《ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく》44話「前世の過ちを繰り返すな。戦え、抗え、そして勝ち取れ! 後編」
「さて、駆除作業の時間だ……」
オークたちが全員アジトに帰還した頃合いを見計らい、こちらも作戦を実行に移すことにする。
まあ、全員といっても俺のマッド気味な実験に付き合ってくれたオーク君はすでに魔法鞄に収納済みなんだが……。
オークたちが拠點としている場所は、切り立った崖の麓部分にあるを起點としており、前方には川が流れていてそれを挾む形で森が広がっている。
東西南北で表現するなら、があるのが北側でその反対方向の南に川があり、東西に森が広がっているといったところだろう。
奴らが切り開いたのだろうか、アジト周辺に木々はなく作業を行う広場として使っているようだ。
そして、広場の中心にはオークでも切り倒せないほどの巨大な一本の木が悠然とそびえ立っており、まさに大自然の偉大さを改めて実させてくれる。
(あの木は使えそうだな……よし)
気配遮斷と風魔法によるオーク対策を行い、周囲にいるオークたちの目を盜んで木を登っていく。
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オークたちの攻撃が屆かないであろう場所まで到達すると、気配遮斷と風魔法を解除し姿を現す。
「フゴフゴ……ブヒッ!? ブヒィー! ブヒィー!!」
當然そんなことをすればオークたちに見つかってしまうが、今回はそれで正解なのだ。俺の真の狙いはオークに俺を発見させることにあるのだから……。
スキルを解除したことですぐさまオークたちが騒ぎ始める。それはまるで牧場にある養豚場を思わせる。
騒ぎを聞きつけてきたにいたであろうオークたちも木の周りに集まり始める。……いいぞ、計畫通りだ。
「ブヒィィィイイイイイイイ」
「いよいよ、本命のお出ましだな」
それだけの騒ぎが起きれば、とうぜん群れのリーダーであるオークジェネラルが黙っているはずもなく、とうとうから姿を現した。
近くで見るとその格のデカさもさることながら、他のオークとは明らかに異なる威圧のようなものを纏っている。
オークジェネラルが現れると、すぐさま他のオークたちに命令を下し俺を捕らえようとするが、立ちはだかるように巨大な木がそれを阻止する。
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オークたちは標的である俺を木から落とそうと木を毆り始めるが、剛腕を持つオークの力をもってしてもビクともしない。
石を投げるにしても、木の枝と俺が張った風の防魔法が邪魔をして俺まで屆かず攻めあぐねていた。
オークたちの苛立つ姿を見ているのは気分がいいかもしれないが、このまま何もせずにいるわけにもいかない。
(そろそろ、かな)
オークたちの苛立ちもピークに達し、オークジェネラルですら木の周りに寄って來ていた。
頃合いだと判斷した俺は、オークたちのいる範囲を中心に一つの魔法を唱える。
「【アースコントロール】」
元々は畑などを耕すときに使用する魔法らしいが、それを応用しオークたちのいる場所を砂地へと変える。
そして、砂地に変化した場所目掛けさらにもう一つ魔法を使った。
「【スネイクウェーブ】! 【スネイクウェーブ】! 【スネイクウェーブ】!」
蛇を模った水の魔法を連続で砂地に放つ。ここで質問だが、砂に水を加えると何ができるかお分かりだろうか?
……そう、答えは【泥】である。水魔法のスネイクウェーブが砂と混ざり合って泥となり、突如としてオークたちの足下に泥沼が出現した。
ただのぬかるみではなく底が深い泥の沼であるため、オークたちの巨はみるみるうちに沼に沈んでいく。
いきなりの出來事にほとんどのオークたちが対処しきれず、下半が沼へと沈みきが取れなくなっていた。
「よし、第一段階完了ってとこだな」
このまま待てば全が沈んでいき、最終的に窒息死してしまうだろう。え? また窒息かって? そうですが、何か?
しかし、この泥沼は魔法で作られているため、もしかするとオークたちの持っている強化のスキルで対処されてしまう可能がある。故に、俺は次の手に打って出た。
「いくぞ、これで止めだ!」
そうオークたちに宣言すると、俺は両手に魔力を込め始める。とある魔法を使うためだ。
以前にも言ったが、この世界には魔法が存在しそれぞれ異なる屬を持っている。
的には火・水・風・土の四元素を基本とし、上位の屬として炎・氷・雷・大地・・闇が存在する。
これ以外にも複數の屬を極めることで習得できる複合屬なども存在し、すべてを極めるのは困難とされている。
そして、俺の今までの行から実踐的に水の魔法を使い続けてきたことは見ればお分かりいただけるだろう。となってくれば、だ。そろそろ上位屬を覚えても不思議だとは思わないか?
上位屬で有名なものは四元素の流れを組む炎・氷・雷・大地だ。というのも、これらは基本となる火・水・風・土の屬魔法を一定まで鍛えれば覚えられる可能があるからだ。
そして、絶えず水魔法を使い続けた俺の水魔法はレベル6となり、氷魔法を覚えるに至ったのだ。
もちろん水魔法だけでなく、日々の日課で他の屬もバランスよく鍛えてきたため、他の基本屬からの上位屬派生も今後期待できるだろう。
とにかく、目の前には泥沼できの取れないオークたちがいる。そして、氷魔法を覚えた俺がいる。この狀況でできることといえば一つだ。
「くらぇええええ! これが俺の【シャキードアイシクル】だぁああああああ!!!」
手に集中させた魔力から氷が出現し、きの取れないオークたちを襲った。
オークたちは斷末魔のびを上げる間もなく瞬く間に氷漬けとなり、一瞬にして言わぬ氷の彫刻へと変貌する。
まるでホースから放たれる水のように手から出現する氷を、左から右へと薙ぎ払いすべてのオークを攻撃する。
辺り一帯が白銀世界へと変化し、周囲の溫度も急激に低下する。
「はあ、はあ、終わったな」
先ほどまで聞こえていたオークたちの“ブヒブヒ”という喧騒も聞こえなくなり、靜寂が広がっている。
とりあえず、結果としては実験した通りになり、上手くいったのは間違いない。
これだけ上手くいったのは、予想としてオークたちのステータスが関係しているのではないかと考えている。
以前調べたオーク並びにオークジェネラルのステータスは、理に特化しており用さや神力といった能力はあまり高くなかった。
その中でも特に低かったのが抵抗力でオークがD+オークジェネラルでもC+といったところだ。
抵抗力は魔法や狀態異常に対する防力に関係しており、この値が低いほどより効果的なダメージや毒などの狀態異常を與えることが可能となる。
今回その抵抗力の低さが要因となり、上位屬とはいえ覚えて間もない氷魔法にもかかわらず、これだけ絶大な効果を発揮することができたのであった。
「よっと、さすがに生きてはいないな」
木から降り、言わぬ氷の彫刻と化したオークたちを見ながらそうぽつりと呟く。
ほとんどのオークたちがかなくなっている中、一匹のモンスターが未だに生きていることに気付いた。
「ブ、ブヒィ……」
「さすがはジェネラル。これだけの攻撃でもまだ生きているとは……」
部下たちを殺され自も氷漬けになってもなお、その生命活を維持し続けるオークジェネラルに素直に嘆する。
一方のオークジェネラルは、自分たちをこんな目に遭わせた張本人を目にして弱々しいながらも怨嗟の籠ったき聲を上げていた。
敵にけを掛けるなという言葉を思い出し、これ以上相手をいたぶる気はないので、早々に止めを刺すことにする。
「悪いが、俺に出會ったのが運の盡きだったな。じゃあ、さらばだ」
「ブッ」
殘りの魔力から捻り出した風魔法でオークジェネラルの首を刎ねる。さすがのオークジェネラルでも、頭とを切り離されては生命維持活を続けることはできず、二度とき出すことはなかった。
「はぁー、疲れた……でも、何とか勝てた」
すべてのオークの駆除に功したところで、今まで張りつめていた張の糸が切れたかのようにその場にへたり込む。
魔力の殘りがあまりないこともあって、しばらくその場で休憩しながら今後のことについて考え始める。
「これからが大変だな。これをギルドに報告したら、絶対騒ぎになるだろうなー」
前回戦ったワイルドダッシュボアは、一匹で行していたところを狩った形になるので騒ぎになりはしたが一匹だけということもあり大騒ぎというレベルではなかった。
しかし、今回の場合はオークの群れをたった一人で倒した形になるため、騒ぎのレベルは前回の比ではないだろう。
そもそもオークはCランクのモンスターに分類されており、個々の能力も高い。そして、オークは群れることが多くその脅威はCランクよりもさらに上のBランクとして扱われることは珍しくない。
それに加えて、今回群れを率いていたのがBランクのオークジェネラルとあっては、その脅威度はおそらくAランクの依頼と同等レベルにまで跳ね上がるだろう。
そうなれば、ますます面倒事に巻き込まれる可能が高くなるが、これは俺がんだ結果だ。納得はしてるし悔いもない。
――これがおみだったんだろ? えぇ? 読者さんよぉ~?――
「っ!? だ、誰だ!?」
どこからともなく聲が聞こえた気がしたが、周囲を見渡してみてもその姿は見つからない。
しばらく警戒していたが、それ以上聲が聞こえてくることもなく、ただの気のせいだったということにした。
時刻はすでに夕方から夜になろうとしている時間であり、もうしばらくすればここも闇に閉ざされてしまう。
ある程度魔力が回復したので街に戻ることにしたのだが、その前にやっておかなければならないことがあった。
「魔法鞄の容量がもうないからこのオークたちはらんな。よし……【ストーンドーム】」
とりあえず応急処置として、街に戻っている間に誰かに橫取りされないよう氷漬けになったオークごとドーム狀の石で囲んでいく。
オークたちの攻撃から守ってくれた大木も巻き込む形になってしまうが、そこは許していただきたい。
オークたちの処理も終わり、あとは街に戻ってギルドに報告するだけとなったので、他にやり殘したことがないか確認したあとその場から離れた。
生まれ変わって初めて自分の好きなように行してみた俺だったが、それが元でさらなる騒へと巻き込まれるのをこの時の俺は知る由もなかったのであった。
妹と兄、ぷらすあるふぁ
目の前には白と黒のしましま。空の方に頭をあげると赤い背景に“立ち止まっている”人が描かれた機械があります。 あたしは今お兄ちゃんと信號待ちです。 「ねぇ、あーにぃ」 ふと気になることがあってお兄ちゃんに尋ねます。お兄ちゃんは少し面倒臭そうに眠たそうな顔を此方に向け 「ん? どうした妹よ」 と、あたしに話しかけます。 「どうして車がきてないのに、赤信號だと止まらないといけないの?」 先ほどから車が通らないしましまを見ながらあたしは頭を捻ります。 「世間體の為だな」 お兄ちゃんは迷わずそう答えました。 「じゃああーにぃ、誰もみていなかったらわたっていいの?」 あたしはもう一度お兄ちゃんに問いかけます。お兄ちゃんは右手を顎の下にもって行って考えます。 「何故赤信號で止まらないといけないのか、ただ誰かのつくったルールに縛られているだけじゃないか、しっかり考えた上で渡っていいと思えばわたればいい」 ……お兄ちゃんは偶に難しい事を言います。そうしている間に信號が青に変わりました。歩き出そうとするお兄ちゃんを引き止めて尋ねます。 「青信號で止まったりはしないの?」 「しないな」 お兄ちゃんは直ぐに答えてくれました。 「どうして?」 「偉い人が青信號の時は渡っていいって言ってたからな」 「そっかー」 いつの間にか信號は赤に戻っていました。 こんな感じのショートストーリー集。 冬童話2013に出していたものをそのまま流用してます。 2016年3月14日 完結 自身Facebookにも投稿します。が、恐らく向こうは二年遅れとかになります。 ストリエさんでも投稿してみます。
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