《異世界に転生したので楽しく過ごすようです》第55話 それぞれの戦いのようです
ーside:ミルー
皆と分かれたあたしはさっきの火の球を撃ってきた魔法使いと対峙した。
「あなたね。私の火球を相撃ちにしたのは」
「ん。ほんとはついでに攻撃するつもりだった」
あたしはあの時、お返しに攻撃までするつもりだった。なのに全て火の球の迎撃に使わないといけなかった。
相手は、あたしと同じくらいか、それ以上に魔法に長けたものだということが分かった。
「今度はあたしが勝つ」
「貴1人で出來ると思っているんですか?私にはまだ助っ人がいるんですよ?」
「あたしにも助っ人いる」
「じゃあ助っ人にも出てきてもらいましょうか。……ヴァナルガンド、タイプフェンリル!」
ミユキがそう唱えると同時に、ミユキの手に収められていた杖がひとりでにき、人の背丈程ある1つのの姿形をとった。
それは魔狼フェンリルと呼ばれる地球上の神話に出てくるもので、ミルは知らない。
しかしミルはそのフェンリルから発せられる気迫で、どれだけ強いのかが分かった。
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「ワオォォン!」
「どう?私の助っ人、ポチよ。可いでしょ?」
「あたしの助っ人の方が可い。出てきてシロ」
「ニャ!」
シロは私の呼びかけに答え、前に出てくる。シロとフェンリルの格差は歴然でシロは軽く捻り潰されそうだ。
しかしシロはそんな事をもろともせず、何十倍、何百倍の格差があるフェンリルに向かう。
「何ですかそのちっちゃいの。もしかしてそれが貴方の助っ人ですか?」
「ん。シロは負けない」
「ニャ!」
「ふーん。じゃさっさとやりましょうか?」
ミユキは火炎魔法を使い、連続して火の球を放ってくる。そして、呼び出されたフェンリルはシロと戦い始めた。
あたしはミユキのところに、飛んでくる火の球を避けたり、目の前の火の球は水の球で迎撃をしたりしながら近付いていく。
そして、ミユキの近くまで行くと今度は逆に私が攻撃を仕掛ける。深淵魔法によって相手の視界を奪い、氷魔法で氷を下から突き上げる様に出して攻撃をする。
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あたしが、勝ったと思った時、ミユキが何かを言った。
「私は自分の"を守る為に"戦う。決して負けたりしない」
そんな呟きを聞いた瞬間、えも知れぬ恐怖が襲ってきた。あたしはその場からすぐに離れる。
するとミユキの下から出したはずの氷魔法が、さっきまであたしがいた所に出てきていた。
「……それなに?魔法じゃない」
「そんなこと律義に答えるはずありませんよ。…それより貴の助っ人、このままだと死にますよ?」
シロの方はずっと一方的にやられてしまっていた。何度も噛み付いたり引っかいたりしようとするが全て躱されて反撃を食らっていた。
「シロ……!」
「ニャ……」
シロは悔しそうにしている。しかし諦めてはいなかった。幾度となく反撃を食らって極限狀態になっているはずのシロは、それでも攻撃の手を緩めようとしなかった。
「シロはまだ諦めてない……。だから大丈夫。あたしもシロもまだ戦える」
「そうですか……。でしたらもう終わりにしましょう」
ミユキはそう言って目の前にの槍を作り出す。
「貫け。の槍」
あたしは構えた。
しかし、の槍はミユキのを突き刺しただけでこっちに飛んでくることはなかった。
あたしはまさか自分に突き刺すとは思っていなく、呆気に取られた。
「なに…をっ……!」
すると突然に激痛が走った。にはさっきミユキに刺さったはずのの槍が刺さっていた。
なん…で……?飛んでくる…気配は……なかったのに……。
の奧からがこみ上げて來て、咳き込む度に激痛が襲う。
「ニャ…」
「シ…ロ……」
シロはあたしがやられた方と知って戻って來てしまった。
心配させちゃったみたい。安心してって言うのも無理な話か……。
もし……次があるのなら。もう心配させない様にしたい…。皆を安心させる為に強くなりたい……。
その時、私の心が熱くなるような覚を覚えた。
「ポチ。とどめを刺してきなさい」
ミユキの命令によってフェンリルがき出そうとしたその時だった。
勇者を分斷する為に放った氷の壁が大きなと音を立てて割れた。
「ポチ!待って!……あれはタクマさん?」
あたしは無意識のうちに氷の壁が割れた方を見ていた。
そこには悠然と立っている勇者と、満創痍で立っている彼がいた。
◇◆◇◆◇
ーside:レンー
私とリン様はナユタという勇者の相手をすることになりました。
「リン様。いきますよ」
「うん。分かった」
ナユタは支援魔法よりの勇者だということは、主様に勇者のステータスを見せてもらって知っている。
だから、時間を作らせない為にすぐ、攻撃に出た。
ナユタの死角に転移をして、攻撃をしようとする。
「私は、ずっと"親友と共にいる為に"生き続ける。ここで死ぬ訳にはいかない」
ナユタがそう呟いたのを攻撃をする直前に聞いた。
すると、ナユタを中心としてなにか明な円のようなものが現れた。
私とリン様は攻撃をしている途中だったので、その円にれてしまった。その途端に、が重くなり、虛をじた。
「レンちゃん……!これ…なに…?」
「恐らく、目の前の勇者が何かをしたのでしょう……」
「せいかーい。まぁ何が起こってるかなんて言うわけないんだけどね?じゃ、やられてね?」
そう言ってナユタは、杖を上から振りかぶって私達を毆ってきた。その威力は計り知れないもので、今まで食らったことのないようなダメージをけた。
「ぐっ…!何故こんなダメージを……」
「あ、頭が割れるみたいに痛い!」
私とリン様は追撃を避けるために転移をして、円の外に出た。
するとは軽くなり、さっきまでの虛が噓のように消えた。
「あの円の中だけ、さっきみたいになるみたいですね」
「それならここから攻撃しよ!」
「そうですね。魔法ならなんとかなるかも知れませんし」
私は雷魔法を、リン様は水魔法を使った。偶然だがいい魔法の組み合せだ。
雷は水を伝い、その水はナユタの方へ向かっていく。
しかし、それは円の中にると制が不可能になり、魔法が解けてしまった。
「あれは魔法も効かないようですね……」
「そんなのどうすればいいの……?」
「もう諦めた方がいいんじゃない?大人しく私にやられた方が痛くなくてすむよ?」
そう言いながらゆっくりと近づいてくる。円もナユタのきに合わせ、ジリジリと迫ってくる。
「私達はやられません。どうにかしてみせます」
「なら、痛みをじて死ね」
ナユタは冷たい聲でそう呟くと、一瞬にして消えた。
そしてが重くなり、虛に包まれたことで、円の中にったことがはっきりと分かった。
私達は消えたナユタを探した。しかし見當たらない。
「後ろだよ。……それ」
「う…あぁ…あ…っ!」
背後から聲が聞こえたと思ったら隣にいた、リン様からうめき聲の様なものが聞こえてきた。
隣にいたリン様はいつの間にか左腕が無くなっていて、聲にならない聲を出していた。
「リン様!」
「あっ、こっちの子じゃなかった。…ま、いっか。どっちにしても殺すんだし」
そして、ナユタは支援魔法を完全にかけ終わったであろう拳を手刀の形にしてリン様のに突き刺した。
「かはっ……!い、痛い…!でも捕まえた……!この手は……絶対に…離さない……!だから…レン…ちゃんは……先に逃げ…て……」
リン様は痛みに悶えながら、されど強い心で自分をい立たせていた。
私はリン様に護られた。いつもは主様にしか興味を持ってなくてどこか抜けているリン様。そのリン様をお世話している時は本當の姉妹になった様な気持ちでした。私が姉でリン様が妹。姉妹とはこういうものなのかと思ったりしました。
けれど、今そのリン様は強い心を持ち、私を必死に逃がそうとしてくれています。
私は何をしているんですか!自分を姉だと思うなら姉らしく、妹を護ることくらいしないといけません!
私は誓った。絶対に逃げない。どんなに強大な敵だとしても、途中で誰かを置いて逃げることはしないと。
だから……だからその誓いを守る為に強くなる。
その時、私の心臓が締めつけられる様な覚に陥った。
「ん!もう!離してよ!」
「いや……です…!絶対に……離しません!」
その時、氷の壁が大きなと音を立てて割れた。
その音に驚いたリン様は手を離してしまい、から手刀を引き抜かれた。
「ようやく離れた……。ってタクマくん?」
「リン様!大丈夫ですか…!今、回復魔法を!」
「……レンちゃん……あれ…見て…」
リン様が指を指した先には悠然と立っている勇者と、満創痍で立っている彼がいた。
◇◆◇◆◇
ーside:ジュリー
2対1で戦うと決めてからすぐに行を起こした。
私とゼロはさっき決めたようにアイカの元に行き、目の前の立った。それと同時に、私とゼロに全力の支援魔法を掛ける。
「あんた達が私の相手ね……。ちょうどあんたにむかついてたところよ」
アイカは私を指差し、そう言ってくる。そして、さっきまでのどこか手を抜いていた様な雰囲気が変わっていく。
「まぁいいわ。誰が相手でももう使う予定だったし。……私は"日常を取り戻す為に"本気を出す」
日常を取り戻す為に、というフレーズを言った途端に、アイカの周囲に4本の槍が出現した。
それらは宙に浮いており、1本1本が獨立のきをしている。
あれも全てアイカの武なのでしょうね。さっきまででもきつかったのに、さらに手數が増えるなんて……。
「……でも私達も負けていられないのよ。ゼロ、支援魔法は掛けたわ。いくわよ」
「うん!」
ゼロは転移で、私は地面が抉れるほどのスピードで、アイカに襲いかかる。
アイカの思考を読み取り、防の薄い急所を狙い拳を突きつける。が、それは槍によって阻まれてしまう。
な……!槍は自防してくるの!?
それはゼロの方も同じだった。
何度攻撃しても、全て槍によって阻止される。ましてや、殘りの槍で攻撃まで加えられる。
圧倒的に不利な狀況だ。私の全力の支援魔法が掛かっていてもこの防を越えることが出來ない。
「あんた達の全力はそんなものなの?全力って言うのはこう出すものよ!」
アイカは手に持っていた槍を私に向けて投擲してきた。
だが、思考を読んでいた私は投擲をする事を知っていたので、既に線上から逸れている。
それを見ていたアイカは私の方を見てニヤリと笑った。
「ねぇ、グングニルの槍って知ってる?グングニルの槍は絶対に命中する投擲槍って言われてるらしいわよ?」
まさか…!?この槍は…!
私が気付いた時には既に遅く、グングニルの槍は私を狙ってすぐそこまで來ていた。
ダメ!避けれない!
そう思った瞬間、視界にゼロがってきた。私の危険を察知して転移してきたのだ。
「ゼロ…!?貴なんで…!」
無にもグングニルの槍はそのまま突き進みゼロのを貫いた。
そして、ゼロに刺さった槍は勝手に抜け、またアイカの元に戻っていく。
槍が抜けたゼロはその場に倒れ込んだ。表は痛みを堪えているものだ。
「ゼロ。どうしてこんなことを……」
私は涙が出てきていた。私の力が及ばなかったがために仲間を傷付けてしまったことに後悔をしたからだ。
「わた…し…、理無効のスキル…持ってるから……大丈夫だって…思ったけど……ダメだったみたい…なの……」
ゼロのいつもの天真爛漫さがなくなり、消えるような聲で、必死に言葉を紡いでいく。
「槍が…刺さった時の……衝撃が思ったより…強かったの……。でも…ジュリを護れて…良かっ…た………」
そして、ゼロは目を閉じた。もう目が開く気配はない。
「絶対に……絶対に蘇生させるから……。それまで待ってて……」
私はゼロをその場に優しく寢かせ、アイカと向かい合う。
「あら。狙いとは違うけど1人やれたみたいね。じゃ蘇生される前にあんたも殺してあげるわ」
「……私はもう仲間にこんなことをさせない。仲間の為に強くなる……!」
そう決意した時、私の中の奧底で何かが揺らいだ気がした。
「もう今更よ。あんたはここで死ぬんだから」
そして、アイカが私に向かって槍を突き付けてくる。
もう避ける時間もない。対処する力もない。ここで私はやられてしまうのか。せっかくゼロに助けてもらって、決意を固めれたのに。
私が諦めかけたその時、氷の壁が大きなと音を立てて割れた。
アイカの攻撃はそれによって止まった。
「……タクマ!無事だったのね!」
私の視線は自然と音のした方に向いていた。
そこには悠然と立っている勇者と、満創痍で立っている彼がいた。
- 連載中33 章
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