俺は、突如としてこの世界に転移し、突如として子犬に転生させられ、狼への長を経る。

そして今、再び人間の姿へと舞い戻った。

ここまでは、まあ、々規格外な話だが許容範囲だ。

こっちの世界で、様々な経験を果たした俺は寛大なんだ。

それに、人化したら食衝は大分落ち著いた。

これはとても嬉しい。

だけどな……

「なぁあああんで！！　転換してんだよぉおおお!!」

絶。

月明かりが反する湖畔で、を曬したままその場に崩れ落ちる。

これはねえわ!!

悪趣味だわ!!

何が嬉しくて、転生ついでに別変えられなくちゃならねえんだ！

普通、扱いされるのが嫌だったやつをにするか？

どんだけ、ハイクオリティな嫌がらせしてんだよ！

この世界じゃねえとできねえよ！　こんな魔法じみたこと！

ゆっくりと立ち上がり、再び自分の姿を湖面に映す。

肩甲骨までびきった、見慣れた銀の髪。

散々、扱いをされてきた中的な顔立ち。

のように、丸みを帯びたつき。

細い指、華奢でいて、し筋質な軀──

ん？

あれ？

転生前とそんな変わってないような気がする……。

別、変わってねえのか？

だが、もし変わってないのだとしたら、俺は自分の姿を””だと認識したことになっちまう！

そして、下半に視線がいく。

あっ!!　決定的な証拠があった！

息子だ！　俺の息子・・がいねえ！！

男の象徴が綺麗さっぱり、跡形もなく消失している。

なんてこった！！

俺を幾度となく、ホントはだという疑から救い続けてくれた、男の証。

その効力は、かの水戸黃門が自の地位を示す際に、提示した”紋所もんどころ”に匹敵する。

その紋所あかしが消失した今、俺に別を証明するすべはない。

くそっ！

……というか、この転換、どうも中途半端なじがする。

にしては、がないしらしきも見當たらない。

というか下には何も存在してない。

それ以外の俺自の変化がなすぎる。

どうせなら、もっとらしい変化も出來た筈だ。

んではねえけどな？

…じゃないのか？

だからと言って男だと判別する事も出來ねえし…。

まるで、と男の中間をとったような……。

「ロウ、まだ？」

自分の変化に疑問を抱いていると、フィリが小さく呟いたのが聞こえた。

フィリは、俺の意をくんで、三角座りをした膝の間に顔を埋めてくれていた。

だって、イベント出したいじゃん？

こういう遊び心があってもいいと思う。

正直、この姿を見せるのはかなり嫌だが、あまりフィリを待たせるわけにもいかねえ。

…よし。

『フィリ。顔を上げてくれ』

フィリが、恐る恐る顔を上げていき、俺の姿を視認した。

◆◆◆◆

私は、目の前に立つ、人・間・の姿に揺する。

月の明かりを反してキラキラと輝く銀の髪に、黃金の眼瞳。

夜の闇に浮かぶその人間の姿は幻想的ですらある。

──カッコイイ。

目が離せない。

別はあやふやなじがする。

でも、それ以上に見とれてしまう程にカッコいいと思った。

それが、意中の相手の姿だと思うと、が熱くなって、お腹の下がキュンとする。

「ロウ…なの？」

自分の聲が掠れているのが分かる。

「おお…あ、聲が出る…じゃなくて、ああ、そうだぜフィリ。因みに、れっきとした男だからな？　じゃねえからな？」

息を呑んだ。

ガーゴのハスキーな聲や、姉さんの絹みたいならかい聲とも違う。

凜とした、空気をき通るような綺麗な聲。

【念話】じゃないのに、頭に響いてくる。

初めて、心を抱いた相手が目の前でで立っている。

姉さんによって教えられた大人な知識が頭に浮かぶ。

吐息がれる。

「フィリ？」

──もうダメ。

火照った頬を誤魔化しながら、私はロウの懐に飛びついた。

◆◆◆◆

突然、フィリが飛び掛かってきた。

「ちょ、フィリ──ガフッ！」

ラグビー並のタックルをけ、ダメージを負うも、何とか耐える。

そして、抱き付いたフィリを剝がそうとするが、ビクともしない。

くそっ、人化した影響でステータスが下がっちまってんのか!?

「うおっ！」

バランスを崩した俺は、フィリに押し倒される形で背中から地面に倒れる。

必然的に、俺の上にはフィリが抱き付いた狀態で覆い被さっている。

「フィリ！　落ち著け！　取り合えず離れてくれ！」

「…ロウ」

俺の腰に回していた手を放して、起き上がるフィリ。

わかってくれたか…。

「……フィリ？」

だが、何故かフィリは俺にがった狀態でこうとしない。

あの、どいてくれねえと起き上がれねえぞ？

この構図はちょっとヤバいっつーか、傍から見たら誤解されるっつーか。

「ロウは、私…嫌い？」

「は？　そんなわけねえだろ、フィリの事は好きだ、だから─「良かった。じゃあ、いいよね？」って、え？」

そして、何故か両手を地面に抑えられて固定される。

「……フィリ？　これだと俺、けねえんだけど。え、聞いてる？」

俺の言葉を聞いているのかいないのか、フィリの様子がおかしい。

「私は、ロウからたくさんの”初めて”を貰った。とても謝してる。こんな気持ちになったのは、多分…ロウだけ。だから──」

「な、な……っ!!」

顔を俯けていたフィリの顔が目の前に來る。

その紫の瞳はで濁り、れる吐息は熱い。

フードからこぼれた金髪が俺の頬へ垂れ落ちる。

丸出しだったフィリが、大人の気を漂わせている。

ヤバい、ヤバい!!

突然過ぎて頭が混してる。

でも、このままだとマジでヤバい!!

取り返しがつかなくなる。

「私の初めても。──ロウにあげるね？」

そして、遂にフィリが目を閉じて顔を下げ始める。

──俺のに向かって。

ど、どうすればいいんだ！?

これから起こる事は、流石の俺でも分かる。

一方的にフィリにを奪われようとしている。

それだけは嫌だ！

フィリが嫌なんじゃねえ。

男として、の方から迫られる……。

なんてのは絶対に避けなきゃならねえ!!

だからと言って、フィリに完全に抑え込まれているために、俺には何も出來ない。

フィリを攻撃するなんて俺には出來ねえし…。

そうこうしているに、し頭を上げれば額がれあう距離までフィリの顔が近づく。

頭が真っ白になる。

ヤバい、ヤバいヤバいヤバい！！

誰か、誰かこの狀況を何とかしてくれぇえええええ!!!

──ボフン

「きゃっ！」

「…ん？」

唐突に、が自由になる。

なんだ？

を起こして、橫を見ると、フィリが離れたところで頭を抑えて蹲っている。

「…誰？」

目に涙を溜めて俺──正確には俺の背後を睨んでいる。

恐る恐る振り向くとそこには──

「おにーさんに迫ろうなんて、百年はやいよ！　エロフちゃん！！」

紫の髪に、白のワンピース。

宙に浮き、フィリを指指してポーズを決める。

俺を、狼へと転生さした張本人。

──邪神サハラがいた。

どうやら、絶絶命(？)のピンチは邪神の手によって事無きを得たようだ。

………解せぬ。