《努力を極めた最強はボッチだから転生して一から人生をやり直す》ふむ。特訓の続きだ。
「心を落ち著かせ、意識を研ぎ澄ます……眼で見るのではなく、己が心で見る……」
オレの言った言葉を何度も口にしながら、剣に魔力を纏わせてアイアン・トータスに切り掛かるタクルス。
だが、まだダメだ。
アイアン・トータスの甲羅に木剣が弾かれると共に反撃の突進が繰り出されるが、それを木剣を盾にする事で威力を緩和しつつ後方に跳ぶ事で、威力を全てけ流す事には功している。
始めの二度の戦闘で、アイアン・トータスとの戦闘においての立ち回りは出來るようになったようだ。
しかし、避ける事が上手くなっても、ここでは意味がない。全てを斬り裂く剣技を覚えてもらわなければ、この先へと進めぬのだ。
「まだだ。まだ魔力が荒い」
「言われなくてもっ!」
そう言うと共に、再度、アイアン・トータスに切り掛かるタクルス。
だが、またしても弾かれ、反撃され、跳び上がって回避する。
何度も何度も同じ事を繰り返すが、その度に弾かれ、反撃され、回避する。
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木剣も既に20本程も潰されている。その辺の木を削って作っただが、殘りが心ない。
……ふむ。功しない理由を、どう説明したものか…。
なにぶん、オレは人にを教えるのが苦手なので説明が難しくじる。
サリアの時は、ひたすら真似をさせていただけなのだ。兄にも教えてはいたが、大半はサリアに任せっきりであった。
つまりは、教え方が分からぬ。
過去の記憶を掘り返そうも、人にを教えた記憶の殆どが消えている。憶えていたとしても、一方的に事を教える…と言うよりも、押し付けていた記憶しかない。
これがあるからこそ、オレ自でクラスメイトに教えようとは思わなかったのだ。
とは言え、一番の理由は、教えたとしてもオレの話を聞く者がなそうであったからだがな。
…ふむ。これを機に、しばかりオレも事を教える努力をしてみるか。
再度、吹き飛ばされるかのように戻って來たタクルスに考えに考え抜いた教えを與える。
「剣に魔力を流してみろ」
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「やってる!」
ふむ。やはり、ループのようには行かぬな。
オレが言いたいのは、そうではないのだ。
「剣の側だ」
「どう言う事だ、よっ!」
言い終えると同時に、またもやアイアン・トータスに切り掛かりに行くタクルス。
やはり、オレの説明が下手で最後まで話を聞いてくれぬようだ。
だが、オレは諦めぬぞ。
再び戻ってきたタクルスに、行ってしまう前に口早に説明する。
「周りに纏わせるのではない。から流すのだ」
「だから、やってるだろっ!」
「ふむ。ならば、もう一度見せてやる」
やはり、口で説明するのはオレには早過ぎた。
なにも教えるのは口だけでなくても良いのだ。行で示すのも、教えるに値するだろう。
「オレの最後の魔力だ。良く見ておけ」
タクルスには、もう回復は出來ないと伝えているので問題はないだろうが、それでも忠告はしておく。
一応、もしもの時の為に回復魔法一回分は殘していたのだ。
だが、これで本當に回復させる事が出來なくなる。
「手に持った武は一心同。己がの一部だ。で魔力を流すように、剣にも魔力を流す。そして、余剰分で剣を覆う」
一つ一つ説明をれながら、その通りにの魔力をる。
…これの方が説明し易いな。
なにせ、自分の行なっている行を口にしているだけなのだからな。
木剣の側から仄かな青白い魔力がれ出し、剣を覆うように纏わり付き始める。
普段なら、魔力の消費量を視野にれ、敵に當たる寸前だけで済ます所だが、ゆっくりと、タクルスに理解して貰えるように行う。
「鋭く。より鋭く、鋭利に。全てを斬り裂く刃を思い浮かべ、そしてーー」
木剣に纏わり付く魔力が、オレが可能とする最高の斬れ味へと達した瞬間ーー木剣を橫一線に振り抜き、眼前に居た三のアイアン・トータスを真っ二つにした。
本當は一を狙ったつもりだったのだが、勢い余って三も斬り伏せてしまった。
制度が足りてない証拠だ。オレもまだまだ努力が足りてないな。
「分かったか?」
「あ、ああ…」
歯切れの悪い返事が返ってきたが、タクルスの瞳を見る限りだと理解はしているのだろう。
その瞳の中に若干の怯えが混じっていたのは見なかった事にしよう。
〜〜〜
それから、ものの數回でタクルスは剣技魔法《武強化》を取得し、周囲に集まりつつあったアイアン・トータスを全て倒した。
一太刀とはいかずにし苦戦はしていたがな。
「で、こんな大層な技を俺に教えて、何をさせるつもりだ?」
そう訝しむな。
理由など単純なものだ。
「この迷宮ダンジョンを打破してもらう」
「…は?…聞き間違えか?今、迷宮ダンジョンの攻略って…」
「ふむ。そう言ったのだ」
「いや、いやいや、無理だろ。ここだけで、これだけ苦戦してんだぞ?先に進むって意味分かって言ってんのか?」
「分からずして言う訳がないだろう?」
暫くの間、睨み付けるかのような眼を向けてくるタクルスと見合い、そして、先にタクルスが折れた。
「……はぁ…。分かったよ。行けばいいんだろ?行けば…」
「ふむ。案ずるな。褒はある」
「そうかよ…」
生返事を返しながらタクルスは先へと歩き始めた。
下へ降る階段が何処にあるかも知らないのに。
まぁ、良い。これも経験だ。
タクルスと共にダンジョンを歩き回り、小一時間。アイアン・トータスしか出ない階層な為、徐々に戦闘を終えるペースが早くなってきて、タクルスにも余裕が見え始めた頃。
無言の時に耐えきれなくなったのか、聲を掛けてきた。
「なぁ、一つ聞いていいか?」
「ふむ。なんだ?」
「どうして俺にあの技を教えたんだ?」
「…お前が知らなかったからだ」
「それだけか?」
ジッとオレの目を覗き込んで真偽を突き止めようとするタクルス。
その姿勢は良いが、やり方がまだまだだな。
やるならば、相手を拷問してでも吐かせるのだ。
…っと、質問の最中であったな。
「ふむ。お前の実力はクラスメイトにを教えるのに不十分だと判斷した。なので、短時間で”レベル”を上げて貰おうと思ったのだ」
「俺がを教えるのに不十分って言うのは納得いかねぇけど、それよりも、レベルってなんだ?」
「む?分からぬのか?」
「ああ」
ふむ。この時代には”ステータス”と言う概念がないのか?
レベルを知らないとは、そう言う事なのだろうが…どう説明したものか…。
「まぁ、経験とでも思っておけ」
「そうか」
オレも転生したおで魔眼を失い、相手のステータスを見る事が出來なくなってしまっている。なので、今のオレではタクルスのレベルを確認する事は出來ない。
しかし、実力不足と言う事は理解できる。タクルスよりも強い者がクラスメイトの中に居るからな。
オレも知らなかったが、ループは知っていた。
ループには魔眼が備わっているのだろうか?
「……よく考えれば、お前がアイツ等に教えたら良いんじゃねぇか?」
「それで彼奴等が納得すると思うか?」
オレの答えにタクルスは僅かに思案顔をした後、オレが言いたい事を理解したのか、苦笑いを浮かべた。
「…しねぇな。幾らお前が強くても、偉そうな態度とかが気に食わない奴も居るだろうしな」
む…?オレは偉そうな態度をしているのか?
フレンドリーにしているつもりだったのだが、そうではなかったのか。
…なんだ。その、かなりショックだな。
「もしかして、気付いてなかったのか?」
「あぁ…」
「マジかよ…」
し喋り方を変えてみるか。
……そうだな。前世の、一番初めであるオルタナの時の喋り方にするか。
「では…この喋り方ならどうかな?僕の元々の喋り方なんだけど?」
「……なんか、気持ち悪いな」
「そっか…」
「…すまねぇ」
「「………」」
うん。元の喋り方に戻そう。
気持ち悪いって言われ慣れてるけど、やっぱり辛いもん…。
「ふむ。ならば、この喋り方でいかせてもらう」
「やっぱり、お前にはそれがお似合いだな」
だとすれば、偉そうな態度はどうすれば直せるのだ?
まぁ、タクルスはこれで良いと言っているので、このままで行かせて貰うか。
「では、そろそろ階層を降りるか」
「は?」
「この階層の魔が減った。ここにこれ以上居ても、無駄だ」
「いや、そうじゃなくて…知ってたのか?」
「何がだ?」
「階層を降りる道だよ!」
「ふむ。このダンジョンの地図は全て暗記している。構造がし変わっているが方は理解した」
「やっぱ、お前って、とんでもねぇな…」
「む?」
何の話だ?
まぁ、良いか。
次は、ボス部屋のある階層だ。
タクルスには頑張って努力して貰うとするか。
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