《異世界に転生したので楽しく過ごすようです》第179話 達の二週間、その三のようです
達は勇者を押していた。奇しくも、彼がやったように最初から全力を盡くして。
達は長期戦になれば自分達が不利になる事は分かっていた。だから短期戦に持ち込んだのだ。
この甲斐もあって今は勇者を押すことが出來ていた。後はどこかで勇者に致命傷を與える機會がくればと願うばかりだった。
やがてそれは訪れる。
達の猛攻にじりじりと後退していた勇者の一人が不自然に空いたに足を取られ制を崩したのだ。
達はそれを見逃さなかった。
「アイカを殺るなら今しかないわ!」
その掛け聲と共に、アイカと呼ばれた勇者に全ての攻撃が向かう。
勇者もやられまいと手持ちの槍で魔法を落とし、攻撃をいなす。だが、対処しきれずに一撃食らってしまう。
が噴水の様に吹き出し、地面を赤黒く染める。
アイカという勇者のの気がみるみるうちに引いていき、遂にはその場に伏せてそのまま命を落とした。
「ゼロ!分の一つでアイカをタクマの所へ!」
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「わかったの!」
「後は、ナユタとミユキだけ!締まっていくわよ!」
「「「了解!」」」
そして達は更に激しく攻撃を加えていく――。
◇◆◇◆◇
ーside:ジュリー
「マスターに逢いたい……」
長く続いた沈黙を破ったのは、ゼロだった。
ゼロの言葉は短く、簡単なものだった。されど、その一言は重く、私達の心を代弁したものだった。
皆、ゼロと同じ気を抱いている。
彼が一人で何でもかんでもやると言っていても、そんなのは知ったこっちゃない。寧ろ、彼が勝手にやるなら、私達だって勝手にしてもいいじゃない。
私は再び彼への怒りが増してきた。
あれだけ仲間を大切にしろと言ったのに、こんな大事な時に一人で行をする彼に怒りをぶつけてやろうと思った。
「もし主様が私を捨てていたとしても、その上で主様の元に行きます。主様はいつまで経っても私の主様ですから」
「そ、そうですっ!あるじさまはあるじさまです!楽しい事が好きで、悪い事は絶対に許さない、それがあるじさまです!」
レンとリンは彼から生まれた元魔だ。人間同士にはない、魂の繋がりなんてものがあるのかもしれない。
それを言うならゼロもだ。レンとさほど変わらないと言っても、彼と一番長く旅をしているのはゼロに他ならない。
魔だった時から彼にベッタリで、彼への想いが一目瞭然だった。
「私だって、あの人に會いに行くわ。そして今までの日々が何だったのか説教してやるわ!」
だから私も勇気を持てる。今は彼への怒りで誤魔化しているけど、いつかはきっと――。
それから皆も踏ん切りが付いたようで、次々に彼の元に行くという宣言をする。
「今となっては、ミルを外に出して正解だったと思えるよ。信頼出來る仲間が出來て、想いを寄せる人もいる。後者は父としては複雑だが、結婚する時はちゃんと報告するように!」
「わかった。ちゃんと報告する」
何故か結婚する事が前提となっているミル。しかし、彼との結婚などそう珍しくはない。かく言う私も、彼と結婚しているし、フェイも結婚している。
私とフェイは彼とは既に家族なのだ。しかし、あまりそう認識した事はないし、そう認識するのはまだ先だと思っている。だから今、彼とは仲間でいる。
「パパ。あの人の居場所分かる?」
「それが、彼は知に引っかかりにくくなったんだ。このじはミルが隠を使った時の覚に近いから、彼も隠のスキルを持っていて、常時発させてるんだと思うよ。それと、彼の転移の頻度が多い。見つけてもすぐにどこかに行ってしまう」
「ちゃんとここだって分かるのはどれくらい?」
「ここから探すんじゃ一生掛かっても無理かもしれないね」
「じゃあどうすれば……」
「いえ、一度だけ必ず會える場所があるわ」
私にはミルと魔王の話で分かった事があった。それを皆にも伝える。
「彼が転移でどこそこに飛んでいるのはどうしてか皆は分かるかしら?」
「……単なる移ではなく、そうしなければならない理由があるからでしょうか?」
「レンの言う通り。彼には転移をして、遠くまで出向き、何かをしているのよ。確か、フェイは二日前に聖國の使者として彼が帝國に來たって言ってたわよね?」
「うん。お母さんがそう言ってたし」
「なるほど。聖國の使者という事はそれだけ重要な案件があると言う事ですね。そして恐らくそれは――」
「「戦爭」」
私とレンの言葉が重なる。流石はレン。頭の回転が早いし、理解度も高い。
だけど、リンやゼロはまだよく分かっていないみたいだ。ミルやフェイ、ニーナは何となく察する事は出來ているようだ。
「彼が一人でく理由は、勇者を助けて、その上で教皇を倒すこと。その二つが同時に出來るのは、戦爭が起こった時だけ。それに、もう戦爭が始まるのを止めることは出來ない。彼だったら、この戦爭に勝つ為に各國に報を流し、戦爭への対策をしっかり練らせた上で、國の軍が敵と戦い始めたら、自分は邪魔がらない場所で勇者もしくは教皇、あるいは両方を相手取るはず」
「んんー?」
「要するに、彼は戦爭の時に勇者の前に現れるってこと」
「おぉー!わかったのー!」
「じゃ、じゃあ、あるじさまと確実に會える所って……」
「戦場よ」
彼はそこに絶対現れる。自分で手紙に書いているし、そこは間違いない。だが、ここで一つ問題がある。
「戦爭がどこで起こるのか。そもそも戦爭がいつ始まるのかが分からないわ」
「それこそ、パパの出番」
「そうだね。報収集は任せてくれても構わないよ。そうだね……一週間あればある程度は集められると思うよ」
「じゃあ、よろしく頼むわ」
この一週間、私達は私達にしか出來ないことをするしかない。もどかしいこともあるかもしれないが、我慢になるだろう。
「今日はゆっくり休むといい。皆、目覚めたばかりだ。を休めて、萬全の狀態にしておくんだ」
「分かった。パパの言う通りにする」
「そうね。起きてすぐんなことがあって混してる人もいるみたいだし、今日はもう休みましょう」
魔王に各々の部屋が割り振られて、その部屋を自由に使ってもいい事になった。
明日から、忙しくなると思う。だから今日はもう寢よう。
私は疲労をじていたをベッドの上で橫にして、そのまま眠りについた。
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