《Lv.1なのにLv.MAXよりステ値が高いのはなんでですか? 〜転移特典のスキルがどれも神引き過ぎた件〜》ベースキャンプに何かいるのですが?
コウジがベースキャンプの近くに馬車を止め、馬たちに待っているように言う。
「ほら、起きてよ三谷チン!」
小聲で急かすようにヤン兄を起こそうとするコウジ。しかし、睡しているヤン兄はなかなか起きる気配がない。
「仕方ない。シルティス、ヤン兄が起きたら先にベースキャンプに向かったって言っておいてくれ」
「えぇ!? 私留守番!?」
「どちらにしろ魔族なんだから、人が殘ってたら驚かせちまうだろ?」
「ま、まぁそうなんだけどね?」
心底殘念そうにしているが、仕方ないでしょうが。あなた、尾が隠せてないから。
人の暮らしにでも憧れてるカワイイ系魔族ヒロインの地位を目指してるのかな? BBAだけど。
悔しそうにその紫の髪を人差し指に巻き付けてクルクルといじる姿は、ロリコンのみなさんから見たららしいものだろう。
お前はどうしたかって? いやだなぁ、バカにしないでもらいたいな、俺は2次元にしかなびかんよ!
「じゃあ待ってる……ちっ」 
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「おう。頼んだ」
一週間でホント丸くなったと思う。シルティスもヤン兄も。
シルティスは俺のせいで格が化したのだろうけど、ヤン兄は理由不明だな。まぁ、今のところ俺に対する敵意はないから大丈夫だけど、これから旅をする中で急に裏切られたら面倒だから、いつか理由は把握したい。
「エイジ、行くよ?」
コウジがベースキャンプの裏門を使ってることを提案したのでそれに従って、馬車のの真反対の方向に徒歩で移した。
ベースキャンプの近くまでたどり著くと、何故か異様な雰囲気が漂い、中から腐臭が流れてくる。
「なんだ、これ……」
コウジの口からあまりの異様さに驚きの聲がれた。
……ベースキャンプで、安心してひと眠りできそうだと思ったのに、そうはいかないかもしれない……建焼け落ちてるし……
しばらく歩ると、ボロボロで錆びかけの鉄の扉が目の前に現れた。
「これが裏門」
コウジが靜かにそういうと、事前に持っていた門の鍵を鍵に差し込む。
ガチャリと音を立て、軋む音を響かせながら開く扉は、ホラー映畫のワンシーンに自分が迷い込んだように思わせる程に不気味だった。
「……うっ……」
中に広がるのは一面に広がる死の山。俺はあっけに取られることしか出來なかったが、コウジは知り合いも多かった分余計に気分が悪くなったのかもしれない。
口元を押さえ込んでその場で嗚咽を繰り返した。
「コウジ、馬車戻ってろ。巻き込んだら悪いから」
あんな調子が悪い狀態でここで何かがあったら、共倒れになるかもしれない。
シルティスの時だって危なかったんだ、コウジには悪いが、ここは俺一人で進ませてもらうしかない。
「え、ちょっと!」
後ろでぶコウジを置いて、俺はベースキャンプの中心へと歩を進めていく。
◇◇◇
一つ一つがポール式のテントのような構造をしている建。中心に向かえば向かうほどボロボロにくちており、外周のテントは焼け落ちている。
なにかに襲撃されたのではないか、という考えが浮かび、それが確信に変わるのにそう長い時間はかからなかった。
腐臭が漂う中瓦礫の上を歩いていくと、目の前に狼のような頭をした人形の怪がまだ息のある人を貪り食っていたのだ。
「……うわ、マジか」
この世界に來てから見た魔達は、異形の化か、シルティスのような人型の魔ばかりだった。
「ステータスオープン」
靜かにそう呟くと、魔のステータスが表示される。
『グール 
Lv97
以下個人報により匿』
グール……地球ではよく名前を聞く怪だな。人を食う化けだったか。いや、を漁る化け?
でもそれだと合わないんだよな、々。この世界のグールは生きた人を食べるように進化したってことだろうか。
レベルも高いことからここにいた猛者達がこいつにやられたのは明確だろう。
遠距離攻撃でなるべく仕留めるか、近距離で速攻かけてボコボコにするか。
遠距離攻撃のコントロールはまだ出來ていないからしくじった時のリスクが大きい。近距離戦でもリスクはあるがそれこそ遠距離攻撃を打った後の待機時間などを考えれば、まだ近距離戦の方が勝機はあるかもしれない。
「『コネクト』『思考加速』」
強化系のスキルの中で比較的背負うリスクが小さいスキルを選択し、危機回避能力を上昇させる。
瞬間周囲の空間の速度が遅くなったようにじ、視界が一気に広がる。この速さなら、何とかやつを倒せるかもしれない。
思考加速の速さを速めたので、さらに能力を加速する。
「『覚醒』」
『覚醒』は5分しか俺のがもたないので、5分以で戦いが終わらせる。能力も思考能力も馬鹿にならないくらい加速しているので、今の時間は5分が30分くらいと言ったところか。
『グルォォオォォオオオ!』
こちらに気づいたグールがゆっくりとこちらに向かってくる。俺にはゆっくりと見えているが、実際は割と早く走っているのかもしれない。
「『オーバーライト』」
グールが向かってくるまでの間に、思考が加速した脳で『俺は今折れない剣を持っている、世界で一番強い剣士だ』と思い込む。
一時的に幻想が現実に変わるこのスキル。普段はあまり使える場面がないが、いざ使ってみると案外使えるかもしれない。
シルティスに聞いていた『閃帝』の剣技、『一閃』の型を真似して強く思い込みをつづける。
『グルォォオォォオオオ、ギギィガァァァァァア!』
全てがスローと化した俺の世界で、グールがゆっくりと俺の頭に自分の口を近づけているのがわかった。
おそらく頭から味しく頂戴するつもりなのだろう。
「『一閃』!!」
俺の手から放たれた白いの斬撃は、手から飛び出したと同時にグールの上半と下半を分斷していた。
シルティスに教えて貰ってよかったわ、これ。本當は剣がないと使えないらしいんだけど。
吹き散る紫のが辺り一面にスロー再生で広まり、ころがる死のが紫に染まる。
「『焔葬』」
またもや思い込みで新たな魔法を開発し、グールと死の山を赤々とした炎で燃やしていく。
躊躇なく人の形をした化けを切れた自分のことを、正直恐ろしく思った。うわー、俺人も殺れるようになってしまうのでは……人道外れたくないでござる。
この世界に慣れすぎたら、嫁たちのことを今までのように見ることが出來るのだろうか。
日本よりも命の価値が思いこの世界で命を消す、その意味の重さが俺の最後のプライドであるヲタクであるということすらも、どこかに洗い流してしまいそうで恐ろしい。
「はやく……家に帰らないと……」
自分以外に誰も居ない、懐かしいあのマンションのワンルームを思い出しながら、燃えた死の上を歩いてベースキャンプの外へと歩を進める。
「スキル全解除」
瞬間、すべての思考が一瞬シャットアウトされ、遠のく意識の中俺は思った。
―眠りたい―
ずっと眠っていたい。夢から出たくない。その場からきたくない。
人が死んでいる様子を見て、『俺も眠りたい死にたい』と思った。帰らなきゃいけないのに、なぜ、どうして?
理由はわからない。考えたくもない。
―エイジ、ἐλπίςを目覚めさせろ―
薄れゆく意識の中で誰かの呼ぶ聲が聞こえたが、それに応えるだけの気力はもう俺にはなかった。
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