《「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。》第一章 第二十五話 ヒント

「なんでここに來たんだ?」

そんな俺の問いに、二人は顔を見合わせてから真剣な面持ちになった。

「ヴォルムに聞いたの、狼のこと」

「……スマルの、ことも」

どうやら、俺のトラウマについての話のようだ。

「転生者として異世界からこの世界に來て、神が不安定なに狼に殺されかけたって、ヴォルムは言ってた……」

「……今も、神様に狙われてる……?」

ヴォルムは俺のトラウマと、それに至った経緯、それと神の力の話をしたのだろう。

狼の話はその通りだし、神についてもヴォルムの敵であることからし誇張されているとは思うが、間違っているわけではない。

「ああ、そうだな。俺は転生者で、このは本來俺のものじゃない。俺もトラウマのことを知ったのは今日だが、狼に殺されかけたのも、神と接したのも事実だ」

もう十四年も前のことだけど。

そう心の中で付け足すが、それだけ時間が経っても未だに大きな影響があるということは、それだけ重傷だということだ。

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今更ながら、どう治して良いのか見當もつかない。

「本當に、そんなことがあったのね……」

「……スマル、大変そう」

そう言って二人は心配してくれているが、実質今まで害はなかったし、力の代償の件だって保留のままだが特に失ったものはない。

俺としてはそんなに心配するほどのことだとは思っていないのだが、そういうわけにはいかないのだろう。

なんというか、照れくさいな。

「まぁ、今のところ困ったことと言えば今日の試験くらいだ。トラウマなんてさっさと取っ払ってクリアしちまおうぜ」

それはできるはずのないことであったが、照れ隠しで俺が明日から再開する試験に話を移行すると、二人はそれに頷き、

「そのことなんだけど、ヴォルムからトラウマの治療法? みたいなのを聞いてきたのよね」

「……治療法と言うより、ヒント……?」

この試験の必勝法に等しい報を提示してきたのだった。

「本當か!? これが治せればこの試験、クリアしたも同然だ」

別に俺がトラウマを克服しなくても、モミジとイチョウ、一人ずつでもこの試験のお題はクリアできるだろう。

俺も萬全の狀態なら一人でクリアできる。

だが、この試験は狼をどうするかが肝心なのではない。

俺をどうするがが肝心なのだ。

お題がお題なため、俺は何もせず二人に任せても問題はないが、そうすると、俺はこの先狼に対して他人の力を借りないと対応できなくなってしまう。

それはきっと狼以外のことにも影響して、俺という人間の質を決めてしまうだろう。

だから、俺は自分の力でこれを解決しなければならない。

選択肢を絞らないためにこのお題にしたヴォルムも、俺が他人に寄生するようになることはんでいないだろう。

「でも、ヒントだから……あんまり期待しないでよ?」

「……自分で、考えるべし。私も手伝う」

だから、ヒント。

答えでなく、ヒント。

最終的な答えは自分で出せということなのだろうが、俺は端はなからそのつもりだからむしろ好都合だ。

「ヒントで充分。一緒に考えようぜ」

そう言って俺は二人にベッドに座るよう促した。

それに応じて二人は俺を挾むように座り、心なしか楽しそうにヒントを教えてくれた。

「今までやってきたことが解決に導く」

「……自分の力を信じて、見つめ直せ」

===============

翌日、俺たちはヒントから得た答えを実行するべく、森にっていた。

まだ奧までっていないため狼が出てきそうな気配はないが、それでも妙ながあった。

俺たちがヒントから導き出した答えは「狼の攻撃をけきる」こと。

昨日のようになる可能もあるにはあるのだが、きっとこの作戦が正解に近いはずだ。

ヒントにある「今までやってきたこと」「自分の力」は、俺が磨いてきた防スキルで間違いないだろう。

つまり、それがトラウマ克服の糸口になるということだ。

そう考えたときに、トラウマというものが何のためにあるのかが重要になってくるのだが、これは、過去にあった恐怖験を基にそれと似た狀況になったときに同じようなことにならないために働く、いわば危機知センサーみたいなものだ。

そう、過剰に反応してしまっているだけで、トラウマも防スキルの一つなのだ。

そうなると話は早いもので、同じ狀況でも今の自分なら危険ではないことを証明して、トラウマにもう要らないと言ってやれば克服完了だ。

だが、やはり狼と対峙したら俺はまともに立っていることすらできなくなってしまうだろう。

そうなってしまってからは何もすることができない。

だから今回はそれを見越して、自分のに防結界を事前に張っておくことにした。

それも一度発すれば最初に込めた魔力が切れるまで制なしで維持できる優れものだ。

これで俺は結界の中から見ているだけで己の防力の高さを実できるというわけだ。

モミジとユキ、二人には悪いが、俺にもしものことがあったときに備えて木の上に待機してもらうことになっている。

二人はそんなことにはならないからとし不機嫌そうだったが、それでも承諾してくれた。

ありがたいことだ。

良い仲間を持ったな、とそんなことを考えていると、こちらのにおいを嗅ぎつけたのか、狼の群れがこちらに向かってくるのが知できた。

「それじゃあ、そろそろ狼が來るみたいだから準備しようか」

狼がここに到達するまでにはまだ一分ほどかかりそうだが、早めに準備を整えておくに越したことはない。

というか既に遅いくらいだ。

だから俺は結界を張り、モミジとユキは木に登って待機した。

「何かあったら言うのよ。すぐに擔いで森から出て行ってあげるんだから」

「……大丈夫になったら、特に。すぐ殲滅する。準備萬端」

みんな意気込みは前回以上。

特に俺は大事な用事があってここにいる。

やるべきことは簡単。

狼が見えたら試合開始だ。

俺は目を瞑り敵の知に集中する。

別に集中などしなくても狼の群れくらいなら知するのに苦労しないのだが、こうすることでより度が上がり、正確な位置や距離が分かるようになるのだ。

研ぎ澄まされた俺のセンサーは、狼の群れ一匹一匹を捕捉し、その足のきまでもが把握できる。

徐々に距離を詰めてくる狼たちは、もう可視範囲っていた。

グルルル……。

狼の唸り聲が聞こえたと同時に目を開けると、そこには知できたいた通りの配置で狼が俺を囲っているのが見えた。

やはり見えることが俺のトラウマのトリガーになっているようで、目を開いた瞬間にかなくなった。

だが、今回は結界があるためいくらか安心できる。

引き攣ってはいるが、笑顔も作れそうだ。

そんな表のまま近くにいた狼の顔を睨みつけると、丁度目が合った。

そして、それが始まりの合図となる。

――さぁ、一方的な戦闘を始めようか。

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