《Lv.1なのにLv.MAXよりステ値が高いのはなんでですか? 〜転移特典のスキルがどれも神引き過ぎた件〜》《幕間》勇者訓練の中で 1

エイジたちが旅に出た當日、勇者寮では朝から勇者たちのための特別訓練が開始されていた。

それまでは座學で魔達の整について習ったり、自を守るのに最低限必要なだけの剣、槍、魔法を教わったりしていただけだったのだが、昨晩、騎士団長が計畫通りにことを進めるためと唐突に特別訓練を通告したのだった。

現在は早朝の準備運と稱して、剣を持ち鎧を來た狀態で寮の周りを十週走るというランニングを行っていた。

訓練なのでレザーアーマーで行えばいいものを、わざわざプレートアーマーで行うために計千人を超える生徒と教師の集団は20キログラムの重りを背負って、約100キロを走らされている。

いくら転移時の強化があるからと言っても、流石にこれはきつい。

集団の戦闘を走る小泉健太郎はふと思いついたようにつぶやく。

「……あいつもこれくらい運すればもっとシャキッとするんだろうけどな」

それは、今この場にいないクラスメイトに向けて投げられた言葉であり、健太郎はまだ彼がこの世界に來ていないのだと信じ込んでいた。

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「健太郎、あいつって?」

健太郎の橫を走る陸上部の菜(アイナ)が、彼の言葉に反応を示した。重い鎧を來ているにも関わらず、健太郎よりも走りに余裕が見けられる。

そんなおそらく彼のことが好きなのであろうこの褐は、自分以外の人間が彼に語られることに々憤りをじているようだ。

「あぁ、エイジの事だよ。ほら、いつもずっと寢てるやつ」

「……健太郎って、あいつと仲良かったっけ?」

「俺は、なくともクラスでは一番仲が良かったと思ってるよ」

菜の低く何かを押し殺したような聲にし違和を覚えながらも、健太郎は答える。

「いつから?」

なぜ聞かれたのかもわからないし、割と走るのがきついのでそろそろ話すのをやめたかったのだが、エイジとの思い出を思い出す健太郎の口は語り始めた。

「あれはもう一年前のことになるのか……」

それは、今この場にいない彼に向けての言葉でもあった。

◇◇◇

始業式、爽やかな春の風とともに新しい季節がやってくる。

まるでスピーチのようだが、俺は実際にこんなふうに思ってる。

「さぁ、行くか」

學校の正門の前に立ってしばらく桜を眺めていたのだが、育館に人が集まり出したので急ぎめでそちらに向かう。

途中ふと上を見上げると、屋上のフェンスにもたれかかってスマートフォンをいじる生徒がいる。

「ありゃあ新學期早々生徒指導だな……」

呆れながらも、自分がそうなるわけには行かないので俺はそのまま育館へと走った。

◆◆◆

始業式が終わり、教室へと向かう。新しい教室は校舎の南端で窓から心地いい風が流れてくる。

俺の席は教室の中心の列の最後尾だった。いい場所だ。

そしてホームルームが始まり一人ずつ挨拶をしていくのだが、何故か俺の前の席だけが空いていた。

始業式の日から休みなのだろうか?

「……あぁ、ちょっと悪い、みんなこのまま待っててくれ」

と、擔任の城木が言って教室を出ていったので、クラス達は仲いい人間と固まって話し出した。

俺はそのまま待てと言われたので座ってそのまま待っていたけれど。

5分ほどして城木が誰かを引き連れて帰ってきた。

「あぁ、悪い。紹介が遅れたが、今日からうちの學校に通うことになる速水(ハヤミ)映士(エイジ)だ。速水、席はあの最後尾から2番目のの空いてるとこな」

城木が面倒くさそうに橫に並ぶ彼のことを紹介する。だらしなくびた眉にかかる前髪、目の下にはとても一日の徹夜だけでできるものとは思えない隈が出來ていて、彼の生活のだらしなさが伺える。

あいつ、屋上でスマートフォンってたやつか。

「速水映士ですヨロシク。皆さんとは當たり障りない有意義な學校生活を築いていきたいと思っているので、どうぞ積極的に関わってこないでください」

生の存在に湧いたクラスメイトが一瞬にして沈んだ瞬間だった。

◆◆◆

面白がった不良たちが速水に何度も聲をかけるも、無視されるか寢ているかで1度も彼らの話を聞いている姿は見たことがない。

あのあと俺は學級委員に任命され、城木に彼の生活指導を手伝うように頼まれたので、積極的に彼に関わるようになった。

「おい、速水。授業中くらい起きてろよ」

「……」

數學の授業中になんの躊躇もなく眠りにつく速水。

次は彼が當てられる番なのだが大丈夫だろうか。

「おい、速水! 起きろ。さぁ前に出て黒板の問題解きぃ!」

関西弁っぽく喋るのが好きな數學の時田が速水の背を何度が叩いて起こす。

「んぁ? あ、はい。俺の番ですか……」

起きた彼は一言そう言って黒板の方へと気怠げに歩いていく。

すると、素早く白いチョークを手に取り、黒板に答えをスラスラと書き始めた。

「おいおい、噓だろ?」

「あの眠りのハヤミが?」

「どうせ間違ってるって」

「高スペ主人公野郎かよ」

クラスメイト達が口々に彼のことを囃し立てる中、當てられた問題以外の答えをも全て解いていく速水。

そして、すべての問題を解き終えて、チョークを置いて席に戻ってきた。

「では、また眠らせていただきますので何かありましたら起こしてください。時田先生」

そういうと再び席で眠りについた彼は、俺の目にはひどく異端に見えた。

なぜこんなに出來るものがあるのに、自分に不利になることばかりしているのだろう。

授業中の睡眠に校でのスマートフォン使用。屋上の無許可使用その他もろもろを彼はいつも咎められている。

そんなやつがなぜだかどうして、俺は気になってしまっていた。

どうしてあんなに出來る人間が、これほどまでに自分の人生を捨てたような行をとるのかと。

そう思ったら俺はいてもたってもいられずに、彼にその言葉をぶつけてしまっていた。

◇◇◇

「あの時はなんだかんだであいつのことおかしいやつだなって思ってたよ」

「いや、今でも十分おかしい奴でしょ、一人だけこの世界に來てないし」

「いや、案外どこかにもういるのかもしれないぞ? あの時みたいに、俺達がこれからやるはずだったものをついでに片付けてるかもしれない」

実際そんなことは微塵も思ってなかったりするのだが、もしそうなっていたら面白いな、と健太郎は思った。

「そこまでハヤミが人間ができてるやつだとは思わないけどなぁ」

軋むプレートアーマーの音とみんなの規則正しい足音が響く中、健太郎は今度友人にあった時にあの時のことをまた聞いてみようと思うのだった。

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