俺は墮ちてしまった神を見據える。

「詩織。お前に貰った沢山のものは俺の寶だ」

「ニンゲン。その力はどこで手にれた？」

「これは俺の――俺だけの力だ。元々ニンゲンは神と同等の力を持っていたみたいだな」

「こんな事が有り得るわけがない」

「今まで前例がなかっただけだろ。今こうやって俺がこの力を使っているんだ。認めろよ」

この力は、俺自と俺と繋がりがある人達を護る為にある。

決して誰かを攻撃するものではない。ただ護る事に特化した能力。

この力があれば神を救い出す事が出來るかもしれない。

「私達も一緒に戦うわ」

「マスターだけが戦う必要ないもん！」

「あの神を正気に戻す」

「あぁ、そうだな。皆の力も頼らせて貰う」

「ようやく本當の意味で主様が頼ってくれましたね」

「本當よ。全くあなたは頭が堅いんだから」

「すまない」

こんな狀況だと言うのに皆が笑っている。

この中に神もれば完璧だと思っている。それは皆同じ気持ちだ。

「詩織。今そこに行くからな」

俺は誰に聞かせるでもなくただそう呟いた。

そして。

「行くぞ皆！」

「「「了解！」」」

俺はその場で力を溜める。

その間に皆が神へと近づいて行く。真っ先に攻撃を仕掛けたのはフェイだった。

「神！　こんな事しててあなたは辛くないの！？　好きな人に殺してしまう程の攻撃をして！」

「黙れ。我と共にあるのは絶だけだ」

「そんな事ない！　神はいつも私達を笑わせてくれて、辛い時は助けてくれた！　私はそれが噓だとは思わない！」

「黙れと言っている」

「いや黙らない！　神が元に戻るまでは！」

説得をしながら墮神へ鋭い一撃を繰り出していたが、墮神に払われて當てることは出來なかった。そしてそのまま衝撃波を食らって飛ばされていく。

俺の能力でダメージはないと思うが、慣はどうにも出來ないようだ。

「めがみ！　マスターに意地悪するのやめるの！　マスターは神の事が好きなの！　だからやめるの！」

「……我にそんなもの必要……ないのだ」

「噓は吐いたらダメなの！　今のめがみは悲しそうなの！　だからマスターの好きをちゃんとけるの！」

「……必要ない！」

「そんな事ないもん！　わたしは分かるもん！　神がマスターの好きをどれだけしかったか！」

ゼロも自分の分を作り大量に墮神に押し寄せていたが、フェイの時とは違い、全方位への衝撃波により全て飛ばされていく。

次に攻撃を仕掛けたのはレンとリンだった。

「主様からの好意をけながら、それを自ら放棄するなど考えられません」

「私達は正直にあるじさまに想いを伝えました！　後は神さまがちゃんと元の姿に戻って幸せになるだけです！」

「……幸せなど！　そんなのは不要なのだ！　我には絶だけあればいいのだ！」

「絶だけなんてそんなの悲しいだけですっ！　神さまはいつも希を持っていたではないですかっ！」

「主様の記憶の中で神様は主様を命を掛けて護ったのですよ。それは主様の事をしていたからにほかならないのではないですか？」

「幸せなど不愉快だ……っ！」

「不愉快だと、そう言うなら何故そんなに焦る必要があるのですか？」

「焦るのは神さまの心に幸せを求める心がまだあるからじゃないのですかっ！」

レンとリンは互いにの攻撃の時に墮神に出來る死角から攻撃をしていた。

だか最後にはそれも見切られ、レンが摑まれてリンの方に飛ばされる。リンはレンをけ止めて後ろへと飛んでいった。

「私は神さんの事よく分かりません。ただ同じ神の力を扱う者として神さんが苦しんでいる気がしているんです」

「我を憐れむな！　我はお前のような紛いとは違う！」

「確かにそうです。ですが、紛いなりに出來る事だってあるんです。神さんは一人で塞ぎ込んでいた私を救ってくれた人の一人です。だから私は神さんを助けます」

「私はこれで完全なのだ……っ！　だから――っ！」

「そうです。そうやって心を揺らして下さい。そしてその心が揺れる意味を。揺れた意味をよく考えて下さい」

ニーナは神力を言葉に乗せ、言霊として攻撃をしていた。

それは墮神の心を直接揺らし、そしてその奧にいた一人の存在を目覚めさせる事に集中する。

それが鬱陶しい墮神はニーナに神力を乗せた線を放ち、ニーナを戦線離させようとする。

ニーナは重心を下げ、遠くまで飛ばされるのを防いだが、後方まで飛ばされる。

「神。そこまでにした方がいい。そのまま誰かを傷つけるなら彼が――マモルが悲しむ」

「――っ！　う、うるさい！　そんなのしった事か！」

「神は誰かが傷つくのを許さない。中でも一番はマモル。だったらマモルの悲しむ姿だけは自分で作っちゃダメ。あたし達もマモルの悲しむ姿なんて見たくない」

「だからなんだ……！　私は――私はぁ！！」

「あたし達は神を信じてる。だからすぐに戻ってくるといい」

いつもミルは魔法を軸に戦うスタイルをとっているが、今回だけは接近していた。

魔力転化を使って、出來るだけ善戦できるようにしていた。

だが、墮神の振りかざした拳によって飛ばされてしまう。

ミルは飛ばされていても持ち前の魔法で次々に攻撃を行っていた。

そして最後にジュリが近付いていく。

「神。私が櫻井だって知ってたみたいね。だからなの？　マモルをこの世界に連れて來たのは？」

「知るわけない！　私は絶を司る神だ！」

「私はあの時マモルを助けて死んだ。詩織だってそうだったんでしょ？　だったら絶なんてなくて、しの未練と多くの誇りに満ちてたんじゃないの？」

「――うあああぁ！！！」

「心殘りだった未練だってこの世界に來れた事でなくなった。櫻井だった時のお父さんとお母さんは元気だってわかったから。詩織。あなたの心殘りってマモルの側にずっといる事じゃなかったの？　そのままじゃ葉えられるものも葉えられなくなるよ」

「――ああああああああああ！！！！！」

ジュリは一切攻撃を仕掛けなかった。ただ、神を――詩織を想った慈しみの囁きだけを墮神にぶつけた。

それによって墮神は錯狀態に落ち込んだ。辺りに所構わず衝撃波や閃を放ちまくる。

墮神の中では皆の呼び掛けで目覚めた詩織が必死で頑張っているのだろう。

墮神の一人稱が『我』から『私』になった事もそのせいかもしれない。

ただ苦しいのだろう。墮神の人格と詩織の人格は互いに殺しあっているようなものだ。

そんなのは悲しいではないか。だったら俺が。

「……今から行くからな」

俺は錯している墮神に近付く。

衝撃波や閃をスキルを駆使しけ流して、確実に一歩ずつ。

「ああぁあああぁああぁああ！！！」

俺が墮神の元に辿り著いたとき、彼の目には黒い涙が流れていた。

「神……辛いよな。今、楽にしてやるからな」

俺は優しく墮神に抱擁した。

それと同時に俺の護る力を墮神に流し込む。

すると徐々にだが墮神は落ち著きを取り戻し始める。

「墮神はニンゲンの怨念じゃないかって思っていたんだ。教皇がお前を作ったのなら、その可能があるって。だけど怨念だけを持っていても辛いだけだ。もう楽になってくれ。お前がどれだけ幸せをんでいたかは分からないが、今は辛くてもいつからは幸せになれるから」

俺は墮神に向かってそう話しかける。

「……我は幸せを求めていたのか」

「それはお前の流してる涙が証明してくれるさ」

「……そうか。我は……幸せ……に……」

墮神が徐々に浄化されていく。流れていた黒い涙が徐々に明になり、全的に黒かったが本來の白く輝くに戻っていく。

墮神が行使していた鏡と盃は『希の鏡』と『創造の盃』へと本來の姿を取り戻した。

そして墮神が完全に浄化されたとき、彼が再び俺の元に戻ってきた。

「おかえり、詩織」

「ただいま、護琉」

『ただいま』と言った詩織の頬は濡れていた。