《努力を極めた最強はボッチだから転生して一から人生をやり直す》神殺しの塔
朝食が済んだあと、オレは宿屋の三階にある宴會用の広間で、父達が帰ってくるのを待ちながら呆然と街の中央に聳え立つ折れた塔を眺めていた。
ラッテンが父達を捜しに行ったので、見つけて連れ戻してくるのも時間の問題だろう。
しかし…。その塔は、見れば見る程にオレの知っている塔に思える。
だが、あの時代から大分経っている筈だ。オレが塔の機能を破壊したから、原型は保っていようとも、古びてしまう筈なのだが…。
破壊する程度では足りなかったか?
「アレは、神様が人々に憐れんで與えてくれた”神の塔”よ」
「む?」
ふむ。ミーネか。
しかし…神が與えただと?
アレが、か?
「その表は、知らないのね?いいわ!私が特別に教えてあげる!」
「ふむ。ご教授願おう」
教えてくれると言うのなら、教えてもらおうじゃないか。
「やけに素直ね…。まぁ、良いわ。神の塔は、”神代の時代”のなのよ!人々が魔王に怯えるのを憐れんで、神様が立てて下さったのよ!」
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ミーネはエッヘンと自慢気にを張るが、やはり子供だからか、威厳と言うものが全くじられない。
「だけど、それから1000年後に新たに現れた魔王ーー”マキシマム”に破壊されて、塔の大半を失ったんだって」
「ふむ。知りだな」
そうだったのか。
それにしても、魔王マキシマム…もしかしてだが、オレか?
いや、違うだろうな。
確かに、破壊したのはオレだ。名前も同じだ。
塔が立ってから800年後に名を変えた事から考慮するに、年代も合っている。
しかし、オレは魔王ではない。
そう呼ばれる事は…なかったとは言えない。
だが、誰がなんと言おうとオレは魔王ではないのだ。
「こ、これぐらい當然よ!」
なぜか、ミーネは顔を赤くして背を向けてしまった。
しかし…オレが死んだ後だとは言え、隨分とオレの名前を好き勝手使ってくれるじゃないか…。
幾ら寛大なオレだとしても、さすがに苛立ちを覚えるぞ。
特に、魔王扱いされていることにな。
「旦那様、見つけた」
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「ふむ。オレはイクスだ」
何度言えばオレの名を覚えてくれるのだ?リリルよ。
オレは旦那様ではないぞ。
「お父さん達は來ない。ラッテンが言ってた。お酒の飲み過ぎ。診療所で寢てる」
ふむ。
それは困ったな。
今日の予定は、確か教會に行くはずだったのだが…。オレは教會の場所など知らないぞ?
「代わりに、ラッテンが付き添う」
リリルが一歩橫にズレると、その背後からラッテンが姿を現した。
ラッテンの気配に気が付かなかったぞ…。やはり、人が大勢いると察知の度が落ちるな。
だが、この程度で弱音を吐くなど、弱者のする事だ。これでは怠慢と同義である。
察知度を上げる特訓もしなければならぬな。
「旦那様方に申し付けられましたからには、しっかりと責任を持って付き添わせて頂きます」
言い終わってから深い禮をするラッテン。
しかし…オレは教會に行くのだが、それは大丈夫なのか?
「イクス様。ご心配なさらずとも、私共の行き先も教會でございます」
ふむ。顔に出ていたか?
まぁ好都合だ。良しとしよう。
「ならば、案してもらえるか?」
「いえ。案だけではイクス様は教會の中にる事が出來ません」
「む?なぜだ?」
教會と言えば、神の使い共の溜まり場の筈だったのだが…。
主な行は、怪我人を治療したり、布教活をしたり、神託をけ取ったり、困っている人を助けたり、と善人紛いの偽善行為をしていた。
一時は教會に助けられた事もあるが、どっちかと言えば、教會に追われる方が多かった気がするのだがな…。
「知らないの?今から行く所は”神の塔”なのよ?神聖な場所に子供1人で行ける筈ないでしょ」
「アレが、神聖な…か」
どうやら、ミーネは神カミ…神の塔の本當の名を知らないみたいだな。
ふむ。混を避ける為には言わない方が得策か。
「ふむ。ならば同行してもらうとしよう」
「はい。畏まりました」
それから、リリルとミーネは準備をすると言って足早に部屋を出て行った。
オレは必要ななど分からないので、手ブラの狀態でラッテンと共に宿屋の一階の休憩室のような場所で2人を待つ事にした。
「ふむ。ラッテンも座れば良いだろう」
「お気遣いありがとうございます。しかし、私はこのままで十分です。歳を取ってしまうとが鈍ってしまいますので、このままが一番なのです」
「む?そうなのか?」
「はい。そうでございます」
ふむ。
前世の時に早い段階で延命魔法を開発した所為か、人間は壽命が短い事を忘れていたぞ。
それにしても、リリル達はいつ來るのだ?
2人はまだ部屋で何やらき回っている。
既に10分は経っていると思うが、何をしてるのだ?
「一つ尋ねてもよろしいでしょうか?」
「む?なんだ?」
ふむ。暇潰しには丁度良いな。
雑談に付き合ってやろうではないか。
「イクス様は”神の塔”をどう思いでしょうか?」
「む?」
質問の意図が摑めぬな。
しかし、ラッテンの質問に答えると言った手前、答えなければならぬな。
「ふむ。神の塔…か。オレにとっては忌々しい魔導機だな」
「マドウキ…それは、なんでしょうか?」
「魔導技によって造られた機械の事だ。知らぬのか?」
「申し訳ありません。私めの勉強不足でございます」
む?なぜ謝るのだ?
これを機に覚えていけば良いではないか。
それはさておき、話を進めるとしよう。
「ふむ。魔力を糧にかせるだ」
「魔力を糧に…?”アーティファクト”でございましょうか?」
む?なんだそれは?
「私がに付けている腕でございます。これがアーティファクトでございます」
視線をラッテンの腕。裾に隠れていた腕に向けると、”隠の腕”が嵌っていた。
ふむ。々と納得がいったぞ。
ラッテンの気配をじにくく思えたのは、その腕の所為だ。
今のオレではじにくいのも納得がいく。
「アーティファクトは、主に跡に行けば手にります。ですが、殆どは使い方の分からないばかりでして、こう言ったは競売に掛けられて高値で売られています」
「ふむ。ラッテンのソレは珍しいなのか?」
「はい。売れば白金貨10枚は下らないかと思われます」
ふむ。そんなガラクタがか?
見たじ”ランクC”だな。子供の遊びにしか使われない代だ。
「興味は有りませんでしたか?」
「いや、良い勉強になった。謝する」
ラッテンとの會話で今の時代の學力が知れた。
それだけでも十分な収穫だ。
「勿無いお言葉、ありがとうございます」
ラッテンが頭を下げるのと、リリルとミーネが階段を降り始めるのは同時だった。
「では、そろそろ行くとしよう」
「お嬢様方をお待ちにならないで行くのですか?」
「ふむ。そろそろ來るのでな」
オレが視線を階段へと向けると、ラッテンもつられて階段へと視線を移す。
そして、リリルとミーネが階段を降りて來た所を丁度目の當たりにし、俺に向き直り深い禮をした。
「これは恐れりました。しかし、神の祝福をけずにスキルを使えるとは…服致します。……(只者ではないと思っていましたが、ここまでとは)…」
最後にボソリと何か呟いたようだったが、生憎とそれは聞き取れなかった。
しかし、まぁ、小聲で呟く事だ。追求する程の事ではないだろう。
「ふむ。では、行こうではないか。案を頼むぞ、ラッテンよ」
「畏まりました」
ラッテンを先頭にオレ達は宿屋を出て、宿屋の前にある大通りを塔の方向へ向かって歩く。
街は、オレの居た町よりも賑わいを見せており、喧騒もあるが、賑やかだ。
そして、何よりも屋臺の數が多い。
興味深い食べばかりだ。
「どうかしましたか、イクス様?」
む?余所見をしすぎたか。
「ふむ。気にする程の事ではな」
「それは噓。旦那様は焼き串を食べたそうに見ていた」
む?
確かに食べたいとは思ったが、顔に出した覚えはないのだが…。
良く見ているのだな、リリルよ。
しかし、一つ訂正しよう。
オレは旦那様ではない。イクスだ。
それと、焼き串だけではない。屋臺の食べ全てだ。
おっと、これでは二つであるな。
「アンタさっき朝ご飯食べたでしょ?私達よりも沢山食べたくせに、まだ食べるの?」
「ふむ。食べれる時に食べなければ、いざという時にけぬからな」
「どんな生活してるのよ…」
ミーネが呆れたような眼を向けてきた。
何か困らせてしまうことでも言ったか?
そんな事があったが、オレ達は何事もなく教會に辿り著いた。
しかし、よりにもよって教會が”神殺しの塔”だったとはな…。いや、今は”神の塔”であったか。
それはさておき、オレは両手一杯に屋臺の食べを持っている。
ラッテンが買ってくれたのだ。
いつか、この恩は返さなければならぬ。
「ほら、全部食べきれなかったじゃない。張るからよ」
「旦那様は良く食べる。覚えておく」
「ふむ。料理は味を堪能して食べるのが、料理人に対しての敬意だ。急いで食べては無下にしてるのと同等だ」
「そんなに偉そうに言っても、そのままじゃ教會にれないわよ」
「旦那様は料理にこだわる。覚えておく」
「ならば、後で食べる為に取っておけば良いであろう」
そう言って、オレは手に持った食べを『イベントリ』に収納する。
「え?消えた…?」
「さすが旦那様」
「イ、イクス様…今、何を…」
ふむ。
3人には消えたように見えたのか。
と言う事は、この魔法を知らないのか?
ただの収納魔法【イベントリ】なのだがな。
前世でも使える者はなかったが、かなり有名だったはずだ。
なにせ、荷を全て其奴ソヤツに任せられるからな。
とは言え、それで持ち逃げなどが多かったが…。
一応だが、【イベントリ】とは、別空間に自分だけの空間を創り、そこへ荷やらなんやらを放り込んでおける便利な魔法だ。
ただ、二つの欠點がある。
イベントリを使用する際には余り関係ないのだが、初めて使う時。要するに、別空間にを開け、そこに自分の空間を作る時に、かなりの魔力を消費するのだ。
そして、魔法の扱いが下手だと【イベントリ】の中は簡単に盜まれてしまう。
まぁ、オレは盜まれた事などないがな。
なにせ、この魔法はオレが作ったのだ。そう簡単には盜めまい。
しかし、説明するのも面倒だな…。
はぐらかすか。
「ただの魔法だ。気にするな」
「畏まりました…」
どこか納得してなさそうな表だなラッテンよ。気になるのならば、そう言えば良いのだ。
「いや、いやいやいや、気にするでしょ!普通!」
ふむ。
やはり気になるのだな。
「ならば、今度、機會があれば教えてやろう」
「是非ともお願い致します」
真っ先に食い付いたのはラッテンだ。
彼の行にリリルとミーネが呆気に取られていた。
どうやら、珍しい行みたいだな。
「そんな事より、さっさとろうではないか。もうれるのだろ?」
「は、はい。では、私の後に続いて來て下さい」
ちょっとした事で足を止められたが、オレ達は教會と呼ばれる”神殺しの塔”…ではなく、”神の塔”へと足を踏みれた。
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