《ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく》43話「前世の過ちを繰り返すな。戦え、抗え、そして勝ち取れ! 前編」
「なんとか逃げ切れたな……だが」
オークの群れから逃亡することができたはいいが、俺の中である言葉が響いていた。
“本當にそれでいいのか?”という言葉だ。
俺の前世は大企業の使いっ走りの取締役だったことは前にも話したが、その時いろいろと我慢していたことが沢山あった。
それこそ対人関係だったり會社での待遇だったりと様々だが、とにかくあまり気持のいい人生とは言えなかった。
だからこそ、次生まれ変わった時にはそういった我慢をせず好きに生きようと考えていたのだが、まさか前世の記憶を持った狀態で生まれ変わるとは思っていなかったため、前世の考えが尾を引いてしまっていたらしい。
貴族の後継ぎ問題の件にしろ、ラレスタでの行にしろ、もうし大っぴらにいても問題なかったのではないかと、今になってはそう思う。
今この狀況がWeb小説で描かれている一幕だとしたら、間違いなく読者にこう指摘されていることだろう“主人公が何をしたいのかわからない。前世での失敗が活かされていない”と……。
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――もう言われてるよ――
「っ!? な、何か聞こえたか?」
頭の中でいろんなことを考えていると、どこからかともなく誰かが話掛けてきた気がしたが、今俺のいる場所がモンスターが徘徊する森の中だということを再認識し、その聲が幻聴だったと結論付けた。
「ふむ、とりあえずあいつらと一戦えるにしても、今の俺じゃあ真っ向勝負で勝てない」
逃げずに戦うとしても、真正面から勝負を挑んでも勝つことはできない。とりあえず、自分の能力を改めて確認するため、ステータスを表示させた。
【名前】:ロラン
【年齢】:十二歳
【別】:男
【種族】:人間
【職業】:元領主の息子・冒険者(Dランク)
力:2200
魔力:2500
筋力:B+
耐久力:B+
素早さ:A
用さ:B
神力:A-
抵抗力:A-
幸運:A
【スキル】:鑑定Lv6、強化Lv6、気配察知Lv5、気配遮斷Lv4、魔力制Lv6、魔力作Lv6、火魔法Lv5、水魔法Lv5、風魔法Lv5、土魔法Lv5、剣Lv5、格闘Lv6
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全的な能力としては通常のオークよりは高いが、オークジェネラル相手となると弾戦になったときに確実に力負けしてしまう。
相手の懐に飛び込まず魔法で戦えれば勝機はあるかもしれないが、それでもあの數を相手にするのははっきり言って無謀な賭けだと言わざるを得ない。
現狀としては、オークの二、三匹ならばなんとか相手することはできるが、それ以上のオークの群れだったりオークジェネラルを相手にすることはできない。
しかし、は考えようである。直接的な弾戦、あるいは間接的な魔法戦を仕掛ける以前にもっとシンプルな方法があると……。その方法とは――。
「そうだ。罠に掛けよう」
そう、罠を使った方法だ。相手がいくらこちらよりも強いとはいえ所詮モンスターなのだ。知能の高いオークジェネラルですらそこに分類されている以上、罠が効果的なのである。
よく戦爭映畫や時代劇などで“敵を騙すにはまず味方から”という言葉を聞いたことがあるだろう。同じ人間同士ですら罠に掛かってしまうのだから、人間よりも劣る存在のモンスターはそれ以上だと言えるだろう。
奴らを罠に掛ける。そのためにはどういった罠が有効なのか確かめる必要があるだろう。
逃げる前に調べた奴らの能力の中に強化のスキルが存在している以上、ワイルドダッシュボアと同じく口を塞いだ窒息は通用しない。
かといってから肺を直接塞ぐことによる窒息もあまり有効でない可能がある以上、それを切り札とするのは得策ではない。手段の一つとして考えておくのが妥當だろう。
では次に毒や麻痺などといった搦め手による罠はどうだろか? 見たところ奴らに毒に対する耐を持つ者はいない。しかし、これも絶対ではない以上切り札にはできない。
「どちらにしても、一度オークを一匹とっ捕まえて実験する必要がありそうだ」
なぜ俺がそんな臺詞を口に出したのかといえば、気配察知に反応があったからだ。
オークの群れから逃亡に功しているとはいえ現狀100%安全なのかと問われれば……否である。
いくらモンスターとはいえ、あれだけのことをして追いかけてこないというのは無理な話で、オークジェネラルの指示で逃げた俺を探しているはずだ。
そして、纏まって探すというのは効率が悪いということも理解しているはずだからある程度手分けして捜索していることも容易に想像できる。
現在、単獨でくオークの気配を気配察知により捉えている。どうやら、俺を探し出すべくオークの群れを散開させたようだ。……しめしめ、好都合だ。
「フゴフゴ」
目の前には、鼻を引くつかせながら俺を探す一匹のオークの姿があった。だが、嗅覚に優れたその鼻をもってしても俺を見つけ出せないでいるらしい。
それもそのはず、奴らの嗅覚というセンサーに引っ掛からないよう、風魔法をの周囲に纏わせて臭いをシャットアウトしているからだ。
オークがキョロキョロと視線を巡らせ、俺の姿を視線に捉えた時にはすでに奴との距離は數メートルしかなかった。
「ブヒィー! ブヒィー! ブヒィー!」
「ふん、うるさい豚だな。だが、これから始める実験をするには好都合だ」
「ブヒ?」
「……というわけで、喜べ。俺の実験のためにその無駄にでかいが役に立つのだ……」
「ブ、ブヒィ!? ブヒィ、ブヒィ!!」
「我が実験のモルモットとなれ……」
「ブヒィィイイイイ」
その後そのオークの姿を見たものは誰もおらず、尊い命が失われた。……なんてな。
それから、どのような実験が行われたのかという的な容はここでは言及しないが、一つだけ言えることはこのオークは十分に役に立ったとだけ伝えておく。
「よし、これでなんとか勝ち筋は見えたかもしれん。ダメだったら全力で逃げて冒険者ギルドに丸投げしてしまおう。うん、そうしよう」
俺は全知全能の神でもなければ無欠無敵の存在でもない。れっきとした人間なのだ。できないことはできないし、できることはできる存在なのだ。
もし、自分にできないことがあるのなら、それができる相手に任せてしまえばいい。下手に手を出して失敗しては意味がないのだから。
はぐれたオークを使いあらゆる実験を試みた結果、いくつかのことがわかったのでそれを元にオークの駆除を始めることにする。
ここで重要なのが、討伐ではなく“駆除”だということだ。言い換えるのなら戦うのではなく、退治するということだ。
「ここが奴らのアジトだな」
しばらくを潛め、オークたちが諦めるのを待つこと數時間、ようやくその時がやってきた。
捜索を斷念したオークたちは、オークジェネラルの元へと戻っていた。
オークたちがアジトにしている場所は、川が近くにあり生活基盤が安定している所だった。近くにがあってそこで雨風を凌いでいるらしい。
そこでし気になったのが、一見するとそこがオークたちの本拠地のような気がするのだが、生活の痕跡が真新しく最近住み始めたようだということだ。
さらには三十匹という群れの數にも違和を覚えた。オークジェネラルのランクはBランクに屬しており、かなり強力なモンスターに分類されている。
しかしながら、オークジェネラルが脅威とみなされているのは、モンスター自の強さよりも他のオークたちを指揮する統率力にある。
數十から數百匹というオークを淀みなく統率する様子は、まさにオークの將軍という名に相応しい。だからこそその統率という部分に違和をじてしまう。
通常オークジェネラルが統率するオークの數は、最低でも五十は下らない。だからこそ、今回の三十という中途半端な群れの數に違和を覚えたのだろう。
そして、そのないオークの數が意味している所は……即ちこの群れが本隊ではなく偵察や斥候の役割を持つ先遣部隊だとしたら辻褄が合うのだ。
とどのつまり、この群れを率いているオークジェネラルを従える存在……オークキングの出現を示唆しているということだ。
(悪い予っていうのは、どうしてこうも良く當たってしまうのか……まったく、マーフィーの法則甚だしいわ)
“落としたトーストがバターを塗った面を下にして著地する確率は、カーペットの値段に比例する”という文言で有名なマーフィーの法則というものがある。
他に例を挙げるのなら、テレビゲームをやっていたときにしいアイテムに限ってなかなか手できないといったセンサーと呼ばれているものだ。ユーモアにあふれた秀逸な法則……それがマーフィーの法則である。
(オークキングはこの際隅に置いておくとして、今は目の前のオークどもに集中しよう)
好きに生きるという本來の目的を思い出した俺の初めての挑戦が、今まさに始まろうとしていた。
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