《努力を極めた最強はボッチだから転生して一から人生をやり直す》怪我
突如ともなく私の前に現れた彼は、私と同じぐらいの歳に見えます。
左腕は、ドラゴンの放った炎球にでもれたのか、外套は燃え、生のは灼け爛れ、一部は焦げてしまっています。
しかし、肝心の炎球は何処に行ったのでしょうか?
やっぱり、私は気が狂ってしまっていて、これは夢なのでしょうか?
そう思ったのも束の間、彼は振り返って右手を差し出してきました。
「ふむ。怪我はないようだが、ここに居ては巻き添えを食うだけだ。立てるか?」
彼の差し出す右手には紋様がありません。それは、神の祝福をけてない事を意味します。
そんな彼が、脅威しかないドラゴンに背を向けて私を気遣ってくれます。
ですが、そんな事をすれば、ドラゴンに隙を見せる事に他なりません。
「う、後ろっ!」
彼が背を向けたドラゴンが二度目のブレスを放とうとしていたのです。
私は聲を振り絞って危険を知らせます。
ですが、彼はチラリと橫目で確認しただけで、私の頭の上に安心させるかのように優しく手を置きました。
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「ふむ。立てぬならば、オレの背後に居れば良い」
ドラゴンが放った二度目の炎球が迫り來る中、彼は私の頭の優しくでます。
そして、直撃する寸前。炎球を見もせずに灼け爛れた左手で炎球をけ止め、軽く手を振うだけで呆気なく搔き消しました。
「う…そ…」
本當に、私は夢でも見てるのでしょうか?
有り得ない事が目の前で起きて、自分の目が信じられません。
ですが、彼の手の溫もりは本で、優しさの篭った手で安心させるかのように私の頭をでてくれています。
「ふむ。信じられない、と言った顔付きだな。だが、これぐらいは出來て當然だ。努力すれば出來ぬ事はない」
言い終えると、彼は私の頭から手を離して、ドラゴンへと向き直りました。
「よく見て、よく學べ。それこそが、努力の一歩だ」
地面に落ちている剣を足で拾い上げ、宙をクルクルと舞った剣を難なくけ止めます。
そして、腰を僅かに落とし、肩の力を抜いて剣先を地に向けました。
「ガアァァァアァァ!?」
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剎那、ドラゴンの片翼が元から斷たれました。
何が起きたのか、近くで見ていた私にもサッパリ理解できません。
ですが、彼が再度同じ勢を取り直すと、ドラゴンの反対側の翼が斷たれ、次に、足首が斷たれました。
「ふむ…」
このままトドメを刺すかと思えば、何かを考えるかのような仕草をして全くの別の方向へと視線を向けました。
「軽く弱らせておくか」
そう呟くと、彼は剣から手を離し、ドラゴンの前へと一瞬で移しーー毆りました。
けれど、所詮は子供のパンチです。
彼がどれだけ強くても、冒険者達が剣や槍で攻撃してもビクともしない頑丈な鱗を突き破る事なんてできる筈がありません。
そして、彼のパンチも同様に、ドラゴンの鱗に傷を付ける事は出來ませんでした。
だけど、私は自分の目を疑います。
なぜなら、彼が毆った鱗は、傷が付いたなどと言う小さな話ではなく、破壊されたからです。
私でも何をどう説明したら良いか分かりません。ですが、あの頑丈な鱗が砕け、ポロポロと剝がれ落ちたのです。
どれだけの冒険者が挑み、それでも尚、傷1つ付けれなかった鱗をいとも容易く破壊してのける彼に、底知れぬ恐怖を抱くと同時に、憧れを抱きました。
私も、彼のようにりたい。
そう思いました。
ドラゴンを何度か毆った彼は、瀕死となってけないドラゴンを橫目に、また明後日の方向を向いて何かを考える仕草をすると、私の元へと戻ってきました。
「オレの事は黙っておいてくれ。その方が何かと楽なのでな」
そう言って私の頭をでる彼の手は、とても溫かく、優しさに満ち溢れていました。
「ふむ。そろそろだな」
またです。また、明後日の方向を向きました。
私も彼に吊られて彼が見る方向を見ますが、誰もいない道があるだけです。
不思議に思って彼へと視線を戻すと、既にそこには彼の姿はありませんでした。
ですが、彼が居たと言う証は殘されていました。
可らしいハートマークが描かれた外套です。
私はそれを手に取り、にギュッと抱きしめます。
また、彼に會える日を願って晴れたばかりの空を見上げーー。
「居たぞ!アーク!アイツだ!」
「アイツだな!なぜかは知らんが、ボロボロだけどーー」
「「俺達、父親魂見せてやる!!」」
後から現れた、謎の男二人によって、ドラゴンは討伐されました。
ーーー
ふむ。あのり心地…。
なんとも心地良いものだったな…。
オレは用を終えたので、神の塔まで歩いて向かっている途中なのだが、やはり、なんだ…。オレの悪い癖だ。
獣人は頭をられるのを嫌うと言うのに、ってしまった。
あの小娘は、貓獣人と人間のハーフであったからか何も言わなかったが…ふむ。すまない事をしたと今頃になって悔いている所だ。
生憎とプニプニの耳は無かったが、それに似た髪型になっていたのが、またくるしいかった。
機會があれば、またらせてもらいたいものだ。
そうしているに、雨は止み、神の塔に辿り著いた。
気配を察するに、ラッテン達はオレの言いつけ通りにここへと來たようだ。
その他にも、何人かは人が居るものの、やはり、神の塔の頑丈さはそれほど知られていないようだ。
「ふむ」
オレが神の塔に足を踏みれると、それに素早く気が付いたラッテン達が駆け寄って來た。
「イ、イクス様っ!ご無事でしたか!?お怪我はありませんかっ!?」
「旦那様、腕…酷い…」
「あぁ…この様な大怪我を…私めが不甲斐ないばかりに…申し訳ございません…」
ふむ。ラッテンが何かした訳ではないのだがな。
「ふむ。なに、気にする事はない。多の痛みはあるが、これは、相手を甘く見過ぎだオレへの戒めだ。ダクダ草でも付けてれば治ると言うものだ」
「なっ!?い、いけませんっ!それは猛毒です!!」
ふむ。冗談だったのだがな。
ちなみに、ダクダ草とは、一滴の香りだけで何百人もの人を殺せる猛毒だ。しかし、葉だけになると効果は激減され、葉にれた箇所を腐らし、使えなくすると言った効果しかない。
即ち、葉を付けると言うのは、その腕を捨てると言う事に他ならないのだ。
昔に流行った軽いジョークなのだがな。
「ーーっ!?」
突如、左腕に猛烈な痛みが走り、顔を顰めてしまった。
何が起きたのかを確認すると、そこにオレの腕を突くかのような格好をしたミーネが居た。
どうやら、ミーネに突かれたようだ。
「なに強がってるのよ。やっぱり痛いんじゃないのよ」
呆れたようにジト目を向けてくるミーネは、ポケットをゴソゴソとほじくり、なにやら白い布が巻かれたを取り出した。
「ちょっと腕あげなさい。それじゃあ、巻けないじゃない」
ふむ。何を言っているのか良く分からぬが、悪意はじないので言われた通りにしておこう。
オレが腕を上げれば、ミーネは腕に白く細長い布を巻き付けて行く。
まるで、傷跡を隠すかのような行為だな。
そんなに酷く見えるのか?
耐がまだ付いていないようで、痛みがあるのだが、オレとしては焼けてかなくなっただけにじるのだがな。
所詮は腕が捥げるのとそう変わらぬぐらいだ。
「ミーネは良く怪我する。それは、ミーネの特製、痛み止めの包帯」
ふむ。言われてみれば確かに、痛みが多和らいだぞ。
「痛みを抑えてるだけだから、治癒は誰かにしてもらうのよ」
「ふむ。気が向いたら行こう」
これぐらいならば、治そうと思えば一瞬で治せる。
しかし、これは敵を甘く見過ぎだオレへの戒めなのだ。オレが前の強さを取り戻すまでこのままで居るつもりだ。
「気が向いたらって…バカでしょ…」
ふむ。酷い言われようだな。
「違う。旦那様には旦那様の考えがある」
そうではあるが、オレは旦那様ではないと何度言えばいいのだ?
「はぁ…」
ふむ。また呆れられてしまったな。
オレが呆れられる要素など、あったか?
〜〜〜
その後、オレの服を新調するにあたってリリルとミーネが言い合ったり、父達がドラゴンスレイヤーとして英雄扱いされて街を上げての宴になったりと々とあったが、遂にオレ達がこの街を発つ日になった。
「おぉー!!友よぉぉ!!」
「友よぉぉ!!」
隣で父達が熱苦しい抱擁をして涙を流しているが、それが友人と言うものなのだろうな。
「寂しくなる。また會える?」
「ふむ。オレは未來を見れぬ。だが、會おうと思えば、會えるだろうな」
人探しの魔法もあるぐらいだ。
努力すれば、それを會得できるだろう。
「イクス様。どうか、お元気で」
「ふむ。ラッテンも老いに負けるではないぞ」
「はい」
ふむ。別れ際に、そう哀しそうな表をするものではない。
どこかで聞いたが、別れ際には笑顔が一番らしいのだぞ。
「イクス。これ、持って行きなさい」
「む?…ふむ。戴いておこう」
ミーネが渡してきたのは、オレの左腕に巻かれた白い布と同じだ。
包帯と言うらしいのだが、生憎とオレとは関わりがなかったもので、詳しくは知らぬ。
怪我を隠し、痛みを和らげる効果があるぐらいだ。
「よしっ!行くぞイクス!男なら、別れを惜しむな!振り返らずに行くんだぞ!」
父が涙を流しながらオレの手を摑んで引っ張って歩き始めた。
まるで、自分自に言い聞かせているような言葉で、涙で顔がグチャグチャだ。
振り返ると、アークは涙を流しているが、ミーネ、リリル、ラッテンは手を振ってオレ達を送り出してくれていた。
オレも軽く手を挙げて、父と共に彼等と別れた。
ちなみに、馬は置いて來た。
オレ達と共に來るのを嫌がったのもあるが、一番の理由は、トレールに馬は載せられないかららしい。
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