伊藤幸助は心ここに在らずの狀態だった。朝起きたらいきなり知らされた國王からのユウの死の知らせ。驚きとクラスメイトへの失が心を包んだ。仲間が１人死んだというのに無能が死んでやれ良かった。やれ嬉しい。こんな奴らクラスメイトとはもう思えない。

「おらおら！気抜いてると殺すぞ！」

「っすみません！」

この人は騎士団4番手アランさんだ。俺と同じ格闘家だが俺を殺す気で訓練の相手になっている。昨日はHP7まで追い込まれた。

「ふう。」

すると、さっきまでのボクシング選手顔負けの激しいラッシュがいきなり止んだ。と思ったら、

「もうやめだ。」

「はっ？」

俺はその言葉に耳を疑った。あそこまで殺そうとしたのになぜ急にそんなことを言うのか分からなかった。

「な、なぜ！」

「お前、仲間が死んだこと引きずってるだろ。」

的確だった。いやそんなこと普通の人間なら分かるか。當たり前だ仲間が死んでも涙もないようなこの人も悲しくないわけないだろう。

「當たり前でしょう。」

「戦場ではそんな気の緩みが左右するぞ。」

「悲しむなというのですか！」

「引きずるなということだ！」

怒気をはらんだ聲が俺のを震わせる。暑くないのに汗がどこからでも吹き出る。

「死んだ人をいくら嘆いても！何も変わらない！」

「……」

「なら前を見ろ！人はいくら後ろを向いても前にしか進めない！」

「……」

聲が出せなかった。そうだ、俺は嘆いてただけ、後ろを向いていただけ、そんなことをしても逃げているだけだ。前を向かないと。

「申し訳ありません。俺は引きずってるだけでした。でももう前を向きます。」

「分かった。なら殺す気で行くぞ！」

そして、拳がぶつかり合う音が天高く響いた。