《発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。》37話

さあ、どうする。百鬼 樹よ。

目の前に立ちはだかるのは、木製の扉。

これを開けるのは簡単だろう。

しかし、問題は開けた後だ。

もしかしたら扉の先に、シャルが待ち構えていて―――グサリ、という可能も無くはない。

「……何をしているのだ。開けないのか?」

「うるせえよ!ああクソ、シャルが怒ってたの完全に忘れてた……!」

ウィズが泣き止んだ後、『クイック』を使って『アンバーラ』に帰ってきた。

……のだが、シャルのヤンデレスイッチがってたのを、すっかり忘れていた。

「……った瞬間、包丁で刺されるのは勘弁だな」

今回のジャック・ザ・リッパーのおかげで、刃の危険がわかった。

もし『ゾディアック』の中に、武を使うやつがいたら……俺じゃ勝てない、というのもわかった。

だって素手で刃に勝つのって不可能に近いし……

「……ま、刺された時の事は刺された時に考えるか」

「……イツキは案外適當なんだな」

冷や汗を隠し、シャルと刃に警戒しながら扉を開け―――

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「い、イツキさん!大変です!」

「うおぉ?!……あれ、怒ってないのか?」

「そんな事言ってる場合じゃないんです!」

―――慌てた様子のシャルが、刃ではなく手紙を差し出してきた。

「……俺、手紙に良い思い出がないんだよな」

ランゼの時の手紙とか。

「と、とりあえず見てください!お父様からです!」

「お父様って……グローリアスさんからか」

グローリアスさんから手紙……なんだろう、嫌な予しかしない。

「……なあ、中を見ないで送り返すってのはダメか?」

「ダメです!それに、今回の手紙はイツキさんにも関係のある容が書いてあるんですから!」

俺に関係のある……か。

変な容でない事を祈りつつ、手紙を開いた。

……うん。一応、読めなくはないな。

『イツキ君、朗報だ。

『水鱗國』の王、『水鱗王』が『七つの大罪』の1人だと判明した。

今度『水鱗國』に行こうと思っているのだが、一緒に向かうか?

返事を貰えるとありがたい』

……うん?

「……『七つの大罪』……『水鱗國』の王が?」

「はい……どう思いますか?」

「どう思うって?」

「『七つの大罪』の事です。真実だと思いますか?」

……つまり、噓ではないのか?と言いたいのか。

まあ確かに怪しいし、手紙には『七つの大罪』とは書いてあるが、どの罪とまでは書いていない。

「……まあ、どんな條件で『七つの大罪』になるかわかんねえからな……なあウィズ?」

「うむ……いつ誰が『七つの大罪』になるなど、わからないからな」

刻印が刻まれる右手の甲……嬉々としてそれを見せるウィズが、得意気に俺の橫に立つ。

……中二病的には、あの紋様はカッコいいってなるのかな。

「……え?それってまさか……」

「『怠惰』……我に刻まれた大罪の名だ」

「『怠惰』……!ランゼさんと『水鱗王』を合わせたら、『七つの大罪』が3人……スゴいです!この短期間で、3人も見つかるなんて!」

……しかし……『水鱗國』か。

俺は『騎士國』に行こうかと思ってたんだけどなあ……

「……今回はいいや。俺は『騎士國』に行きたいんだよ」

「『騎士國』……あ、この前言っていた『英雄』が気になってるんですか?」

「まあ……そんなじだな」

……でも、どうやって行こうかな……

俺が『騎士國』に行きたいってのは、多分みんな知っている。

……正直、俺は1人で行きたかったんだよな。

俺1人だったら『クイック』で簡単に移できるし、ストレアの無駄な観に付き合わなくていいし。

「……馬車がしいな」

「それでしたら、お父様に頼んでみてはどうですか?」

「グローリアスさんに?」

「はい!手紙の返事をしに行くついでです!」

ああそっか。

返事をくれって書いてあったな。

「……んじゃ、グローリアスさんの所に行ってくるわ」

「付いて行きます!」

「……ウィズはどうする?」

「そうだな……特にやることも無いから、付いて行くとしよう」

―――――――――――――――――――――――――

「イツキ君、來てくれたか」

「はい。お久しぶりです」

いつもの王宮……いや、すっかり馴染んでるけど、俺みたいな一般人が王宮なんかにホイホイ來たらダメじゃね?

「それで……『水鱗國』へ行くのだが、イツキ君はどうする?」

「……せっかくのいですけど、今回は遠慮しときます」

「そうか……何か予定でもあったか?」

「はい……ちょっと『騎士國』に行こうかと思ってて、馬車を借りたいんですけど」

「『騎士國』に……?」

『騎士國』という言葉に、グローリアスさんが首を傾げる。

「ふむ……馬車を貸すのは構わないが、何故『騎士國』に行くのか聞いてもいいかな?」

「なんか……『英雄』って呼ばれる人がいたらしいんで」

「その者について調べたい……という事か」

この人、頭の回転早いな。

さすがは1國を治める國王……だな。

「……それでは、私から『騎士王』に手紙を書いておこう」

「え……手紙、ですか?」

「うむ……私の手紙があれば、弟は『英雄』の報をイツキ君に教えるだろう」

なるほど……確かに、『人王』であるグローリアスさんの手紙があれば―――

「ちょっと待て……弟って、誰がです?」

「『騎士國』の國王……『騎士王 エクスカリド・ゼナ・アポワード』……私の弟だ」

おおう……兄弟揃って國王かよ。

「ちょっと待っててくれ……すぐに手紙を書いてくる」

「あ、ありがとうございます……」

―――――――――――――――――――――――――

「グローリアスさんと『騎士王』が兄弟だなんて知らなかったな……」

グローリアスさんに貰った手紙を片手に、屋敷への帰路を辿る。

「そうなのか?『人王』と『騎士王』が兄弟だというのは、我でもき時に習ったぞ?」

「いや、まあ……」

「……イツキは小さい頃から戦闘の訓練ばかりしていたと言っていたからな。一般教養が無いのも仕方があるまい」

「一般教養が……無い?」

ウィズの言葉に、シャルが俺を見上げる。

……ああ。そういや戦闘訓練ばっかしてたとか言ったな、俺。

「……シャル、ウィズ。ちょっと武屋を見ていいか?」

「武屋……ですか?」

「別に構わんが……どうしてだ?」

「さっきの殺人鬼と戦って……やっぱ武には武で対抗するべきだと思ったんだよ」

「そうか……そういえばイツキはあの剣のようなを素手で摑んでいたな」

そう。素手だ。本當に痛かった。

掌の皮を切る程度で済んだから良かったけど……摑み方次第では、パックリいかれてもおかしくなかった。

「……近接戦闘は、正直武がないと相が悪いよな」

「いらっしゃいませー」

とりあえず、近くにあった武屋にる。

を見回し―――近くにある槍を手に取る。

「……使いにくいな……」

「それでしたら、こちらのメイスはどうです?」

にこやかに微笑む店員が、重そうなメイスを差し出してくる。

「……使えないわけじゃない、か」

「ふむ……イツキがメイスを振り回しているのを想像したら、なんか面白いな」

「何でだよ」

別にそんなに変じゃ―――いや、俺がメイスを使ってる所を想像したら変だわ。俺にメイスは似合わないわ。

「んー……ん?これ籠手ガントレットか?」

「そうだな……そういえばイツキは拳で戦うよな?それなら籠手ガントレットがいいんじゃないか?」

うーん……籠手ガントレットが頑丈なら考えるけど……なんか『フィスト』の衝撃に耐え切れなさそうだし。

「イツキさーん!これなんてどうですかー?」

「……シャル、それは……」

「見たじ、この店一番の業だと思いまして、持ってきました!」

「お嬢さん、良いに目を付けましたね。それは當店一番の品『魔剣』でございます」

シャルの手に握られる剣を見て、店員が得意そうに説明を始める。

「その剣の特徴は、重心が剣先にあることです。多の振りにくさはありますが、その分破壊力があります」

「……へえ」

「そして何より、その剣の刀には『消魔石』が使われております」

「『消魔石』……?」

「魔法を無効化する鉱石の事です」

俺の疑問に答えるように、剣を持つシャルが続ける。

「『炎魔法』でも『水魔法』でも、どんな魔法でも無効化してしまう鉱石……それが刀に使われているという事は―――」

「魔法を切ることができるってか?」

「はい!」

無邪気に笑うシャルが、『魔剣』を手渡してくる。

……嫌だ。りたくない。

拒絶する俺の意思とは無関係に、右手が剣に向かってびる。

はわかっているんだろう……目の前にあるが、俺にぴったりの武ということが。

「……………」

「どうです?」

「……ああ」

魔剣を握り、問い掛けに空返事を返す。

……ムカつくくらいに、しっくりくる。

「……イツキ」

「なんだウィズ」

「いや、その……大丈夫なのか?」

「……ああ、心配してくれてんのか?」

「それ以外に何だというのだ」

……そういや、ウィズには話してたな。俺の昔話。

俺は剣が嫌い……というより、剣道に関係するあらゆるものが嫌いだ。

でも魔剣は剣で、竹刀は刀……似ているようで違う。

……だが。

「……悪い……剣はダメだ」

「そうなのですか?」

「ああ……ゴメンな」

魔剣を元の場所に置き、俺たちは武屋を後にした。

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