《三人の霊と俺の契約事バルティカの戦火

「ああ、愉快愉快。何が神の化ですか?所詮ただのデカいトカゲじゃないですか。今日でバルティカ戦線も終戦ですよ」

無慘に崩れ落ちた巨大な竜の上で座り込み高笑いを浮かべている黒いローブをに纏った魔道士。きっと首が三つあったのだろうか。首が一つ殘っているだけで、殘りの二つの首は、無理矢理引き千切れられている。

「キ、貴様・・・よ、よくも」

漆黒の翼とをした巨大な竜は、もげた方羽を広げ立ち上がる。

「おやおや、しつこいですね?まだ立ち上がれるのですか?」

「同胞の恨み、晴らすまでオレは、何度でもーー!!?」

一瞬だったーーニーズヘッグも何が起こったか分からなかった。

「ーーーーグハ」

口から大量のが噴き出した。呼吸が出來ない。目の前に空が広がる。

「何度でも何だって?ごめんなさいもう一度言って貰えませんかね?」

ニーズヘッグは地面に崩れ落ち、二度と目を開けることは無かったーー。

「あら?死んでしまいましたか。もう一度言ってほしかったんですけどね」

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ケラケラと憎たらしい笑い聲がバルティカ戦線に響き渡る。その聲は竜を敵対視していた人間にさえ、嫌気がする程の憎たらしい笑い聲だ。

この映像と笑い聲はセントラルコントロールにも屆いていた。

「中央本部、応答願います。こちらセントラルコントロール」

「どうした?セントラルコントロール」

「こちらの映像を転送致します」

セントラルコントロールから中央本部に転送された映像には、黒いローブを纏った魔道士が高笑いして巨大な竜を次々にオモチャのように遊び壊していく姿が映し出されていた。

「ーー稀代の天才魔道士クリスチャン・ローゼンクロイツ」

ダグラスクルーニーの額に汗が滲む。その名に中央本部が騒めく。

「ーーあ、あの天才魔道士がなぜ?」

「と、とりあえずこれで竜魔族とのバルティカ戦線は終戦で良いのでは?」

その言葉に安堵の表を浮かべたのも束の間、

「・・・ローゼンクロイツが現れたってことは何かあるに違いない」

ダグラスクルーニーは頭を抱えて深くため息ついた。

「くっ、円卓の魔道士の増援隊はまだか!」

☆ ☆ ☆

「・・・にーずへっぐの魔力も消えたわ」

「ああ」

靜かなエドナ山脈にある窟、ここはかつて人間と邪竜アポカリプスが対峙した場所。

「もう、殘る神竜も私とあなただけよ」

「・・・ああ」

エキドナは覚悟を決めたのか、窟の出口に向かって歩き出す。ーーしかし、

「どこへ行く気だ!!」

エキドナの肩を引っ張り引き戻すファフニール。

「決まってるじゃない!みんなの仇を打ちに行くのよ!!」

「お前は分からないのか?あの人間の魔力の大きさは明らかに俺たち神竜を大きく上回っている。行ったとこで無駄死だぞ」

「そんな事分かってるわよ!あなたは悔しくないの?」

「悔しいに決まってるだろ!!悔しいけど・・・どうする事も出來無い」

「ーー私は行くわ」

ファフニールの手を振り払い、窟の出口へと向かうエキドナ。

「バハムートは?子供はどーするんだ、お前のする家族は?家でお前の帰りを待っていてくれる家族が居るんだろ?」

その言葉に立ち止まるエキドナ。

「ーーわ、分かってるわよ。あなたにそんな事言われなくても分かってるわよ。けど、けど・・・」

エキドナは、振り返りながら

「私は、人間じゃなくて竜だからーー」

エキドナは、しゃがみ込み泣き崩れた。

そんなエキドナを見つめながら、

「ごめん、エキドナ」

ファフニールは頭を掻きながら窟の天井を見つめていた。

分かってる。ーー分かってた。だからエキドナが【人間】としてどんな人生を歩んで行くのかを見屆けていた。

エキドナと同じように人間として、これまでずっと過ごして來た。エキドナが人間の男と結ばれ、やがて子を妊り、出産し子を育て家族三人で平和に暮らしてきた日々をファフニールは知っている。

ファフニールにも人間の友人ができ、楽しい毎日を過ごしていた。

「ーー確かに、俺たちは竜だ。だけど・・・」

ファフニールは、エキドナの肩に手をやり、

「心は人間だ!」

「ファフニール・・・」

覚悟を決まったのか、ファフニールは出口に向かい歩きはじめた。

「ファ、ファフニールどこへ行くの」

「お前は、ここに殘れ!俺が行く!」

「何言ってんのよ。私も行くわ」

「嫌、駄目だ!お前には家族がいる。家族を悲しませるようなことはするなよ」

ファフニールは振り返り、

「エキドナ、君が俺に見せてくれた日々が神が言っていた人間と竜の理想の幸せなのかも知れないな。人間として過ごした十數年の日々はとても楽しかった。ありがとう」

「ファフニール・・・」

ファフニールは、窟を後にした。

殘されたエキドナは、ただ寂しさに浸っていることしか出來なかったーー。

その日ーー、永き眠っていた心臓の鼓が今、き始めた。

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