士が知ればは文字通り、首が飛ぶような容まで含まれるわけだが。

そこで、兵士の片割れが気付く。

「てか、防音魔法の効果きれてんじゃねえか! 早く魔道士呼んできて掛け直させろよ!」

「やっべ!」

それを聞いたもう一人の兵士は慌てて魔道士を呼びに持ち場を後にした。

──あのお方が、聲を荒げるなんて、こりゃ本気で何かあったな。

部屋の中で議論が白熱化する予を背にじながら、兵士は警備の方へ意識を戻した。

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◆◆◆◆

──王國 城中:會議室

象が丸々二匹はりそうな程大きな部屋に、これまた大きくて豪勢な丸テーブル。

そのテーブルを囲むようにして、各國・各都市のトップ達が席に著いている。

そんな中、テーブルに両手を著いてを乗り出した狀態で靜止している人が、その切迫した表から先程、聲を上げた人だと推測出來る。

の髪を肩口で切り揃え、背には煌びやかな裝飾の施された槍を攜えている、彫像のようにしい造形の

名を”エリシャ・ミラー”

王國の北を進んだ所に広がる広大な海、〈アルマ海〉に浮かぶ街、〖水上都市アクリル〗の領主であり、七つの武の一つを極めた者──〈槍王〉の稱號を持つ人でもある。

ミラーの視線の先には、悍な顔つきをし、顎髭を蓄えた筋骨隆々の男がいる。

かの人こそが、〖アルデンス王國〗六十四代目國王。

〈剣王〉”イシュバール・ゼファー”である。

「どういう事か? そのままの意味だが」

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席を立ち上がって意義を唱えるミラーと違って、ゼファーは落ち著いた様子でどっしりと腕を組んで言葉を返す。

その様子が気に障ったのか、なおも聲を荒げるミラー。

「だから! 何故、私達に黙って勝手に”異世界召喚”等という、行為に及んだのか! その意味を問うているのです!」

「答える義務はな──」

『私も、エリシャと同じ考えです。ゼファー、本來”異世界召喚”とはじられた。それを使うに至った、納得のいく説明を求めます』

ゼファーの言葉を遮って聞こえてきた言葉。

出所は、ゼファーから見て斜め右方向の空席の前に置かれている紫の水晶からだ。

出席者の視線が一斉にそちらに向かう。

「この場にいない貴殿が意見を述べる筋合いは無いと思うのだが、デグレフ殿」

ゼファーは、水晶の向こうに居る人の名を、心底嫌そうな顔で呟く。

『私が多忙なのは、貴方も存知では? それに、バルカンの領主が問うているのです。答えないとは言わせませんよ?』

〈杖王〉”レギーナ・デグレフ”

王國を支える都市の一つ、〖魔法都市バルカン〗の領主である。

政まつりごとに長けた人であり、必要となれば、いつ何時でも冷靜な判斷を下すことから、「氷酷のデグレフ」と呼稱やゆされている。

また、魔法都市という特殊な役割を擔う都市なだけに、領主でありながら、國王であるイシュバール・ゼファーや、帝王ケイン・クロイツと同等の権力を持っているため、一都市でありなが

ら二カ國に匹敵するほどの命令権と兵力を持っている。

故に、一領主であるミラーだけでなく、彼からも意義を唱えられては、いかに國王であろうと答えざるを得ない。

ゼファーは、渋々といった様子で口を開く。

「……魔王國を滅するため、世界のためだ」

「!!」

『・・・』

ミラーが息を飲む。

無理もない、〖魔王國〗

ここでその単語が出てくるとは思いもしなかったからだ。

それは、他の出席者の面々も同じ、僅かに揺が走っているのが見て取れる。

そんな中でも、レギーナ・デグレフは冷靜に言葉を紡ぐ。

『つまり…。來たるべき時のため、戦力の増強が急務だったと?』

「そうだ」

再びざわつく出席者達。

”來たるべき時”、”戦力の増強” この言葉が暗に示すのは…。

「ゼファー殿、まさか、戦爭を起こすつもりか?」

一同がざわつく中、靜かでそれでいて重い聲を発したのは、山のように大柄な大男だった。

名を”イルゲン・ドゥーム”

〖鉱山都市ガンダーラ〗の領主であり、〈槌王〉の稱號を持つ豪傑である。

彼の座る椅子には、その稱號に恥じない巨大な槌が立てかけてあり、彼の容姿を含めて、圧倒的な存在を放っている。

「・・・」

「・・・」

ゼファーとドゥーム、二人の間に重い沈黙が流れる。

お互いに、存在が強烈なために周りに與えられるプレッシャーも尋常ではない。

『つまり、貴方は過去の過ちを繰り返そうとしていると?』

そんな中で沈黙を破ったのは、デグレフだ。

「どういう事だ?」

ゼファーが水晶を睨む。

視線が集まる中、デグレフは言葉を続ける。

『數百年前に起きた、異世界召喚によってこの世界にやって來た青年がこの世界の有様に疑問を抱き、國を興した。

彼は魔の者を纏め上げて人類へ反旗を翻し、この世界を混沌へと導き初める。これが現在まで王國の悩みの種であり続ける──〖魔王國〗誕生のルーツです』

デグレフの話に聞きる出席者達。

デグレフは言葉を続ける。

『そして、先日報告にあった〈サハラの森〉の異変。調査隊の帰還はまだですが、時期的に見て異世界人が関與した疑いが非常に高い。

つまり、貴方が問題解決のために行った行は、違う形で新たな種をまいた行為に等しいと言うことです』

沈黙する一同、眉を吊り上げる國王。

「発言、良いか?」

『どうぞ』

皆が一様に聲のした方へ視線を向ける。

そこには、酒瓶片手にどっかりと椅子に腰を下ろしている男がいた。

名を、”ダンカ・バルディッシュ”

冒険者の街〖エイギル〗領主であり、冒険者ギルド総帥の地位を持つ。

また、平民の出でありながら、〈斧王〉の稱號を得ており、怖じしない格と、平民ならではの俗世に縛られないな態度や考え方が、多くの民から支持を得ている。

服裝は、冒険者が著るような重裝備を著けており、偉方がそろい踏みをする議場では違う意味で存在を放っている。

「一つ言わせて貰うが、別に異世界人がこの世界に不利益ばかりをもたらしてる訳じゃねえと思うぜ。

現に、あんたが今使ってる『魔水晶』も、異世界人によってもたらされた技だ。他にも、街を探せばそういった産がいくらでも出て來る。異世界人は、この世界に技と発展を與えてくれてるぜ?」

バルディッシュの話に出てきた『魔水晶』とは、數百年前に発見された鉱石を加工して作られたであり、魔力を流すことで、通く離れた相手へ【念話】の要領で言葉を伝える事の出來る代である。(基本無だが、込められた魔力によってが変化する)

今では、主に軍部の連絡用や重大報を取り扱う時などに用いられる。

なので、使用が許されているのは國王か、それに連なる者に限られる。

「それに、森の異変の原因が異世界人って事にも賛しがたいな。今、異世界人達は俺達──冒険者ギルドで預かってる。余程、勝手な真似をしねえ限り、そんな事態には陥らねえよ」

再び場を沈黙が支配する。

そして……。

『ふむ…。貴方の言うとおりかもしれませんね。私としたことが、早計でした。し判斷を急ぎすぎたようです。國王イシュバール・ゼファー、先程の非禮お詫び申し上げます』

「貴殿のお心遣い、謝いたす」

先程までのピリピリとした空気が、幾分か快方へと向かう。

『ただし…』

──ピクリ

再び吊り上がる國王の眉、凍りつく出席者達。

『近いうちに、その異世界人達を數人こちらへ寄越して下さい。手厚い歓迎を致します』

「「「!!」」」

その言葉が意味すること、それは王國の戦力増強へ協力するという意思表示に他ならない。

再び議場が騒然とするなか、王が口を開く。

「わかった。そのようにしよう。他に、れを許容してくれる都市は──」

「私どもも!」

「國王様、是非私の國も」

「好待遇を約束しましょう!」

次々にあがる立候補の手、政治に長けた「氷酷のデグレフ」が異世界人の存在を許容した。

その事実は、人々に多大な利益を暗示させた。

我先にと、異世界人のれを認めていく。

そこには、王がを使った事実や、戦爭発のリスク等は黙認され、無いものとして扱われていく。

ミラーやドゥーム等、數人が否定的な見解を述べるも、時既に遅く……。

こうして、王國を中心に世界は再び戦爭へのカウントダウンを始める。

それが、どのような結果をもたらすのかも知らずに。

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