《発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。》53話

「グローリアスさんッ!」

「ど、どうしたのだイツキ君?」

荒々しく扉を開け、玉座に座るグローリアスさんを見つける。

そのグローリアスさんの隣に、見覚えのあるが立っていた。

「あらイツキさん、久しぶりね」

「久しぶりですエリザベスさん!シャルはどこですか?!」

「え……シャル?」

「4日くらい前にシャルがここに來たはずです!どこですか?!」

早足に近づき、噛みつく勢いで問い掛ける。

「4日前、だと?エリザベス、シャルは來たか?」

「はい、來ましたよ。その時あなたはお風呂にってましたけど」

「シャルはなんか言ってましたか?!」

「うーん……あ、そういえば……グローリアスの服のポケットを漁あさっていました」

「私の……ポケットを?」

グローリアスさんがローブのポケットに手を突っ込み―――紙切れのようなを取り出した。

「……シャルは……これを見たのか」

「それ、なんですか?」

「……『森國』からだ」

『森國』……『森王子』からか?!

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「見せてください!」

「う、うむ……」

奪い取るようにして手紙をけ取り、中を見る。

『『人國』に暮らす愚かな猿どもよ。

我々『森國』は、貴様ら『人國』と敵対することを決めた。

我々と敵対したくなければ、『人王』の娘を『森王子』に差し出せ。

賢明な判斷を期待する』

読み終え―――手紙を握り潰した。

「……どういう、事ですか」

「それは私たちが『水鱗國』に滯在している時に、『人王』に屆いた手紙でな……家臣が気を利かせて『水鱗國』に持ってきてくれたのだ」

「俺が聞きたいのはそれじゃないですよ……!なんで、こんな話になってるんですか……!」

「それについてはわからぬ……この手紙がいきなり屆いたのだ」

沸々と込み上げる怒りを抑え、頭を回転させる。

……シャルは……これを見て、『森國』に行ったのか?

「……バカか……!あいつは、本気でバカか……!」

「イツキ君……シャルに、何かあったのかね?」

「……実は―――あれ?」

ポケットを探り―――さっきの手紙が無いことに気づく。

……あ、そういやランゼに叩き付けたわ。

「……実は、シャルが―――」

「イッチャン!」

俺の事をイッチャンと呼ぶのは、1人しかいない。

肩を上下させるサリスが、汗だくの手で手紙を渡してきた。

「ランゼちゃんから!忘れだって!」

「……ああ……すまん」

「あと、帰ってきたら覚えておきなさい、って!」

「……ああ」

手紙を叩きつけられた事に怒っているのだろう。

まあでも……助かった。

「グローリアスさん、これを見てください。エリザベスさんも」

「うむ」

手紙を見た2人は―――表を変えた。

片方は驚愕に、片方は怒りに表を染め、視線を俺に向けてくる。

「……これは?」

「さっき屆きました」

「何という事だ……?!シャルが、1人で『森國』に……?!」

怒りに震えるグローリアスさんが、視線で訴えてくる。

……ああ……わかってる……というか、元よりそのつもりだ。

「イツキ君」

「任せてください」

手紙をサリスに返し、王宮を出る。

向かうは―――1つだ。

―――――――――――――――――――――――――

「はあっ……!はあっ……!ふう……」

『人國』から『クイック』を使って……半日近くかかった。

日は落ち、辺りは暗く……深夜であることがわかる。

「……『森國』……!」

奧歯を噛み締め、門に近づく。

「ん?どうしたんだこんな夜中に?」

「ちょっと用事があってな……通してくれ」

「ダメだ。どうしてもと言うのなら、分証明を―――」

「『フィスト』」

「なっ―――がっ?!」

門番の腕を摑み、地面に叩きつける。

短くんだかと思うと、エルフの門番はかなくなってしまった。

「……『クイック』ッ!」

別の門番が來る前に、シャルを探さないと。

町を駆け、屋に飛び乗り、跳ね回る。

「結婚……って事は、王宮……!」

『森王子』と結婚する相手……しかも『人王』の娘だ。その辺の宿ではなく、王宮に泊めるだろう。

それに……あのクソエルフの事だ。シャルを手が屆く範囲にれておくだろう。

「ほんと……この世界の國王ってやつは、どいつもこいつも……!」

文句を言いながら走り回り―――見覚えのある建の前に著く。

……さて……どうやって侵したものか。

「……んな事考えてる時間が惜しい……!『クイック』ッ!『フィスト』ッ!」

腕を振りかぶり、目の前の扉に向けて振り下ろした―――!

―――――――――――――――――――――――――

「侵者は?!」

「わかりません!姿が見當たりません!」

「探せ!エスカノール様に知られればどうなる事か……!」

バタバタと駆け回る兵士……俺は、一室のベッドの下に隠れていた。

『フィスト』でオラオラ暴れてもいいのだが……囲まれて魔法を撃たれれば、武を持っていない俺は簡単に殺られてしまう。

「……行ったか?」

ベッドから出て、扉を開ける。

……よし、誰もいないみたいだ―――

「シャルロットちゃん?」

部屋を出る寸前、あのクソエルフの聲が聞こえた。

「……エスカノール様?」

続いて、優しい聲が聞こえた……聞き間違えるはずもない。シャルの聲だ。

「どうやら侵者が來たみたいでね……大丈夫?」

「はい。それに……エスカノール様が守ってくれますから」

顔を出し、聲の出所を探る。

……くそ……よく見えない……!

「あ……『ルック』」

眼前が明るくなり―――『森王子』の姿が見えた。

実際には真っ暗闇なので……向こうからこっちの姿を見ることはできない。

「それじゃ行くから……何かあったら、呼ぶんだよ?」

「はい!」

満足そうに頷き、『森王子』が1つの部屋の前から去っていった。

……あそこか。

「……よし」

『森王子』が廊下の角を曲がるのを見屆け―――先ほどまで、シャルの聲が聞こえていた部屋の前に立つ。

廊下に響かないよう、優しくノックし、返事を待つ―――

「……どなたですか?」

「俺だ。イツキだ」

「……え?」

『ガチャ』と扉が開き……部屋から、シャルが姿を現した。

「よう、久しぶりだな……とりあえず、中にっていい?」

呆然と見上げるシャルを押し、室る。

もちろん、鍵を閉めるのも忘れない。

後ろ手に鍵を閉め、室を見回した。

「……不自由……とかはなさそうだな」

「えっと……なんでイツキさんが?」

「迎えに來た」

「えっ?」

手を差しべ、安心させるために笑いかける。

「帰ろう……俺たちの場所に」

シャルが手をばし―――

「……は?」

―――その手を、強したたかに払った。

「……シャル?」

「何を……勘違いしているのですか?」

ニコリ……いや、ニヤリと笑うシャルが、ベッドに座った。

「私は、自分の意志でここに來たんです」

「な、何言ってんだよ……『森國』と敵対しないようにするために、1人でここに來たんだろ?」

「ふふ……あはは!だから……言ってるではないですか」

心底憐れむように、慈しむように笑いながら……シャルが言った。

「私は『森王子』と結婚するためにここに來たんです」

「……なん、で……」

「なんでと言われましても……『森王子』に魅力をじた、としか言えませんよ」

……噓だ。

「……『森國』と、敵対しないためじゃ……」

「違いますよ?」

…………噓だ。

「……俺の事、好きだって言ったのは……」

「それは本當です」

「なら―――」

「でも……年頃のの子なら、好きな人なんて、簡単に変わりますよ?」

………………噓だ。

「噓だ……噓だ、噓だ、噓だ噓だ噓だ噓だッ!」

「子どもですか……現実を見てください。私は、自分の意志で行してるんです……邪魔、しないでください」

……………………噓だッ!

「……じゃ、俺……帰るから」

「はい……あ、1週間後に式を挙げるんです!よかったら見に來てください!」

返事をせず、窓から飛び降りる。

「見つけたぞ!侵者だ!」

くな!貴様、何者―――」

「―――『フィスト』ぉおおおオおおおォおおおおぉおオオオおおおおおおおおオおオッ!!」

八つ當たりなのは、自分でもわかっている。

でも……暴れるしか、なかった。

俺は、暴れるしかなかった。

―――――――――――――――――――――――――

「ごめんなさい……!……ごめんなさい、イツキさん……!」

泣きながら、枕に顔を沈める。

「ああでもしないと……イツキさんの事、諦められない……っ!」

お父様が持っていた手紙を見た私は―――イツキさんが『シルフ』にヤられた、あの景が脳裏に浮き出た。

「……私が犠牲になれば、済む話……!」

種族階級が低い『人族』と、魔法の扱いに長けている『森族』が戦えば……いくらイツキさんやお父様がいるとしても、戦爭となれば勝てるわけがない。

「……助けに來てくれて嬉しかったですよ、イツキさん……大好き、です」

その日、私は泣き続けた。

もう會えないであろう、勇者の姿を思い浮かべながら……泣き続けた。

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