《銀狼転生記~助けたと異世界放浪~》閑話:~接近する狂キ~

一行がセドリック達のお世話になっている頃、夜の森では命を賭けた鬼ごっこが繰り広げられていた。

生い茂る木々や、異常に発達し地上にまでせり出した巨のせいで目通しの悪い森の中、ましてや暗闇に包まれた森を風のように走り駆けていく二つの人影があった。

◆◆◆◆

「はあ、はあ…クソッ…! ブッチ! 奴・ら・は追ってきてるか!?」

「あ、いえ、反応はないっす!」

「よ、よし…。…ッ、おい!! そこで止まれ、一先ず休憩すっぞ!」

「了解っす!」

俺達は同時に木のうろへとり込み、辺りに脅威が無いのを確かめてから、一息を付く。

「ぜぇ…ぜぇ…なんとか、逃げ…切ったか?」

「そう…みたいっすね。ああ、自分…もうけないっす」

しばらく、俺達は互いに息を整える事に専念する。

狹い空間に、聞こえるのは俺とブッチの二人分の息遣いだけ。

いつもは五人分の息遣いが聞こえるからか、無に落ち著かない。

「ワイドさん達、しっかり逃げ切れたっすかね?」

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そう思ったのは俺だけでは無かったらしい、対面に座るブッチが木壁に背を預けて、寂しく問いかけてくる。

「さあな…だが、無事に逃げ切ってくれるのを祈るばかりだ」

リーダーである俺と、ブッチ、ワイドとケビン、ジョセフの五名で編された〖アルデンス王國〗の調査隊は現在分裂狀態にあった。

その理由は簡単。

あの化・け・・に出會った後、俺達は全速力で森の奧へ逃げ込んだのだが、予想以上に奧へってしまい、広大な森の中で迷ってしまう。

そして、歩き疲れて疲労困憊になっていた所を狙い澄ましたかのように、奴・ら・に襲撃されたのだ。

戦力的、神的にも戦闘は避けた方が良いと即座に判斷した俺は、隊を二つにわけ、どちらかが囮になりその間にもう一方が王國へと化け報を持ち帰ることを優先させた。

そして、囮役は俺とブッチ。

本當ならリーダーである俺が王國へと生還するべき何だろうが、逃げるという一點においては俺の他に適任がいた。

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更に言えば、ワイドやブッチはその能力の特異さから、王國の諜報機関から引き抜きの話が來ている。

そんな未來ある若造を、こんな所でむざむざと死なせるわけにはいかない。

ケビンには…癪だがあいつの帰りを待つ妻子がいる。

ということで、この世に未練のねえ俺こと、〖電魔〗のロータ一人で囮役をするつもりだったがそこに待ったの聲がかかった。

隊の中で一際俺を慕ってくれていたブッチが、死を覚悟で俺に付いて行くと言いだしたのだ。

俺は最後までその意見を卻下し続けたが、こいつは聞かなかった。

まあ、結果、こいつの周囲の狀況を知る知系のスキルのおかげで夜の森を魔達に一度も出會うことなく、逃げ延びることが出來た。

何とか首の皮は繋がったってことだ。

「ブッチ……」

「…? なんすか?」

照れくさいが、こういうときに言っておかないと、後で言いにくいからな。

「…ありがとな」

頭を下げつつ、謝の言葉を口にする。

「・・・」

沈黙──ブッチの奴、極まって返事が出來ねえみたいだ。

おいおい、なんか反応しろよ。

こっちだって柄でもないことをしてる自覚はあるんだ。

「おい、ブッチ。こっちは恥ずかしいんだ。いい加減──」

「リー、ダー…。逃…げ……」

頭を上げた俺は見た、ブッチのに黒い短刀が生えているのを。

「おい!! ブッチ! ……っ!!」

力無く倒れ込むブッチを見て俺は悟った。

次は俺・の・番・だと。

自分でも驚くぐらいの反速度でから飛び出し…両手に電撃を纏う。

「來るなら、來やがれ!! やってやら──」

纏わせた電撃を周囲へ放電しようとする。

一瞬だった。

”ドン”と鈍い衝撃をじ、視線をそこに向ける。

目に映ったのは、自分のから獣の腕が生えている景。

同時にの奧からがせり上がってくるのをじる。

折角纏った雷撃も、弱々しく四散した。

激痛に耐えながら、ギシギシと音がするくらいぎこちないきで後ろを向く。

「ゴフッ…。く…そ…やろう…が……」

俺のを貫いた・・を目に、俺の意識は途切れた。

◆◆◆◆

「ふぃー、終わった終わった。…ペロ……ッ! まっじ!」

男が絶命したのを確認したは、に足をかけて手を引き抜く。

引き抜いた手は人間のモノではなく、獣のような造形をしており、鋭い爪からしたたる鮮を舐めとるが、口には合わなかったようだ。

「あんた、男のを啜るのはどうかと思うわ」

闇から這い出るように、突如として姿を現した黒裝束のが、黒塗りの短刀を懐にしまいながら腕を舐めまわすを注意する。

「しゃーねーだろ? 癖なんだからよ」

「癖なら直すように努力を──」

「お疲れ様です。セリシャ、オリオ」

黒裝束の──セリシャは聲の聞こえた方へと聲を荒げる。

「狂姫!! 任務中は本名を呼ぶなってあれほど─「おう、マコト、お疲れ~」─牙姫!! あなたも──」

”牙姫”と呼ばれた──オリオは、セリシャの説教を話半分で聞き流し、”狂姫”と呼ばれた黒髪のへと聲をかける。

「で、マコト~。そっちはどうだった?」

そ・っ・ち・というのは、つまりそういう事だ。

簡単な話、王國の調査隊が彼達から逃げるために二手に分かれたのに対して、彼たち帝國の調査隊も二手に分かれて追跡を行ったに過ぎない。

「えっと…深手は負わせたのですが、特殊なスキルを使ったのか、呆気なく逃げられてしまいまして…すみません」

今回、彼達に與えられた任務は二つ。

一つ目は、既に終了した〈南の森〉の調査。

二つ目は、彼達同様に調査にきた他國の人間を抹殺する事だ。

王國を除いたその他の國の調査隊は既に彼達の手にかかり、言わぬと化した。

順當に行けば、王國調査隊もその仲間りを果たすはずが、三人の生存者が出てしまったようだ。

だが、帝國が誇る最兇最悪の部隊である彼達がその程度で諦めるハズもない。

「気にすんなって! 要は、あたいの獲が増えたって事だろ? が騒ぐぜぇい」

オリオの雙眸がギラリとる。

その瞳は、獲を見つけた食獣のように爛々としていた。

「こら! 話を聞きなさい!」とオリオへ迫していたセリシャも、諦めたように肩を落とし言葉を発する。

「仕方ないわね……。ほら、さっさと追うわよ。手負いのではそう遠くまでは逃げられないはず──って、狂姫?」

「──ああ、すみません。先に行ってて下さい」

「……早く來なさいよ?」

そう言って、セリシャはオリオと共に來た道を戻っていく。

あっという間にその姿は夜の森に溶け込み、見えなくなった。

気配が遠ざかっていくのを、じた黒髪のは靜かに歩みを進める。

そして、の空いた男のの傍で歩みを止め、呟いた。

「やっぱり、王國の人達からは微かですがお・兄・さ・ま・の匂いがします…やはりお兄さまは王國に…」

唐突に言葉を止め、わなわなとを震わせる

次の瞬間、彼を中心に禍禍しい瘴気が吹き荒れた。

凄まじい勢いで放たれたソレは、彼の周囲にあったものを全て蝕み、腐食し、消し去った。

後に殘ったのは、綺麗な死んだ大地に座り込む黒髪の

はゆっくりとその目蓋を開ける。

「ああ…!!! かわいそうなお兄さま!! …待っていて下さい、もうすぐ…もうすぐ…! あなたの妹がお迎えに上がります!そして、今度こそ私がお兄さまを…籠の中の鳥を狹い世界からとき放って差し上げます!! ……それまでどうか、待っていて下さいね?」

に煌めく雙眸──その瞳には、異常なまでのの火が燈っていた。

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