《銀狼転生記~助けたと異世界放浪~》044 ~俺、おもてなしをけます~~
『茶ですが…どうぞ』
「あ、ありがとうございます」
そう言って、赤髪のからけ取った深緑の飲料水─”茶”という言葉を信じるなら、『お茶』なのだろう─を飲む。
「味しい…」
自然と、吐息に混じって想がれた。
…ホントに味しい。
茶葉特有の、深みのある風味が鼻腔を抜けるように香るのもさるものながら、程良く溫められたそれは、お腹の底から心に安らぎをもたらしてくれる。
まさか、この世界でお茶が飲めるなんて、夢にも思わなかったな。
「ん…不思議な味…。ロウと居る時みたいに、ぽかぽかする」
俺の隣に座っているフィリも、同様にお茶を啜っている。
どうやら、お茶の深みにハマってしまったようだ。
お茶を飲むフィリの姿も中々に癒し効果があるな。
俺達がしばらく余韻に浸っていると、その様子を見ていたが笑みを浮かべる。
『お気に召されたようで何よりです。夫の出地・・・の飲みなのですが…なんと、この森に群生しているという植から作れるんですよ。 ”クゼン茶”と名付けました。夫も大好きなんです』
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へー。
茶葉はこの森に生えてんのか、時間があったら探してみるのも良いかもしれないな。
作れるかどうかは別にしてだが。
……ん?
今この人、お茶が”夫の出地の飲み”って言ったよな?
俺が記憶が確かなら、お茶の有名所は日本しか思い浮かばねえぞ?
こっちの世界にもお茶が存在する可能もあるが……これは…もしかするのか。
「あの──」
脳裏に浮かび上がった疑を確かめようと、聲を発したときだった。
「いやぁ、待たせたね」
の後ろにある扉が開いて、雙槍使いの男が現れた。
『あなた、遅かったじゃないですか。何をしていらしたのですか?』
が嗜めるように、男を叱る。
ソレを聞いた男は、さも”心外だ”というように顔をしかめる。
「君のせいじゃないか。頭、ヒビってたよ絶対。あれ直すのに時間が掛かっちゃったんだよ」
『ああでもしないと止まらないじゃないですか。いつもあなたはそう、普段おっとりしてるかと思えば、その実事に対してせっかちで、早とちりなんですから』
「うぅ。まあ、今回は僕も反省してるよ」
の説教をけて、苦笑いを浮かべながら俺の対面に座る男。
會話をする雰囲気をじ取り、俺はクゼン茶のったコップをテーブルに置く。
ソレに習ってフィリも、名殘惜しそうにコップをテーブルに置いた。
こちらの準備が整ったのを見て、男が口を開いた。
「さてと、ロウ君…だっけ? 改めて自己紹介をしようか。僕はセドリック、隣にいるのは妻のビビア。えっと、娘を助けてくれた恩人だったって事は聞いたんだったかな。そうとは知らず、ホントにゴメンね」
『本當にごめんなさいね? そして、ありがとう。ピアを救ってくれて』
そういって、セドリック夫妻は深々とお辭儀をした。
「こちらこそ、味しいお茶をありがとうございます」
俺も頭を下げる。
そう、何を隠そう目の前にいる二人の男こそが、俺達が助けたハーフ・ハーピーの──ピアの両親だった。
セドリックが人間で、彼の母親──ビビアさんがハーピーらしい。
あの時、空から降ってきて、セドリックを一撃KOした怪鳥はビビアさんだった。
今は、人間の姿をしていることから、多分俺と同じように【人化】のスキルを持ってるんだろう。
【鑑定】すればそれがわかるんだが、この二人には使えない。
セドリックに関しては、戦闘中に何度も見ようとしたが、結局見ることは出來なかった。
俺の鑑定レベルでも見れないなんて、どんだけ規格外なステータスなんだ?
いや、妨害系のスキルなのだろうか、それとも──ん?
ソファに座っているので、服の形狀的な問題で出した太に程良い重みとサラリとしたを、ふいにじる。
思わず、目線を下に向けると……。
「お、寢ちゃったのかい?」
「ああ、そうみたいだ」
『可い寢顔ですね』
フィリが俺の太に頭を預けて、夢の世界に旅立っていた。
俺の視線の先を見たセドリック達も、ソレに気づく。
まあ、今日はここまで散々森を歩き回ったしな。
幾ら森で暮らすエルフといえど、流石に今日のはこたえたか。
労うように、フィリのサラサラと指通りの良い髪をでる。
ホント、天使かよ。
これほど寢てる姿が似合うが他にいるだろうか。いや
いない。
俺はそう思う。
現実に、同であるビビアさんをメロメロにしてるしな。
「ベッドで寢かせてあげるかい?」
「いいのか?」
でも、流石にそれは…。
「いいよ。ピアも君のもう一人のお連れさんも寢てるし、一人増えたところで何ともないさ」
…サハラの奴。
見かけないと思ったら、寢てやがったのか。
あいつ、浮いてただけじゃん。
後で叩き起こすか。
「…じゃあ、頼めるか?」
「りょーかい。ビビア」
『はい』
ビビアさんが、フィリを抱えて部屋を出ていくのを目で追いながら、俺はセドリックへと問いかける。
「なあ、幾つか聞きたいことがあるんだが…いいか?」
「ん? モチロンだよ。何が聞きたいのかな」
テーブルに頬杖をついて、ニコニコと笑みを浮かべるセドリック。
「あんた、転移者なのか?」
俺の問いに、糸のように細い目を僅かに見開くセドリック。
……當たりか?
「「・・・」」
沈黙するセドリック。
俺は、彼が向ける視線に真っ向から視線を返す。
やがて、彼は口を開いた。
「……如何にも、僕は転移者だよ」
ビンゴ!!
サハラに聞くかぎり、異世界召喚が最期に行われたのは數百年前──つまり、セドリックはエルビスと同じ數百年前の転移者の一人という事になる。
容姿的には三十代前半にしか見えねえが、まあ數百年を生きてるんだ、エルビスと同様に既に人間を辭めててもおかしくないし、そうなるとあの強さも頷ける。
要するにこいつは、ただの人間じゃないって事だ。
「やっぱり、そうなんだな」
「うん。因みに出地はイギリスだよ。転移者の存在を知ってるって事は、君もそうなのかい?」
俺は、転移者でもあるが…転生者でもあるからな。
自分の出自とこの世界に來てからの事について軽くセドリックに説明する。
「へえ、アーノルド君と知り合いなのか。懐かしいなぁ。それに、転生の儀ね。だから君は転移者でありながら魔獣─いや、神獣なんだね」
アーノルドというのは、エルビスの本名だ。
確か、エルビスと言う名前は神獣としての名前だと奴は言っていた。
それより、セドリックの言葉にし引っかかりを覚えた。
聞いてみるか。
「…なあ、今更なんだが森で戦った時、何で俺が人間じゃないことがわかったんだ?」
自分で言うのもなんだが、俺の姿はどっからどう見ても、人間にしか見えない。
間違っても、あの男達のように化け呼ばわりされたり、セドリックにソッコーで見破られるような事はないと思うんだが。
「え…噓でしょ?」
俺の質問に先程よりも一層目を見開くセドリック。
え? 俺、変なこと言ったか?
「ロウ君…君、もしかして自分が周りにとても濃い魔力を放ってるのに気付いてないのかい?」
…ナンだって?
「魔力が…ナンだって?」
若干、混気味でこたえる。
セドリックは溜息を一つ。
「無意識であれだったのか。てっきり、わざとやってるのかと思ってたよ。その調子だと、人化の練度も低いんだろうね」
「おい、何の話だよ」
確かに低いよ。
悪いかよ。
なんだ? 人化は魔力と関係があんのか?
セドリックは、俺が説明を求めても返事をせず、それっきり考え込んでしまった。
無視か…この野郎。
「おい、セドリック──」
『ただいま戻りました。三人ともぐっすりでしたよ』
もう一度、呼びかけようと口を開いたとき、フィリをベッドへ運びに行ってくれていたビビアさんが部屋へ戻ってくる。
そして、ビビアさんを一瞥したセドリックは、もう一度俺に向き直り、真剣な面持ちで口を開いた。
「ロウ君、僕達は君にピアを助けて貰ったお禮をしないといけない。だから、僕からは正しい魔力の使い方、ビビアからは人化のの極意を教えるというのはどうかな?」
そのあまりにも味しい話に、俺の頭にあった疑問は一瞬で吹き飛び──
「お願いします!!」
──速攻で頭を下げた。
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